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「不平等」な学歴獲得競争

松岡 亮二/早稲田大学高等研究所助教

 家庭環境によって子どもの学力や学歴が異なることは広く知られるようになってきました。確かに、親が大卒であれば子も大卒となる傾向にありますが、これは自動的に生じるわけではありません。私の研究テーマは、どのように世代間の学歴再生産が生じているのか、そのメカニズムをデータに基づいて明らかにすることです。不平等が世代間伝達する経路は数多く考えられるのですが、ここでは私自身が行ってきた14編の査読付き論文に基づいて概観します。それぞれの詳しい内容については引用文献をご参照ください。

「みんな」が習い事?

 学力や学歴獲得競争のスタートラインは平等ではありません。育つ家庭によって、学校で高い成績や評価を得ることに有利な子がいる一方、そうでない子たちがいます。では、家庭によって何が異なるのか。世帯収入(経済資本)や親学歴(文化資本)などを含む社会経済的地位(socioeconomic status)によって、異なる子育てが行われています。たとえば、日本では習い事をする小学生が非常に多く、「みんな」が何かをやっている印象があるかもしれませんが、図1にあるように親学歴によって参加有無(1つでも参加しているかどうか)の割合に差があります1)。特に小学校入学前ですでに大きな学校外教育の経験格差が存在します。学齢が上がると親学歴による差は縮小しますが、図2にあるように、習い事の種類数だと、特に未就学から小学校1年生の段階で拡大傾向にあります。

「誰」が努力?

 このような直接的な教育選択以外でも学校での高い評価に繋がる家庭間の行動格差があります。たとえば、親の読書量によって子の読書量が異なります2)。また、家庭の社会経済的地位によって親の学校参加が異なり、この格差が子どもの学校適応を左右します3)。さらには、図3にあるように、親学歴による小学生の学校外学習時間の差は学齢が上がるにつれて拡大します4)。この学習時間(努力)格差は親学歴によって異なる子育て戦略によって部分的に説明できます。

 初期の家庭環境による差が、小学校時代を通して習い事量、読書量、学校適応、学習時間などの格差に変換されながら子の学校での評価を分化するわけです。中学校段階でも学力5) や行動6)には家庭環境を土台とする差異がありますし、「恵まれた」生徒が平均的に多い中学校のほうが教員による成績への期待も高いこと7)がわかっています。ただ、他国と比較したとき、日本の義務教育制度、特に小学校段階では学校間の違いが少ないので、学校教育の中では格差の再生産を押しとどめる作用が強く働いているといえます。しかし、その状況は義務教育終了によって大きく変わります。

「誰」が進学校に?

 まず、高校入学後3か月の時点で、約4人に1人が数学を学校外で(宿題も含めて)一切勉強していません8) 。これは他の数十の国々と比べるとかなり高い割合です9)。この国際的に高い割合は、高校受験という学力選抜によって学力偏差値別の高校に振り分ける教育制度と関係があると考えられます。

 図4に示すように、偏差値の高い進学校は「勉強ができる生徒が通う学校」でもあるのですが、「家庭環境に恵まれた生徒が多く通う学校」でもあることがわかります10)。15歳の高校受験のときに家庭環境によって学力格差があるので、学力で生徒を特定の学校に集めることは、結果的に、学校間の家庭環境格差を大きくすること――社会経済的背景による分離 (socioeconomic segregation) を意味しているのです。

 似た家庭環境の生徒が集積することで各学校に異なる規範が形成されます。高い成績を取ることが「良いこと」であり、大学進学が当たり前という規範を(主に)家庭で育んだ生徒ばかりが集まる進学校に通うことは、学力とは別に、高校入学後の早い時期における予備校や補習参加という選択を後押しします11)。授業外学習時間も、高校偏差値とは別に、学校の社会経済的地位によって分化します12)。この状況は高校3年生になっても同じで、進学校に通う生徒は大学進学期待を持ち受験勉強に駆り立てられます13)。「誰」が通っている学校なのかによって、生徒の学習行動や教育期待が変わるのです。

「現実」の把握を

 初期の家庭環境の格差は、様々な経路を通して生徒の学力・行動・意識・期待などを左右します14)。このような様々な過程を経ることで、出身家庭による有利不利は見えづらくなるわけです。では、家庭環境による影響を弱めて、現状の「不平等」な競争状態を解消することはできるのでしょうか。政策的に直接的な介入が可能なのは学校教育ですが、まず、居住地域によって住民の教育熱15)、それに、どのような家庭環境の子が多い学校かによって教員の抱える困難さが異なる16)という現実に向き合う必要があります。医者が患者を診療する際、どこがどの程度いつから痛むのかを確認することから始めるように、適切なデータ収集によって、どのような学校・地域が家庭環境による困難に直面しているのか把握しなければなりません。また、投薬や手術の後に経過観察するように、同じ生徒・学校を追跡調査して、どんな政策や教育実践に効果があるのか、実証的に明らかにしながら部分的に改善していく地道な努力が求められます。残念ながら、現状では日本にそのような具体的な対策の土台となるような包括的な縦断データは存在していません。「現実」がよくわからないまま「不平等」な学歴獲得競争は今日も続いているわけです。適切なデータの収集、蓄積、分析によって、一人でも多くの子どもたちの潜在可能性を最大限に引き出せる公教育を実現する日が来ることを、一研究者として願っています。

参考文献・資料

^ 1)図1と図2は厚生労働省による「21世紀出生児縦断調査」によって作図。「大卒」には短大卒を含みます。詳しくは下記論文をご参照ください。松岡亮二 (2016) 学校外教育活動参加における世帯収入の役割: 縦断的経済資本研究. 教育社会学研究, 98, pp.155-175.
^ 2)松岡亮二・中室牧子・乾友彦 (2014) 縦断データを用いた文化資本相続過程の実証的検討. 教育社会学研究, 95, pp.89-110.
^ 3)松岡亮二 (2015) 父母の学校活動関与と小学校児童の学校適応: 縦断データによる社会関係資本研究. 教育社会学研究, 96, pp.241-262.
^ 4)図3は厚生労働省による「21世紀出生児縦断調査」によって作図。「大卒」には短大卒を含みます。詳しくは下記論文をご参照ください。Matsuoka, R., Nakamuro, M., & Inui, T. (2015) Emerging inequality in effort: A longitudinal investigation of parental involvement and early elementary school-aged children’s learning time in Japan. Social Science Research, 54, pp.159-176.
^ 5)Matsuoka, R. (2014) An empirical investigation of relationships between junior high school students’ family socioeconomic status, parental involvement and academic performance in Japan. 理論と方法, 29 (1), pp.147-165.
^ 6)Matsuoka, R. (2013) Socioeconomic inequality between schools and junior high school students' non-academic behavior: a comparative investigation of compulsory education systems using TIMSS 2007. 比較教育学研究, 47, pp.140-159.
^ 7)Matsuoka, R. (2014) Disparities between schools in Japanese compulsory education: Analyses of a cohort using TIMSS 2007 and 2011.Educational Studies in Japan: International Yearbook, 8, pp.77-92.
^ 8)Matsuoka, R. (2013) Learning competencies in action: Tenth grade students' investment in accumulating human capital under the influence of the upper secondary education system in Japan. Educational Studies in Japan: International Yearbook, 7, pp.65-79.
^ 9)Matsuoka, R. (2013) Comparative analysis of institutional arrangements between the United States and Japan: Effects of socioeconomic disparity on students' learning habits. 比較教育学研究, 46, pp.3-20.
^ 10) 図4はPISA2012の日本データで作図。生徒の数学学力を各学校で平均化し「学校の学力偏差値」(平均50、標準偏差10)とした。同様に生徒の社会経済的地位を示す変数(Index of economic, social and cultural status)を各学校で平均化して「学校の社会経済的地位(偏差値換算)」を作成した。
^ 11)Matsuoka, R. (2015) School socioeconomic compositional effect on shadow education participation: Evidence from Japan. British Journal of Sociology of Education, 36 (2), pp.270-290.
^ 12)Matsuoka, R. (2013) Tracking effect on tenth grade students' self-learning hours in Japan. 理論と方法, 28 (1), pp.87-106.
^ 13)Matsuoka, R. (2015) Gearing up for university entrance examination: Untangling relationships between school tracking and high school seniors' educational expectations and efforts. 早稲田大学高等研究所紀要, 7, pp.29-40.
^ 14) 下記などをご参照ください。苅谷剛彦 (2001) 階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会へ: 有信堂高文社. /苅谷剛彦 (2012) 学力と階層 (朝日文庫). 東京: 朝日新聞出版.
^ 15) Matsuoka, R., & Maeda, T. (2015). Attitudes toward Education as Influenced by Neighborhood Socioeconomic Characteristics: An Application of Multilevel Structural Equation Modeling. Behaviormetrika, 42(1), pp.19-35.
^ 16) Matsuoka, R. (2015) School socioeconomic context and teacher job satisfaction in Japanese compulsory education. Educational Studies in Japan: International Yearbook, 9, pp.41-54.

松岡 亮二(まつおか りょうじ)/早稲田大学高等研究所助教

【略歴】
ハワイ大学マノア校教育学部博士課程教育政策学専攻・修了。教育学博士号。
2012年度:東北大学大学院文学研究科 グローバルCOE「社会階層と不平等教育研究拠点」 COEフェロー。
2013年度:情報システム研究機構・統計数理研究所 調査科学研究センター 特任研究員。
2014年度~:早稲田大学 高等研究所 助教。

【受賞歴】
日本教育社会学会 国際活動奨励賞(2015年)。
早稲田大学ティーチングアワード(2015年春学期「学校教育と社会」)。