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石田 光規(いしだ・みつのり)/早稲田大学文学学術院准教授  略歴はこちらから

自由だけど不安さのつきまとう人間関係

石田 光規/早稲田大学文学学術院准教授

人間関係は“薄く”なったのか?

 2010年にNHKスペシャルで『無縁社会』報道がなされて以来、孤独や孤立は多くの人に注目されてきました。しかし、人間関係の希薄化や孤立化を証明することは、そう簡単ではありません。親友の人数や相談する相手の有無を尋ねた社会調査の結果を見ても、その傾向は一貫しておらず、孤立化や希薄化の論拠としては今ひとつです。

 その一方で、私たちがこれまで最も“頼りにしてきた”人間関係である家族のつながりは、明らかに揺らいでいます。図1は国勢調査から算出した生涯未婚率および単身世帯率の推移です。これを見ると、単身世帯率は1955年から一貫して、生涯未婚率は1985年から急速に伸びていることが分かります。今や結婚して家族を作り、共同生活を営むというのは、“当たり前”ではなくなりつつあります。

図1 生涯未婚率、単身世帯率の推移
注1:国勢調査から算出した。
注2:生涯未婚率が左軸、単身世帯率が右軸。

 人間関係の希薄化や孤立化の兆候は明確には見えないけど、家族関係は確実に揺らぎつつあるという事実から、現在社会の人間関係について二つのことが言えます。関係の選択化と孤立・孤独への不安の拡大です。以下では、それぞれについて簡単にみていきましょう。

選択化する関係と新たなつながり

 あくまで大雑把に述べると、私たちは、“個人の決定できる範囲を拡大すること”を社会として目指してきました。身につけるものから進路まで、その範囲は多岐にわたります。人間関係についても例外ではなく、かつてのムラ社会的な関係は閉鎖的・拘束的なもの、克服すべきものとみなされてきました。人間関係は、今や、自らの好みや目的に応じて維持・形成するものとなりつつあります。

 このような流れが徹底されれば、家族を“大人であれば形成して当たり前のもの”としておくのは難しくなります。家族を形成するかどうか、形成するならばどのような家族を築き上げるか、そうしたことは個人の決定と関係者同士の調整に委ねられます。家族がそれぞれ個人の決定による“嗜好品”に転じれば、それを“作ろうとしない人”“作ろうとしてもできない人”が増えても不思議ではありません。

 その一方で、これまで見られなかった“つながり”も可能になります。同性愛への社会の許容性は、かつてに比べると格段に増しました。シェアハウスやコレクティブハウスのように、家族を形成せずに営む共同生活も見られつつあります。また、情報通信端末の普及は、特定の目的を共有する人びとの接続を容易にしています。まとめると、現在社会は、家族や地域、会社といったこれまでの関係の縮小分を、自己選択的に形成した関係で補う社会と言えるでしょう。

関係不安の拡大

 このような関係は、自らの好みにぴったり合った“理想の相手”を見つけられる魅力があります。しかし、関係の選択化にも、当然ながら負の側面はあります。関係不安の拡大です。

 自らの好みや気分に応じて付け替えのできる関係は、自由度が高く、とても魅力的に見えます。しかし、そのさい、相手も同じ条件を持っていると考えたらどうでしょうか。かりに、自らの築いた関係が、相手の好みや気分で即座に付け替えられる可能性があるとしたら、ひどく落ち着かないでしょう。関係の選択化は、選択的であるゆえに“相手から選んでもらえないかもしれない不安”を連れてきてしまうのです。

 さきほど、関係の希薄化や孤立化についての証明は難しいと述べましたが、私たちの社会が孤立や孤独に敏感になっていることは、ある程度証明できます。図2を見てください。この図は、二大新聞(読売新聞、朝日新聞)のデータベースをもとに、両紙に「孤立」または「孤独」という言葉を含む記事が現れた件数をまとめたものです。

図2 朝日新聞、読売新聞の孤立・孤独報道の件数(1984年~2014年)
注:朝日新聞は「聞蔵ビジュアルⅡ」、読売新聞は「ヨミダス文書館」から検索した。

 この図を見ると、孤立・孤独を報じた記事は、若干の上下動はあるものの、1984年からほぼ一貫して増えていることが分かります。ここから、私たちの社会が孤立や孤独という話題に敏感になっていることがわかります。結婚に乗り遅れまいと大挙して婚活にいそしむ中年世代、「ぼっち」という言葉を生み出し、「一人でいること」を過度に意識する若者世代には、選択的な関係への不安が投影されているのです。

 加えて、情報通信端末の進歩は、電話帳や「いいね」などの機能を通じて、現時点での友人数、他者から受けられた承認の数、相手からの応答の速さなどをすべて可視化しました。不安が拡大するなかで、今までグレーゾーンのなかにあった人気、受容度の可視化は、私たちの不安を一層煽り、ケータイ・スマホへの没入を促します。私たちは、“お好みの相手を探す自由”と引き替えに、“自らが選ばれないかもしれない不安”を関係の中に引き込んでしまったのです。

石田 光規(いしだ・みつのり)/早稲田大学文学学術院准教授

【略歴】
1973年神奈川県生まれ。東京都立大学大学院社会科学研究科単位取得退学。博士(社会学)。大妻女子大学専任講師、准教授を経て2014年より現職。著書に『つながりづくりの隘路』(勁草書房)、『孤立の社会学』(勁草書房)ほか。