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川口 有一郎(かわぐち・ゆういちろう)/早稲田大学大学院経営管理研究科教授  略歴はこちらから

持ち家と賃貸どちらが得か?-理論と実際―

川口 有一郎/早稲田大学大学院経営管理研究科教授

持ち家と賃貸は経済的にはおなじである―経済理論―

 持ち家の住居費(ローン返済、設備修繕・維持費、および固定資産税等)は、例えば東京都の全世帯平均で、1か月あたり約9万円である(平成22年東京都調査)。

 この住居費に減価償却費(建物と設備の価値が月々減少する費用)と住宅価格の月々の変化率を加味した費用を持ち家の「資本コスト」と呼ぶ。例えば、マンションの建物部分が毎月2万円減価し、「将来の住宅価格」が月1.5万円のスピードで上昇し、またこのマンションが東京都にあるとすると、この持ち家の資本コストは約月額8.5万円(=9万円―2万円+1.5万円)である。

 一方、賃貸住宅のコストは「家賃」である。例えば、東京都の民営借家の1か月あたりの家賃は約8.5万円である(平成20年および25年の住宅統計調査)。このマンションの例では家賃=資本コスト(=月額8.5万円)となる。つまり、持ち家と賃貸は経済的にはおなじである。

 投資の経済理論によれば、賃貸の家賃と持ち家の資本コストは等しい。持ち家だと家賃を支払わなくて済む(住宅サービスの限界便益)。その一方で、資本コストを支払わなくてはならない(住宅サービスの限界費用)。住宅の購入者はこれらを等しくする。なぜなら、経済学では限界費用と限界便益が一致するように家計はサービスを消費すると考えるからである。

どちらが得かは時代によって異なる―実際―

 実際には、持ち家と賃貸とでどちらが得かは時代によって異なる。家賃はほとんど変動しないが住宅価格は大きく変化するからだ。このことは上記のマンションの例において、家賃を一定とし将来の住宅価格を大きく変化させると、もはや家賃と持ち家の資本コストは等しくはならい。住宅価格が下落すると資本コストが家賃より大きくなるので賃貸がお得である。逆に、住宅価格が上昇すると持ち家が有利となり逆転する。

 1990年代は賃貸が有利であった。例えば、東京の民営借家の家賃はほとんど変化しなかった(年率+0.3%:1993年~2003年)。住宅の価格は家賃に比べれば暴落した。例えばバブル崩壊の期間(90年~95年7月)、東京の中古マンション価格は年率約-18%も下落、また住宅価格デフレの時代(95年8月から03年9月)には年率約-6%と下落した。

 このように住宅価格が暴落する中で持ち家を購入した人々は「まさかこんなに下がる」とは予想していなかった。「そのうち上がるだろう」という楽観のもとに持ち家を購入したのだった、住宅価格デフレの終わりを確認するには首都圏では2003年まで待たなければならなかった。地価がいまだに下げ止まらない地方(33の県)ではいまだに持ち家の資本コストは高止まりしている。

今はボックス圏相場である-持ち家の資産価値は中古住宅価格で判断する―

 ところで、図1は首都圏の新築分譲マンション価格と中古マンション価格指数の推移(1993年6月~2016年4月)を示したものである。これら2つの住宅価格指数のうち、住宅の「資産価値の変化」を把握するにはどちらの価格(指数)を用いるべきだろうか?その答えは中古住宅価格である。理由は簡単である。あなたが購入した住宅はすでに新築ではないからである。また、同一物件の新築価格は言うまでもなく一回限りである。投資において必要な情報は同一物件の異なる時点の価格(再販価格)の変化である。図1の中古マンション価格指数はこの変化をとらえるように設計されている。

 また、この中古マンション価格指数は株価指数(TOPIX)と比較できるように設計されている。図2は2003年1月を基準(=100)として中古住宅価格とTOPIXを相対化したものである。このグラフには興味深い事実がいくつか示されている。最初に気が付くことは、TOPIXの「底値」が常に中古マンション価格指数にほぼ等しいことである。

 このことは、図2の全期間を通じてTOPIXが「ボックス圏相場」であることと関連がありそうだ。TOPIXは固定された天井と中古住宅価格で示される底の間を変動している。また、前述したように首都圏の住宅価格は2003年にデフレから脱却したが、その後はTOPIXと同様に(振れ幅の小さな)ボックス圏相場を形成している。

 図2に示すように、2004年、2009年、および2012年の3つの時点はこのボックス圏の底である。首都圏の住宅市場が今後もボックス圏に留まるのであれば、この3つの時点に持ち家を選択したことは正しい判断となろう。将来の住宅価格が購入価格を下回ることがないからだ。

図1:首都圏の新築分譲マンション価格と中古マンション価格の推移
出典:日本不動産住宅価格指数および不動産経済研究所データを用いて筆者作成

図2:中古マンション価格と株価の推移
出典:日本不動産住宅価格指数およびTOPIX(Quick Astra Manager)を用いて筆者作成

具体的な投資判断―持ち家のハードルレートは15%―

 最後に、持ち家の具体的な投資判断の方法を示そう。

 まず、購入を検討している物件の総合収益率を求める。総合収益率はインカム・リターンとキャピタル・リターンから成る。インカム・リターンは、「家賃節約額」を「頭金」の価格で割ったものである。ここで家賃節約額とは、家賃から持ち家の住居費を差し引いたものである。また、キャピタル・リターンは、持ち家の将来の値上がり益(あるいは値下がり損)である。

 次に、その機会費用を求める。これは頭金を住宅の購入ではなく他の同等のリスクをもつ機会(事業や資産)に投資していたら得られたであろう収益率である。持ち家投資における機会費用の一つとして住宅特化型のJリート(住宅リート)の総合収益率が考えられる。例えば、2010年代の住宅リートの総合収益率(ハードルレート)は年率平均約15%である(2010年3月~2016年6月)。

 上記で求めた頭金の総合収益率とハードルレートを比較する。持ち家の総合収益率が15%を越えるなら賃貸ではなく持ち家を選択すべきである。持ち家購入に投下する頭金の純増を通じて、この購入者の富が増えるからである。

 このように持ち家の購入を通じて富を増やすためのハードルは高い。現代はそういう時代だと考えたほうがよさそうだ。

川口 有一郎(かわぐち・ゆういちろう)/早稲田大学大学院経営管理研究科教授

早稲田大学大学院 ファイナンス研究科科長
東京大学にて工学博士の学位取得。2004年早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。日本不動産金融工学学会会長。早稲田大学国際不動産研究所所長。アジア不動産学会理事。財務省財政制度等審議会国有財産分科会臨時委員。主な著書に『不動産金融工学』(清文社、2001年)、『リアルオプションの思考と技術』(ダイヤモンド社、2004年)、『不動産エコノミクス~資産価格の7つの謎と住宅価格指数』(清文社、2013年2月)「不動産マーケットの明日を読む~2020年に向けての不動産・住宅投資戦略の論点」(日経BP社、2015年、共著)など。