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安部 芳絵(あべ・よしえ)/早稲田大学文学学術院助教  略歴はこちらから

中高生には、なにもできない?
子ども支援学から考える復興

安部 芳絵/早稲田大学文学学術院助教

1.震災後、子どもが果たした役割

 震災後の厳しい状況にあって、子どもは希望であった。多くの人々が子どもの笑顔に癒され、救われた。私たちおとなはまた、避難所や仮設住宅で、中高生世代が自ら考え率先して動き、誰かを支える姿を目の当たりにした。親を亡くした高校生が、炊き出しを手伝う姿。自らも被災している中学生が、高齢者を背負って移動を助けるようす。小さな身体で重い水や物資を運んだ子もいる。保育所や幼稚園の再開がままならないとき、「中高生たちが幼い子どもと遊んでくれたから、生活を再建する第一歩を踏み出せた」という親の声もあった。被害が少なかった地域からも、物資の仕分けや泥かき、学習支援などのボランティアに多くの中高生が参加した。

 しかし、東日本大震災から2年が経とうとしているいま、子どもたちが果たした役割が記憶から忘れ去られようとしている。そこで、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが主催し、一般財団法人地域創造基金みやぎが実施主体となって進められているのが、「震災後に中高生が果たした役割の記録プロジェクト」である。このプロジェクトの目的は、中高生が震災後に果たした多くの役割を、忘れられてしまうかもしれない「記憶」にとどめておくのではなく、「記録」として残し、広く社会に伝え共有することである。

 2012年10月11日~2013年1月7日まで、震災後に「中高生が誰かのためにした」、あるいはおとなが「中高生のはたらきをみた」というエピソードを、東北6県を中心に募ったところ、中高生から156通、おとなから49通、合計205通もの声が寄せられた。筆者は応募者のうち数組の中高生へインタビューを実施中であり、それらをまとめた冊子は4月上旬に完成予定である。

2.中高生の役割を奪うまなざし

 ところで、中高生世代をとりまくイメージはどんなものだろうか。

 新聞やテレビ等メディアで取り上げられるとき、中高生は、いじめ、校内暴力、少年犯罪などいわゆる「問題行動」とともに語られてきた。電車の中で化粧をする、公共施設でたむろっている、自転車の乗り方が悪い、道を広がって歩くなど、マナーの悪さという形でも中高生に関する報道が見られる。ところが、3.11以降の短期間ではあるがその風向きが大きく変わった。中高生が避難所を運営する力となり、おとなたちが助けられているさまが毎日のように報道され始めた。それを見聞きし、励まされたおとなも多かった。

 それでは、震災を機に中高生たちが変わったのだろうか。確かに、自分や周囲には大きな変化があっただろう。しかし、中高生よりも変わったのは、情報を伝える側、そして情報を受けるおとなの側ではなかったか。私たち子ども支援の現場にいる者は、被災地かどうかに関わらず、中高生が自分たちなりに考え、行動できることを知っている。だが、多くのおとなはどうであろうか。

 2002年にニューヨークで開催された国連子ども特別総会(UNGASS)では、18歳未満の代表400人による「私たちにふさわしい世界」というメッセージが出された。UNGASSには、ストリートチルドレン、児童労働や虐待の被害にあった子ども、HIV/AIDS孤児も参加したが、彼らは「世界の子どもたちは誤解されている」と訴える。その意味は、「私たちは問題の根源ではありません。私たちは問題解決のために必要な資源です」という一文に凝縮されている。多くのおとなは、中高生を問題の根源として捉えがちである。だが、そのまなざしが、彼らが社会の中で役割を果たす機会を奪っているとしたら、それは非常に残念なことではないか。 

 震災後に中高生が果たした役割を記録する意義は、ここにもある。中高生は問題の根源ではなく、災害復興の主体となりえる力を持っている。東日本大震災からの復興が進む今こそ、その記録を残し伝えなければならない。

3.災害復興に子どもの声を

 1989年に国連総会において全会一致で採択された国連子どもの権利条約は、「子どもにとって一番いいことをしよう」という国同士の約束事である。日本政府は1994年に批准、193という人権条約では最大の締約国を誇り、子どもに関するあらゆることを実施していく際の、いわば「ものさし」である。条約では、18歳未満の子どもは、単なる保護の客体ではなく権利行使の主体として位置づけられているが、災害復興においてはどうだろうか。

 2009年に採択された一般的意見第12号「意見を聴かれる子どもの権利」(CRC/C/GC/12)の「10.緊急事態下における実施」では、たとえ緊急事態下にあっても意見を聴かれる子どもの権利はなくならないこと、そして「緊急事態後の復興において子どもたちが重要な貢献を行えることを示す証拠」が蓄積されつつあることに言及している。今回のプロジェクトは、まさにその「証拠」である。それだけではない。子どもが参加することは、その子自身の回復にもつながる。つまり、子ども参加は、「子どもたちが自分たちの生活をふたたびコントロールできるようにする上で役立ち、立ち直りに寄与し、組織的スキルを発展させ、かつアイデンティティの感覚を強化」するのである。トラウマにつながるような有害な状況から子どもを保護することはいうまでもなく重要である。だが、子ども支援学の視点からそれと同じくらい重要だと考えられるのは、子どもを復興の主体として位置づけ、参加を支えていくことである。子どもは決して「未来を担う」だけの存在ではない。現在を生きる主体としての子どもの声が復興には必要である。

 「みなさんは私たちを未来と呼びます。けれども私たちは現在でもあるのです。」(国連子ども特別総会「私たちにふさわしい世界」より)

 

◆4月上旬発行の「震災後に中高生が果たした役割の記録プロジェクト」冊子をご希望の方は、一般財団法人地域創造基金みやぎ(http://www.sanaburifund.org/)電話022-748-7283までお問い合わせください。

安部 芳絵(あべ・よしえ)/早稲田大学文学学術院助教

【略歴】
1975年 大分県別府市生まれ
2006年 早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学
2009年 博士(文学)(早稲田大学)
2011年 早稲田大学文学学術院文化構想学部社会構築論系助教

専門は、子ども支援学、子ども参加論、子ども支援専門職論。
 現在、子ども参加による復興のまちづくりを支える支援者の専門性とはどのようなものか、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン等の協力を得て調査研究中。調査のたびに、東北の子どもたちから元気をもらっているなぁと実感。家庭では、3人の子どもたちに囲まれてにぎやかな毎日を過ごしている。

『子ども支援学研究の視座』(単著、学文社、2010年、第6回こども環境学会論文・著作奨励賞)
『子どもとマスターする50の権利学習』(共著、合同出版、2006年)
「第4章 “女の子”支援からみえたこと」(分担執筆、村田晶子編著『復興に女性たちの声を「3.11」とジェンダー』早稲田大学出版部、2012年)