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長谷見 雄二(はせみ・ゆうじ)早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

防災から考える2020年の国際都市・東京

長谷見 雄二/早稲田大学理工学術院教授

 このところ、2020年東京オリンピックが決まったり虎ノ門⇔新橋の通称マッカーサー道路が開通して突然、外国のような風景になったりと、東京が国際都市に激変する渦中にいるかのようだ。訪日外国人も長い間、年間800万人程度だったのが2013年には1000万人を超え、その目標も1500万人とされていたのが、2500万人とか3000万人とかいう数字が公然と語られている。

東京の地域防災力

 一方で、日本では、近い将来、首都直下地震をはじめ、いくつもの大地震の発生が予想されている。集中豪雨や豪雪など、気象災害も頻発している。もともと、日本は、人口密度が高い国土に色々な災害性の地球物理的現象が発生する災害大国だ。ビル火事を含め、大きな災害を経験してきた。3.11以降、政策として国土強靭化が謳われているが、膨大なインフラや市街地を強靭化するには時間も必要だ。しかも、地域災害の際の対応や復興には被災を免れた他地域からの支援が不可欠だが、首都圏は巨大なので、首都圏が広範囲に被災した場合、他地域からの支援の効果には自ずから限界があり、災害時の対応や復興についても、首都圏の中で基本的な組織づくりができることが必要である。3.11では、震源から遠い東京等でも、建物自体は被害を受けなくても家具什器の転倒等で機能を喪失したり、設計等でビル面積の有効活用を追及した結果、ビル人口の割に階段等の面積が小さく、屋外への退避に深夜までかかった大型高層ビルもあった。災害時の事業継続(BCP)の重要性が叫ばれているが、見過ごされている盲点は少なくないだろう。オリンピックや国際化という文脈でにわかに注目されるようになったベイエリアも、面積の割に低い交通のリダンダンシー、災害発生時の被害抑制が難しい密集地区・工業地区の存在など、災害対応にほころびがあった場合の影響は予測しがたいものがある。

高齢化と防災

 どんな災害でも人的被害は高齢者や幼児に集中するものだが、2020年といえば、いわゆる団塊の世代が古希以上となり、日本の高齢者(65歳以上)人口が3500万人前後でほぼ定常状態に達する。その5年後には75歳以上人口も約2000万人で定常化しそうだ。日本の高齢化率が世界一になったのはそんなに前のことではないが、オリンピックまでの6年間は、日本の高齢化が更に世界で断トツになる6年間でもあるわけである。

 日本の大都市の高齢化が進んだ最近の10年余の間にバリアフリー化が急速に進んだが、2012年に都心のデパートで高齢者・障がい者など、階段歩行に困難のある客数の調査を行ったところ、売り場によっては全客数の10%近くと、総合病院の外来部門と大して変わらない結果となって驚いた。日本でバリアフリー化が政策として検討され始めた1990年代初期は、デパートにおける歩行困難者率は0.2%にも達しなかった。もう、店員の機転で避難を支援すれば良いという段階を超えているのではないか。こうした施設でバリアフリー化を支えている標準メニューはエレベータだが、災害時にはエレベータは危険だから使えないとすると、これだけ多くの歩行困難者は、火事や地震が起こっても地上まで自力では避難できないことになる。バリアフリー化は進んでも、災害時のバリアフリー化はまだまだである。東京都知事の諮問機関で私が部会長を務めている火災予防審議会では、昨年、高層建物等の各階に火災から安全なスペースを設けて、高齢者等が階段を使わなくても避難できるようにし、更に必要に応じて非常用エレベータ等で地上まで避難できるようにする手法の導入を答申して、先ごろ、都心の総合病院でその第一号が実現した。もう一歩踏み込んで、地震や火事でも安全に利用できるエレベータくらいは開発・実用化したいものだ。

外国人観光客も災害弱者

 さて、高齢者や幼児が災害の被害を受けやすいのは、災害の状況の認識と被害回避の合理的な行動の両方に困難があるからだが、それは、災害時の放送が理解できず、地震や台風等の経験のない外国人にも当てはまる。日本に来た外国人が、震度2くらいの地震で腰を抜かす場面を何回も見ているが無理のないことだ。年間訪日外国人が3000万人になってもまだフランスやアメリカの半分にも及ばす観光大国とはいえないようだが、災害大国であることは免れない。そして、訪日外国人がどんどん増えるということは、当然のことだが、初めて来日する人が増え、これまで日本にはほとんど観光客が来なかった地域からの訪日者が増えるということで、その分、災害弱者度は高まる。年間訪日外国人数が高齢者人口に迫るような時代になれば、外国人に向けた防災対策を基本から考えなければならない。

 日本の高齢化はオリンピックの頃に定常化に向かうと予想されているが、訪日者数の多い韓国、シンガポール、中国、タイは10~20年遅れくらいで同じような高齢社会になるだろう。いずれも、防災については日本以上に上の空で高層化を競い合っているが、気が付いてからの高齢化の速度は日本よりも更に速いはずだ。オリンピックでは、せめて、高齢者、障がい者、訪日外国人が安全に生活できる防災バリアフリーの東京を披露できるようにならないものだろうか。

長谷見 雄二(はせみ・ゆうじ)/早稲田大学理工学術院教授

【略歴】
1973年早稲田大学理工学部建築学科卒業。1975年早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修士課程修了。
1975年建設省入省 建築研究所研究員。1982年工学博士(早稲田大学)、
1983年米国商務省国立標準技術研究所客員研究員(1年間)、1987年建設省建築研究所第五研究部防火研究室長を経て
1997年建設省建築研究所辞職、 早稲田大学理工学部建築学科教授 現在に至る

専門分野
建築・都市防災

書籍
「災害は忘れた所にやってくる 安全論ノート――事故・災害の読み方」 工学図書(2002)
「火事場のサイエンス~木造は本当に火事に弱いか~」 井上書院(1988)
「ホモ・ファーベルの建築史~アメリカ建築物語」 都市文化社(1985)