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松田 真由美(まつだ・まゆみ)早稲田大学人間科学学術院助教 略歴はこちらから

実はすごい風の力 熱中症を防ぐ夏の暑さ対策

松田 真由美/早稲田大学人間科学学術院助教

熱中症予防、暑さ対策の必要性

 総務省消防庁の発表によると、熱中症で今年5月27日〜7月28日に救急搬送された人は全国で26,860人にのぼる(1)。地球温暖化やヒートアイランド現象などと関係して、熱中症対策は重要な課題である。また地球温暖化対策としては節電の必要性も高まっている。そのようなことから効率的に熱中症を予防し、快適に過ごすための工夫が求められる。本稿では日本生気象学会が発表している「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3(2)や、最近私たちが行っている暑熱環境での実験から、熱中症対策や、暑さをしのぐ工夫についてまとめてみたい。

熱中症の原因、症状

 熱中症の主な原因は脱水と過度の体温上昇である。症状としては倦怠感やめまい、頭痛、吐き気、けいれん等に始まり、重症化すると意識障害、死亡に至るケースもある(2)。しかし、脱水を予防し、過度の体温上昇がおこらないよう対策を講じれば熱中症は防げる。

脱水の予防

 日本生気象学会の「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3では日常生活における水分補給の目安として、日中はコップ半分程度の水分を1時間に1回程度、就寝前、起床時、入浴前後にはコップ1杯(コップ1杯200ml)の水分補給を推奨している。特に高齢者はのどの渇きを感じにくい傾向にあり、のどの渇きを感じる前に水分補給を心がけることが大切である。また運動時や作業時など、大量の汗をかく場合、水分と一緒に塩分を取る事が脱水の予防に大切である(2)

風の威力

 熱中症の予防には脱水の予防に加え、効率的に体の熱を逃がすことが大切である。現在私たちはヒトを対象に頭部や頸部を冷やす実験を行っている。そこで実感するのが風による冷却効果の強さである。特に体温が高く汗をかいている時に扇風機で風をあてると皮膚の温度が大きく低下する。実験では体温を高く維持したいので、被験者は水循環服(衣服の内側にチューブが張り巡らされており、設定した温度の湯を還流できる)を着用し45℃の湯を還流して全身を加温、さらに全身に雨具を着用して通気性が悪い状態にしているが、体温が高く汗をかいている時に顔に扇風機で風を当てると、心臓の後ろで測定している食道の温度も下がる。つまり風を当てると皮膚表面だけではなく体の深部まで冷やすことができる。風による冷却効果は大きい。これは風が汗の蒸発を促進することによる効果であると考えられる。

 汗が蒸発するとき気化熱により体の表面から熱が奪われる。しかし蒸発せずにしたたり落ちる汗には熱を奪う効果はほとんどない。体に風を当てると汗の蒸発を促進し、体にたまった熱を効率よく放散することができる。また広い面積を一気に冷やせることが風による冷却のメリットである。日本体育協会は熱中症が疑われる時、一般の現場では体の冷却方法として全身に水をかけて扇風機などで強力に仰ぐ方法を推奨している。また氷嚢やアイスパックなどを頚、脇の下、脚の付け根など太い血管に当てて冷やすのもよいとされる(3)。熱中症の応急処置としても風を用いた冷却が推奨されている。つまり風は効率よく体の熱を奪う。スポーツ時の熱中症の予防、また家庭やオフィスで快適に過ごすためにも、風の効果を多いに活用してほしいと思う。

オフィスやスポーツ現場でも風の威力を

 環境省では、地球温暖化対策の一環として冷房時の室温が28℃でも快適に過ごすことのできるライフスタイル「クールビズ」を推進している。しかし、室温28℃設定で仕事をしている方の中には暑いと感じている人も多いのではないだろうか。室温28℃は半袖短パンで安静にしていれば暑くはない。しかし少しでも動けば代謝が上がり暑く感じる。28℃のオフィスで快適に過ごすためには工夫が必要である。冷房に加えて扇風機などを使って風を浴びると、汗の蒸発が促進され、涼しさを感じやすくなり、皮膚のベタベタ感も解消できる。扇子やうちわを常備しておくのもよいと思う。

 スポーツ時の熱中症予防、パフォーマンス向上という観点からも、風で熱を放散させることは有効だ。プレーの合間にいかに体温を下げられるかが疲労軽減、熱中症予防において大切である。冷却というとアイスパックや氷嚢を思い浮かべる方も多いかもしれないが、扇風機や大きなうちわ等を用意しておけば選手の体全体を、しかも一人だけではなく複数の人を一度に冷却でき効率的である。

熱中症を発症しやすい人への配慮

 厚生労働省が発表しているデータによると、H22年の熱中症による死亡者数は熱中症の統計を取り始めた昭和39年以降最大であり、1731人が熱中症により死亡し、このうち65歳以上が約80%を占めていた。また熱中症によって死亡したケースの発生場所は約46%が家であった(4)。高齢者は熱中症を発症すると重症化しやすい。また基礎疾患のある人、薬物服用者、肥満者、乳幼児なども熱中症を起こしやすい(2)。そういった熱中症発症のリスクが高い人本人が気をつけることはもちろん、周囲の方々にも配慮をお願いしたい。暑い日は特に、水分をこまめにとっているか、部屋は暑すぎないかなど声を掛け合うことが大切だと思う。

熱中症対策情報

 本稿では現在私達が行っている実験にちなんで、送風による冷却の効果について先に述べたが、熱中症対策としては、気象情報のチェック、必要に応じて冷房を使うこと(特に高齢者の居室は28℃を超えないよう調節する)、暑い日には外出や運動を控えること、こまめな水分補給、日頃の体調管理なども大切である(2)。また暑さへの耐性には個人差があるため、個人差に配慮した対応も求められる。熱中症対策に関する多くの情報がインターネットで収集できる。たとえば本稿を書くにあたって参考にしている「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3は日本生気象学会のホームページから見ることができる。また日本体育協会のホームページでも運動時の熱中症対策が公開されている。環境省も熱中症予防情報を公開している(5)。是非熱中症対策に役立てていただきたい。

 熱中症は対策を講じることで予防できる。熱中症の予防にはこまめな飲水や、効率よく体の熱を放散させることが大切である。効率のよい体の冷却方法として、冷房に加えて風を用いることを推奨したい。暑い日には特に周囲の人と声を掛け合って、夏を元気に過ごしていただけたらと思う。

参考文献・資料

(1)総務省消防庁、熱中症による救急搬送人員
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/heatstroke/pdf/sokuhouti.pdf (参照日2013/07/31)
(2)日本生気象学会、日常生活における熱中症予防指針 Ver.3
http://www.med.shimane-u.ac.jp/assoc-jpnbiomet/pdf/shishinVer3.pdf (参照日2013/07/31)
(3) 日本体育協会ホームページ、熱中症を防ごう(参照日2013/07/31)
(4)厚生労働省、平成22年の熱中症による死亡者数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii10/dl/s08.pdf (参照日2013/07/31)
(5)環境省熱中症予防情報
http://www.wbgt.env.go.jp/ (参照日2013/08/04)

松田 真由美(まつだ・まゆみ)/早稲田大学人間科学学術院助教

【略歴】
茨城県立医療大学保健医療学部卒業、早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。横浜市立大学医学部付属病院看護師、医療法人慈桜会瀬戸病院非常勤看護師、早稲田大学人間総合研究センター客員研究員、University of Wollongong Visiting Fellowを経て現職。

【著書(分担執筆)】
1.L. I. Crawshaw, M. Nakamura, T. Yoda, K. Tokizawa, Y. Uchida, K. Nagashima, 2011, Thermoregulation, P. Auerbach ed. Wilderness Medicine, Mosby/Elsevier, Philadelphia, 104-115
2.中村真由美・彼末一之、2010、温度感覚と温熱的快適感、彼末一之 監修「からだと温度の事典」、朝倉書店、東京、37-39