早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > オピニオン > 社会

オピニオン

▼社会

羽田 真(はだ・まこと)/早稲田大学本庄高等学院教諭  略歴はこちらから

組体操の重大事故を防ぐために
―体育行事における学校の安全配慮義務

羽田 真/早稲田大学本庄高等学院教諭

 10月の第2月曜日は体育の日である。天候が安定するこの時期は、運動会や球技大会などの体育行事を実施する学校も多い。青空の下、校庭を全力で走り、声を枯らして応援したのを懐かしむ方や、観覧に出かけて我が子の活躍ぶりに目を細める方もいるだろう。

巨大化する組体操の是非

 これらの体育行事でとりわけ注目を集める演目が組体操である。難易度が高く訓練が必要な技を、大人数で一体となり成功させることができれば、観客を感動させ、生徒たちは他に代えがたい達成感を覚える。その教育効果の高さもさることながら、イベントに盛り上がりを添える「華」としての役割もあって、組体操の巨大化・高層化が目立つようになった。一方で、大人数でのピラミッドやタワーなどの技の危険性も議論の的となっている。練習や本番で生徒が重傷を負う事故が相次いで報じられたからだ。

 昨年9月には、大阪府の中学校で男子157人が10段のピラミッドを作ろうとしたところ一気に崩れ、生徒が骨折する事故が起きた。人数や体重を考えれば、土台になる生徒にかかる負荷は過大なはずである。10段の高さも勘案すると、崩落すれば生徒の身体に危険が及ぶであろうことも想像に難くない。それにもかかわらず、指導で大きな事故は防げるとの過信により、このような組体操を実行したことへの学校の責任は重い。

学校の安全配慮義務

 学校事故が起きると、その責任の所在が問題となる。民事訴訟となるケースも少なからずあり、近年では安全配慮義務違反を理由として賠償を命じる裁判例が増えている。安全配慮義務とは、学校は生徒が事故なく安全に生活できるよう配慮しなければならないという義務であり、生徒と学校設置者の間にある在学契約に付随するものとされている。予見される危険を回避するための適切な指導がなされず、その結果として生徒が怪我をしたような場合に、学校設置者は(私立学校であれば教員個人も)国家賠償法または民法に基づく賠償責任を問われることになる。

続出する高額賠償判決と厳格に判断される学校の義務

 事故の被害者に深刻な後遺障害が残り、裁判の結果、学校側が億単位の賠償義務を負うことになったケースもある。いくつか例をみてみよう。サッカーの大会中に起きた落雷被災をめぐる訴訟では、裁判所は生徒が在籍していた私立高校などに約3億700万円の賠償を命じた(高松高裁2008年9月17日)。事故当時、雨はやみ上空の大部分も明るくなっていたが、教師は落雷の危険性を予見して事故を回避するための措置をとるべきだったと判じられた。また、テニス部員が練習中に熱中症のため倒れた例では、約2億2900万円の請求が認められた(大阪高裁2015年1月22日)。この事故が起きたのは5月末で、一般的には熱中症の可能性が認識されにくい季節だった。しかし、顧問の教員には熱中症を防ぐための具体的な指導をするべき義務があったと判断された。体育祭の騎馬戦での転落事故をめぐる訴訟では、県に対して約2億円の賠償を命じる判決が出された(福岡地裁2015年3月3日)。学校は、殴る・蹴る行為の禁止やラグビー用ヘッドキャップの着用指示、組み合う1対の騎馬ごとの審判教員配置などで安全への配慮を尽くしたと主張した。しかし、裁判所はそれでも不十分であったとして退けた。

 これらの例が示すのは、重度後遺障害が発生しうるような危険性があるとき、学校の安全配慮義務はとりわけ重く課せられるということだ。平均的な教師の認識では十分なレベルといえないかもしれない。しかし、安全であるべき学校で生徒を危険にさらすことを是認してはならないとすれば、厳しいと思われる判決も妥当なのである。

最優先は生徒の安全確保

 話を戻そう。体育行事での組体操の巨大化・高層化はどこまで許されるのか。ピラミッドやタワーの土台は人間であり、時には誰かが何かの拍子に耐えられなくなることも、バランスを崩してしまうこともある。運動会のような学校行事では、体育を担当しない教師も指導に加わることが多く、専門的知識に基づいた確実な安全指導も容易でない。そうであれば高さを制限するしかない。

 厚生労働省の定める労働安全衛生規則等を参考にしてみよう。それによると、高さ2メートル以上の箇所での高所作業をさせる際には、墜落事故に備えて作業床の設置や安全帯・保護帽(ヘルメット)の装着といった措置が必要であるという。熟練した大人でさえも高さ2メートルで危険があるというのだから、中高生に何の装備もさせないまま3段以上の不安定なタワーを作らせることは明らかに不適切だろう。

 互いのために思いやり、耐える過程で成長し、一体感や達成感が得られることを理由に、組体操の規制に反対する声があるのも事実だ。しかし、見るものの感動や教育効果のために、最優先であるべき生徒の生命や身体の安全を犠牲にしてよいはずがない。大阪市などで決まったピラミッド・タワーの禁止や、段数制限といった自治体主導の動きを前向きに評価したい。制約の中でも生徒が成長できるプログラムを考えることこそ、学校の果たすべき役割である。

羽田 真(はだ・まこと)/早稲田大学本庄高等学院教諭

2005年早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。桐蔭学園中等教育学校教諭を経て2009年より現職。日本スクール・コンプライアンス学会、法と教育学会会員。早稲田大学教育総合研究所兼任研究所員、日本私学教育研究所委託研究員、本庄市行政不服審査会委員。

論文に「国家賠償法1条2項における「重過失」」『教育と研究』34号(2016年)、「学校事故の民事責任―部活動中の落雷被災と引率指導者の安全配慮義務―」『教育と研究』33号(2015年)、「高等学校の生徒寮における安全配慮義務」『教育と研究』31号(2013年)、「いじめ自殺をめぐる親の情報請求権と学校の調査報告義務」『早稲田大学大学院法研論集』126号(2008年)他。