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高橋 利枝(たかはし・としえ)早稲田大学文学学術院教授 略歴はこちらから

“LINE疲れ”はどこから来るか?
-デジタルネイティブが秘める可能性

高橋 利枝/早稲田大学文学学術院教授

デジタルネイティブ世代と絶え間ないつながり

 現代の若者は生まれた時からデジタル・メディアに囲まれ、多くの時間を携帯電話やインターネット、ゲーム、TVなど多様なメディアに費やしている。そのため、「デジタルネイティブ」[1]や「絶え間ないコンタクト世代(constant contact generation)」と呼ばれ、アナログ時代に生まれた大人たちとの違いが強調されている。総務省の調査(『平成25年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』、2014年)によると、デジタルネイティブと呼ばれる現代の若者は、テレビよりインターネットの行為者率が高くなっている(図1)。またスマートフォンの利用率は6割(10代63.3%、20代87.9%)、ソーシャルメディアの利用率は7割を超えている(10代76.3%、20代91.0%)。私が日本、アメリカ、イギリスでインタビューした若者たちの多くは、携帯電話を枕元において寝て、夜中でも着信があると電気も付けずに携帯電話の明かりで友だちからのメールやソーシャルメディアに返信やコメントをしたりしていた。

 このようにデジタル世代である現代の若者は、スマートフォンやソーシャルメディアとのエンゲージメント(関わり)が高く、時空を越えて絶え間なくつながっている。何故、若者たちは絶え間ないつながりを求めるのだろうか?そしてソーシャルメディアはどのような新たなチャンスとリスクを創り出しているのだろうか?

図1 主なメディア機器の平均利用時間と行為者率

※テレビ(リアルタイム):機器を問わず録画を除いた全てのリアルタイム視聴
※行為者率:平日はそれぞれの調査日ごとにある情報行動を行った人の比率(利用割合)を求め、平均した値(休日は調査日1日の比率を算出)
出典 総務省情報通信政策研究所『平成25年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』、2014年。

ソーシャルメディアのチャンスとリスク:Line, Twitter, Facebook

 現在、日本の若者に最も人気があるソーシャルメディアはLineである(10代70.5%、20代80.3%)(総務省、2014前掲)。その人気には3つの理由がある。1.無料。2.閉じたコミュニケーション空間。3.スタンプによる感情の共有。2013年に私の研究室で行った高校生と大学生を対象にした調査では、Lineは親しい人との連絡や仲間内の空間、結びつきの強化などのために利用されており、友達や家族のような「ウチ」を強化する役割を果たしている。社会人類学者である中根千枝(『タテ社会の人間関係-単一社会の理論-』講談社現代新書、1967年)によると、日本社会において差異を越えウチの同質性を保つためには「直接接触的(tangible)」で「感情的(エモーショナル)なアプローチ」がとられるという。インターネットが普及した現代社会では、Lineのような閉じたコミュニケーション空間の中での絶え間ない接触とスタンプを交えた感情の共有によって、友達や家族の親密性を強化させている。オンラインとオフラインを交えた絶え間ないつながりによって空気やウチ、同調の圧力という日本の社会的規範が再構築され、集団のアイデンティティが強められているのである。

 一方、オープンなコミュニケーション空間であるTwitterは、友達情報を得たり、新たなネットワークを構築したり、暇つぶしや発散などのために利用している。また、Facebookは、友達情報や暇つぶしに加え、写真や投稿の共有、昔の友達や海外にいる人などソトとのつながりとしても利用している。さらに実名制のため様々な写真を用いて「印象管理」[2]を行なっている。このように現代の若者は異なるソーシャルメディアをマネジメントしながら新たなチャンスを得ているのである。

 しかしながらソーシャルメディアによる絶え間ないつながりは、同時に新たなリスクも生んでいる。アメリカの精神科医シェリー・タークル(Turkle, S. (2011) Alone Together: Why We Expect More from Technology and Less from Each Other. New York: Basic Books.) は、絶え間ないつながりへの期待とともに育った最初の世代である10代の若者は、対話ではなく単なるつながりを求めており、つながらないことに対する新たな不安を抱えていると警鐘を鳴らしている。ソーシャルメディアへの依存はアメリカばかりでなく、日本においてもLineの既読機能が、「感情的(エモーショナル)なアプローチ」と「絶えざる人間接触」を加速させ、「ライン疲れ」や依存など新たなリスクも生じている。

 このようにソーシャルメディアは、絶え間ないつながりによる親密性の強化やネットワークの構築、共有や印象管理など新たなチャンスを生んでいる一方で、いじめや中傷、プライバシーの侵害、デジタルタトゥー(永遠に消えない情報)、ストーカー、依存や中毒などリスクも生んでいるのである。そのためデジタルネイティブと呼ばれている現代の若者であっても、チャンスを最大限に享受し、リスクを最小限にするためには、急速に変動する現代社会に対応した新たなデジタル・リテラシー教育が必要とされるであろう。

ソーシャルメディアとグローバルなつながり

 ソーシャルメディアによるウチの強化は、日本の若者の内向き志向に拍車をかけ、ナショナリズムを高めるだけなのだろうか? 最後に、グローバル社会におけるソーシャルメディアの可能性について触れておきたい。Lineは2014年4月には世界で計4億人を突破し(内、日本の利用者数は5千万人)、その8割以上は海外の利用者である。FacebookやLineのような世界的に普及しているソーシャルメディアでは、国内ばかりでなく、国境を超えたつながりによって、「遠くの他者」と親密なコミュニケーションを行っている人もいる。情報や感情を絶えず共有することによって、親密性と情緒的な絆が生まれ、遠くの他者はいつしか「近くの仲間」へと変わっていくかもしれない。ソーシャルメディアはローカルなウチを強化する一方で、混沌とした今日のグローバル世界を同時代に生きる「他者」とつながり、相互理解を深めることによって、言葉や文化的な差異を超えた新たなグローバルなウチを創造するチャンスも秘めているのである。

注1)デジタル時代に生まれ育った人たちのこと。ハーバード大学ロースクールのパルフリィ教授ら(Palfrey, J., & Gasser, U. (2008) Born digital: Understanding the first generation of Digital Natives. New York: Basic Books. )は、デジタルネイティブを、1980年以降に生まれ、デジタル技術にアクセス可能で、「デジタル・リテラシー」を身に着けている人と定義している。
注2)印象管理(impression management)とはアメリカの社会学者アーヴィン・ゴフマンによる概念であり、人々が隠すべきものと見せるべきものを選別し、それによって他者が自分に対して抱く印象を「管理」したり操作したりすることである。

高橋 利枝(たかはし・としえ)/早稲田大学文学学術院教授

【略歴】
東京大学大学院社会学研究科修士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカルサイエンス大学院博士課程修了Ph.D.取得。現在、早稲田大学文学学術院教授。2010年オックスフォード大学客員リサーチ・フェロー。2010-2011年ハーバード大学ファカルティ・フェロー。IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)オーディエンス研究部門副部門長。米学術雑誌”Television and New Media”(Sage)編集委員。主な著書は単著書として"Audience Studies"(Routledge,2009)、共著書として“The Language of Social Media”(Palgrave, 2014)、"Deconstructing Digital Natives"(Routledge, 2011)、"International Handbook of Children, Media and Culture"(Sage, 2008)。主な単著論文は「デジタルネイティブを越えて」(Nextcom, 2014 summer)、‘MySpace or Mixi? Japanese Engagement with SNS (Social Networking Sites) in the Global Age’(“New Media and Society", Sage, 2010)、「デジタル・ネイティヴと日常生活―若者とSNSに関するエスノグラフィー」(情報通信学会誌,2009)他多数。現在、オックスフォード大学教育学部とともに「若者とメディア」に関する国際比較研究を行なっている。

高橋利枝オフィシャルウェブサイト:
http://blogs.law.harvard.edu/toshietakahashijp/