早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > オピニオン > 社会

オピニオン

▼社会

東出 浩教(ひがしで・ひろのり)早稲田大学大学院商学研究科教授 略歴はこちらから

日本人サラリーマンの幸福とは?
幸せは分け与えれば“倍返し”

東出 浩教/早稲田大学大学院商学研究科教授

 幸せとは何かという定義の話はさておき、「幸せになりたいですか」と聞かれれば大半の人が、もちろんそうだ、と答えるでしょう。

 ならば、日本人は不幸せなのでしょうか。実際はそうとも言えません。私の研究室で数年前に行った調査で、東京の男性サラリーマン400人に、どの程度幸せと感じているかを答えてもらいました。図を見ていただければわかるように、過半数の人はそれなりの幸せを感じています。一方、様々な幸福度ランキング調査では、総じて先進国では北欧諸国やスイスなどが上位に位置し、日本の順位はかなり低いケースがほとんどです。

 各国の環境やカルチャーが、幸せのレベルに影響を与えることもわかっています。日本に住むより多くの人が、より高い幸せを感じるためには、日本の置かれた状況の何かを、少しずつでも変えていく必要がありそうです。

「幸せになるプロセス」をモデル化する

 ビジネスという切り口では幸せに関連する研究は多くないため、社会学や心理学における研究から「働く人の幸せ」に関連する成果をまとめあげたものが図2のモデルです。

 モデルの詳細を説明することは紙面の関係で難しいですが、図2の右半分に「幸せを感じることの効果」がまとめてあります。利他的になり仲間ができる、創造的に働き健康・長寿になるなどいいことずくめです。この「幸せの効果」は、巡って自身の幸福度を高めることになるのですが、皆さんの強い関心事は、当面どうやったら幸せになれるか、つまり図の左半分でしょう。

お金は我々を幸せにしてくれるか?

 よりお金を稼げば、より有名になれば、我々はもっと幸せになれるのか? 答えは、ある一定の収入以上では「ノー」になります。基本的な生活のニーズを満たすまでの段階では、収入の増加に応じて幸福度は急速に高まります。言葉を変えれば、貧困層にとっては、より多くのお金というものは、高い幸せのための必需品なのです。しかし、そのレベルを超えれば、お金では幸せは買えなくなります。

 雇用も大切です。失業の影響は、収入源の喪失に留まりません。働く人の尊厳やアイデンティティ、そして職業経験を通じて培った人間関係までをもが失われてしまいます。個人の力では、全てをコントロールすることはできません。国民国家と言う枠組みが存続するとすれば、誰がどのような役割を果たさなければならないのかは自明です。

無人島に幸せはない

 無人島に一人きり。決して幸せに暮らしていくことはできないでしょう。そこには、信頼に裏付けられた人々のコミュニティがないからです。

 幸せになるための基本ルールとして、しばしば以下の3つが挙げられます。

・愛する人達がいること
・なすべき事があること
・希望が持てること

 家族、親類、友人、同僚そしてビジネスパートナーなど、われわれは多くの縁の中で生きています。かつて松下幸之助氏は、「たらいの水は、掻き寄せれば向こうに逃げる。皆さんのためにと向こうに押しやれば自分に帰ってくる」と言ったそうです。皆さんは、人の喜びを見て、幸せを感じることができるでしょうか。今、流行りの半沢直樹ではないですが、「幸せは、分け与えれば『倍返し』」である事は、科学的にも正しいようです。

時計を見なくても良い仕事

 理想の仕事とは? 時を忘れて働くことができ、一日の仕事が終わり疲れは全く感じない。加えて、仕事を通じて社会に貢献していると感じる「意義のある仕事」を見つけることができれば最高です。

 図3には、先に述べた調査において、サラリーマンの高い幸福度と強い相関を見せた項目がまとめられています。理想の仕事ができる「場」を作り出すには、これらの働く人の「満足を増やす」要因を取り揃えていく必要があります。

 多かれ少なかれSocial Comparison - 自分と他人との比較 - をしてしまうのが、私も含めて、人間です。勝ち負けも含め、他人が幸福でないことを眺め、ほんのひと時の快い感覚を楽しむ我々、という現実は無視できません。

 図4にまとめられている項目は、職場において満足を増やすのではなく、 「不満を減らす」役割を果たすと、調査において追認された要因です。諸外国の研究に比べると、日本では職場の不満を減らすことが、個人の幸福感や企業の高業績に相対的に強く影響を与えており、一層の研究が必要な領域です。

希望に向けて「歩き続ける」ことの大切さ

 最後に、希望の役割を考えて、このオピニオンを締めくくりたいと思います。

 「意義のある仕事」も希望の一つですが、ここでは人生を旅にみたててみましょう。ドストエフスキーの「コロンブスが幸福であったのは、彼がアメリカを発見した時ではなく、それを発見しつつあった時である...」という言葉は示唆に富んでいます。幸せになるためには、希望や夢を実現するために、どのような旅をデザインし実行に移していくのかが大切となってきます。

 「起業家」の研究を振り返っても、人間はどうやら希望や夢の大きさまでしか成長できない生き物のようです。一方、夢の大きさが、常に能力のレベルを上回る状態が続くと、ストレスが不幸を呼び込むこともわかっています。

 「千里の道も一歩から」と言います。大きな夢を達成するための処方箋は、小さな夢の積み重ねへのブレイクダウンです。大きな希望を持ちながらも、小さな達成の喜びを積み重ねていく。このことを心がけながら、グローバル時代の不確実性を、むしろ楽しみながら生きていきたいものです。

東出 浩教(ひがしで・ひろのり)/早稲田大学大学院商学研究科教授

【略歴】
1985 慶應義塾大学経済学部卒業
1985 鹿島建設株式会社入社
1992 英国ロンドン大学インぺリアルカレッジ卒, MBA(経営学修士)取得
1998 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科、講師
2000 英国ロンドン大学インぺリアルカレッジ, Ph.D(経営学博士)取得
2002 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科、助教授
2006 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科、教授
2008 早稲田大学大学院商学研究科、教授

【著作】
『ベンチャー企業の経営と支援』(2004年 日本経済新聞社、松田 修一 (監修), 早稲田大学アントレプレヌール研究会 (編集))、『幸せをつむぐ会社』(2010年 ワンプルーフ、東出 浩教 (著), 大久保 秀夫 (著))、『ボーングローバル起業論』(2011 ワンプルーフ、東出 浩教 (著), 大久保 秀夫 (著))、『創業學:從執行力到幸福力』(2013年 翰蘆、東出浩教(著)、大久保秀夫(著))。