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早田 宰(そうだ・おさむ)早稲田大学社会科学総合学術院教授 略歴はこちらから

「スローシティ」の創り方
大災害後の新しい社会システムとは?

早田 宰/早稲田大学社会科学総合学術院教授

大災害の後に新たな社会を創るまちづくりを

 大災害後に「社会再生」にいかに取り組むかを考えてみたい。社会とは生きていくための場である。固有のつながり、価値観、お互いの行動、慣習、ルール、居場所などを共有している。人は社会なくして生きられない。学校、職場、地域の中には多様な社会がある。仲間がいて、役割が生まれ、帰属意識や生きがいを感じる。少しでも自分のできることで人の役に立ちたいという気持ちから知恵や力を出し行動することで、人は活き生きとする。それによって豊かな地域社会、安定した経済などの秩序やしくみが生まれる。それが地域の「社会システム」を再生する上で重要である。

 にもかかわらず、災害後はどうしても個人の生活再建、経済産業再生、都市計画などが優先されてしまい、「社会システム」の再生は後回しにされがちである。社会は放っておいてもそれなりにできてくるものだという誤解がある。良い社会ができるためには条件づけが必要であることが十分に理解されていない。

 東北各地のコミュニティの再生状況をみてみると、社会再生に取り組んでいるエリアとそうでないエリアが二極化している。都市部は活発であるが、沿岸地域、内陸農村地域は苦しい状況が続いている。各地のコミュニティ活動が危機に瀕し、やむなく休止や解散したところも多い。日常の生きる意味を実感する場や機会を喪失し、体調不良、自殺など震災関連死が増加し続けている。

レジリアンス(回復)の視点

図 社会再生のサイクル概念図

 社会再生とは新たな社会を創っていくことである。3.11の前にただ戻すだけでは意味がない。東北の沿岸部や農村部は、1980年代から人口、産業は右肩下がりになっており、若者は大学や就職で地元を離れるのが普通であり、地域社会はじり貧化していた。やみくもに活性化しようとしても失敗する。より節度ある、より均衡のとれた自律社会を構築することが重要である。

 そこで社会システムを新たに創る注意深い戦略が必要になってくる。そこで災害などのショック後のレジリアンス(回復)という新たな社会再生の科学が重要になってくる。

 社会の共通資源を「回復」「蓄積」「再結合」することによって生き活きと再生していく考え方である。多様な人々が自ら所属するグループを越境して接触し、情報、科学技術、知識を共有し、そこから新しい知・価値・社会・サービスが創り出される。それによって社会が活性化してゆく。地域を動かす知の力は、既存組織や体制に組み込まれているがゆえに、それらを組み換えることで社会を根底から変えていくことができる。新たに求められるまちづくりとは社会との注意深い対話を通じて、お互いによりよく共進化するものでなければならない。そのためには広い視野をもつ創造的な市民と専門家が積極的に協働して地域の文脈を創っていく必要がある。

グローバル回復力で社会システムをつくる

 各地で新たなコミュニティの組織化、多様な主体の連携や協働、象徴の創出、ビジョンやルールづくりに取り組んでいる。しかし地域内部では資源が見つからないこともしばしばである。そこで考えられるのは、地域を超えた交流コミュニティの可能性である。製造業に限らず農林漁業のコミュニティもグローバル化しており、海外からの財政的・人的・知的支援は復元力を確保する上で重要である。

 たとえば、宮城県気仙沼市は、世界港であり、震災前より国内外との多様なネットワークを持っていた。震災後は、早くに海外向けの英語版公式facebookを立ち上げた。仏によるカキ養殖具の提供、ノルウェーへの水産業視察、スペインや韓国との文化交流、英の調査団とのセミナー等がおこなわれてきた。このようなグローバル社会システムを地域が主体となって動かしていくことで、人々は元気を取り戻していった。

スローな社会サイクルをとり戻す

 「社会システム」が機能しはじめると、そこには新たな「社会サイクル」が生まれる。ちょうど企業にとって設備投資サイクルによって景気循環を生み出すのと同じである。社会システムの再生は、社会サイクルに応じて、必要な処方の内容・時期・手順を見極めなければならない。あたかもスポーツ選手が怪我をしたときに、休養、治療、練習再開、復帰するサイクルと似ている。

 社会再生はあせらないことが重要である。個人の生活再建、経済産業再生、都市計画などは効率性が重要であるから急ピッチで行われることが歓迎されるが、社会システムは人々の慣習やモラルに根ざしたものであるがゆえに納得が重要であり、それが醸成されるまである程度の時間を要する。とくに農林漁業地域では、地域社会が基盤にあって経済が成立しているから、社会再生をあとまわしにせず、戦略的に並行してゆくと大きな効果が期待できる。

 気仙沼市では、こうした考えから、復興に弾みをつけるために、伊の「スローシティ」政策の認証を受けた。都市の回復力を養い、社会的な資源を蓄積し、将来へのキャパシティを高め、同時に既存のしがらみにとらわれずに新たな資源を結合させ、多様な機会を創出し、社会のイノべーションを誘発する。このような地域に浸透したまちづくりを支えるためには社会づくりのルール化が必要で、自治基本条例の制定をめざしている。

 社会再生についての議論や取り組みがいっそう各地で広がっていくことを期待したい。

早田 宰(そうだ・おさむ)/早稲田大学社会科学総合学術院教授

【略歴】
1966年生まれ。早稲田大学政治経済学部、大学院理工学研究科博士後期課程退学。東京都立大学助手を経て、現在、早稲田大学社会科学総合学術院教授。博士(工学)。
田野畑村震災復興計画委員、川口市協働推進委員会委員長、新宿区NPO協働推進センター拡大運営委員、横浜市地域まちづくり推進委員会委員

主要な著書:
『文化クラスターとポスト産業社会』(早稲田大学、2014年)、『世界のスローシティ 海沿いのまち』(早稲田大学、2013年)、『共に創る!まちの新しい未来』(早稲田大学出版部、2013年)、『地域協働の科学』(成文堂、2005年)