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大月 友(おおつき・とむ)早稲田大学人間科学学術院准教授 略歴はこちらから

発達障害の理解と支援:
みんなに心地よい環境を目指して

大月 友/早稲田大学人間科学学術院准教授

1)はじめに

 「発達障害」という言葉が最初に注目されるようになったのは、小学校や中学校などの学校現場です。2002年に文部科学省が実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」では、通常学級に在籍する6.3%の児童・生徒に、発達障害の可能性のある特別な教育的支援が必要という結果が示されました。この結果は、学校教育の中で彼らをどのように支援していくのかという課題を教育関係者につきつけました。そして、近年では、いわゆる大人の方々への支援についても議論されています。このように、「発達障害」という言葉が注目されるコミュニティは年々ひろがりを見せ、広く認知されるようになってきました。とはいえ、一般の方々にも知れ渡っているかといえば、まだまだ「言葉くらいは・・・」という状況だと思います。そこで今回は、発達障害とはどのような障害なのか、そして、どのような支援が必要か、簡単に紹介してみたいと思います。

2)発達障害とはどんな障害?

 2004年に成立した発達障害者支援法では、発達障害を「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」としています。それぞれの障害に特有の認知面の困難があり、それによって日常生活の中で問題が生じやすいが、知的発達の遅れがない場合も多い、といった共通した特徴があります。ここでいう「認知」というのは、簡単に言うと、外の情報を見たり聞いたりして、自分で考えて、動く、といったプロセスになります。我々が社会生活を送る上で、非常に重要な機能であるといえます。発達障害を抱える方々は、この部分に障害を抱えるために、生活する上でさまざまな困難を抱えやすく、うまくいかないことが多くなってしまいます。

3)うまくいかないことの理由は?

 たとえば、学校場面において、発達障害の子どもには、クラスの他の子どもたちと“同じことができない”、あるいは“違うことをしてしまう”といったことがしばしばおこります。そして、何らかの問題が示された場合、周囲の人はついつい「発達障害だから」と、うまくできない理由をその個人の障害にだけ結びつけてしまうことがあります。もちろん、彼らには苦手なこともありますが、そのような障害の特性だけを、彼らがうまくできないことの原因とする見方は正しいのでしょうか?ちょっと別の角度から考えてみましょう。たとえば、足が不自由で車いすを利用している方が、最寄り駅にエレベーターがないため電車に乗ることができない、という問題があったとしましょう。この方が電車に乗れない理由はなんでしょうか?足が不自由だからという個人の特徴だけでしょうか?この例であれば、別の要因も見えやすいと思います。駅にエレベーターがないこと(環境側の要因)も影響していそうですよね。このように人が関わる問題を考える際には、その個人だけに焦点を当てるのではなく、個人を取り巻く環境側の影響も含めて、大きな視点で考えなければなりません。発達障害を抱える方々の日常の困難を考える場合も、同様の視点が必要になります。

4)ポイントは環境を整えること

 発達障害を抱える方々が、社会の中でうまく適応できないといった問題を示している場合、その環境側の要因にも目を向ける必要があります。たとえば、“耳から入ってきた情報を頭の中で覚えておく”ということが難しい場合、学校で帰りの会に“明日の持ち物を先生が口頭で伝える”といった状況だと、そのような特徴を持つ子どもはすぐに忘れてしまい、連絡帳に書くことができず、忘れ物をしやすくなってしまいます。このように、忘れ物をするといった問題の背景には、個人要因(聴覚情報の処理のむずかしさ)と環境要因(先生の口頭による注意伝達)の両方の要因が絡み合っています。そのため、環境要因を調整して、発達障害の方々にもやりやすい状況をセットすることが支援のポイントとなります。たとえば、この例の場合であれば、先生が“明日の持ち物は板書する”などの支援が考えられます。逆に言えば、環境側が発達障害の方々の特徴も考慮した状況をセットすれば、個人要因があったとしても問題は生じないことになります。そして、そのような環境側の配慮は、決して発達障害の方々だけのためになるのではなく、多くの人々にとってもやりやすい(分かりやすい)環境になります。これは、駅にエレベーターが設置されれば、足の不自由な方だけでなく、ベビーカーを使っているママ、杖を使っているお年寄りにも優しい環境になるのと同じです。ただし、発達障害の方が抱える認知面の困難は、外からは分からないことが多いです。そのため、環境側は障害特性に対する適切な知識を持つことが大切になります。

大月 友(おおつき・とむ)/早稲田大学人間科学学術院准教授

【略歴】
1980年千葉県生まれ。筑波大学第二学群人間学類卒業。新潟大学大学院教育学研究科修士課程、広島国際大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程修了。2008年早稲田大学人間科学学術院助教、2010年専任講師、2013年准教授となり現在にいたる。専門は行動分析学で、主に言語と心理面・行動面の関連について研究。その他、臨床心理士として臨床実践(臨床行動分析・応用行動分析)も行なう。主な書籍として、ACTハンドブック(分担執筆:星和書店)、アクセプタンス&コミットメント・セラピー第2版(監訳:星和書店)などがある。