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守口 剛(もりぐち・たけし)早稲田大学商学学術院教授 略歴はこちらから

人の行動は外的要因で変化する
~食器のサイズと買物カゴの影響~

守口 剛/早稲田大学商学学術院教授

 人の行動にはさまざまな外的要因が影響している。物理的なキャパシティはその1つである。コーネル大学のブライアン・ワンシンクは次のような実験によって、人が食べる量に対する物理的キャパシティ:ここでは容器の大きさ:の影響を調べた(B. Wansink(2006), Mindless Eating: Why We Eat More Than We Think.)。彼は、土曜日の午後1時5分開始の映画を見に来た来場者に対して、ソフトドリンクとポップコーンを無料で提供した。ポップコーンのサイズはMとLの2種類であり、そのどちらかが来場者に提供された。この実験によって彼は、来場者がポップコーンを食べる量が、MサイズかLサイズかという器の大きさに無意識のうちに影響されるか否かを確かめようとしたのである。

 しかし、この実験では留意しなければならないことが1つあった。渡された容器に入っているポップコーンをほとんどの人が食べ切ってしまったら、実験の意味がなくなってしまう。そこで、彼は次のような工夫を行った。まず、容器サイズについては、どちらも1人で食べ切るには大きいMサイズとLサイズを対象とし、分け合うことがないように1人に1個ずつ配布した。もう1つの工夫は、午後1時過ぎ開始の映画を見に来た人を対象としたことだ。この時間帯であれば、多くの人が昼食を終えた後だと考えられ、容器の底をつくまでポップコーンを食べるような旺盛な食欲はないことが想定される。さらに、提供したポップコーンにも鍵があった。ポップコーンは作り立てのものではなく、5日前に作られ無菌の状態で保存されていたものであった。しけた不味いポップコーンであれば、なおさら全部を食べつくす人はいないだろうというわけだ。

 このような条件で実験が行われ、映画終了後にそれぞれの人が残したポップコーンが計量され、そこからお腹に入れた量が計算された。この結果、Lサイズを渡された人は、Mサイズの人よりも平均で53%多くの量を食べたことが分かった。さらに、Lサイズが渡された人に対して、「容器サイズが大きかったことが自身の食べた量に影響したと思うか?」と聞いたところ、ほとんどの人は「そんなことはない」と回答したという。ワンシンクは、他にもさまざまな実験を通じて、食器やスプーンの大きさが食べる量に影響することを見出している。

 人の行動が物理的キャパシティに影響されるという現象は、消費者の買物行動においても見ることができる。今から20年近く前に、筆者はあるコンビニエンスストアと共同で買物行動の調査を行なったことがある。この調査から、買物客1人当たりの買上個数の分布が図1のようになっていることが分かった。買上個数1個と2個が共に約25%。3個、4個、5個と増えるにしたがって、構成比が下がっていく。図では6個以上をまとめて集計しているが、実際には6個、7個・・・と個数が多くなるにしたがってさらに構成比が下がっていく。

 コンビニエンスストアは、今すぐに必要なものを買いたいという消費者ニーズに応える店舗である。したがって、スーパーマーケットなどのように、一度にたくさんの商品を買おうと思ってお店に来る人はそれほど多くない。図1の分布も、このようなコンビニにおける買物行動の特徴を反映している。

 一方で、図1のような分布が見られる背景に、物理的な制約が存在している可能性もある。コンビニでは、買物カゴを持たずに買物をしている人が多いため、1個か2個ならば両手で商品を持つことができるが、3個、4個と増えるにしたがって手では持ちにくくなる。このことが買物の個数の制約になっているかもしれないということだ。

 実際に、対象となったコンビニでカゴを持って買物をしている人の割合を調べると、全体のわずか12%しかいなかった。また、カゴを持って買物した人の買上個数の分布を算出すると、1個よりも2個、2個よりも3個、そして3個よりも4個の構成比が高く、6個以上購入者が50%近くいることが分かった。

 もちろん、上記のことは、もともと多くの商品を買おうと思って店にやってきた人がカゴを取って買物をした結果だと考えることもできる。しかし逆に、たまたまカゴを手に取った人が、そのことによって3つ、4つと多くの商品を買うに至ったのだとみることも可能だ。おそらくは、その両方の要素があいまって、上記のような分布になったのだと考えられる。

 この結果を踏まえてこのチェーンでは、カゴの利用率を高めるために、店の入口のところだけでなく、店内のいくつかの箇所にカゴを配置するという実験を行った。この実験によって、カゴを利用する買物客の比率が増加し、結果として店舗全体の売上が向上することが確認され、この施策はチェーン全体に導入された。この結果も、上述したポップコーンと同様に、物理的なキャパシティが人の行動に影響を及ぼすことを表している。

 物理的なキャパシティのような外的要因に、人の行動は無意識のうちに影響を受けている。逆からみれば、外的要因を変化させることで自分自身の行動をコントロールすることも可能だということになる。ついつい食べ過ぎたり、飲みすぎたり、買い過ぎてしまう。筆者も含めて、こうした類の反省の機会が多い方々は、自分自身の行動に影響を与えている外的要因を制御することを考える必要があるかもしれない。

守口 剛(もりぐち・たけし)/早稲田大学商学学術院教授

【略歴】
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、東京工業大学大学院理工学研究科経営工学専攻博士課程修了、博士(工学)。立教大学などを経て、2005年より現職。2012年9月から大学院商学研究科長。日本消費者行動研究学会会長、日本商業学会副会長などを歴任。
主な著書に、「プロモーション効果分析」朝倉書店、「消費者行動論~購買心理からニューロマーケティングまで」(共編著)八千代出版、「マーケティング・サイエンス入門」(共著)有斐閣、「セールス・プロモーションの実際」(共著)日経文庫などがある。