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原田 宗彦(はらだ・むねひこ) 早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

プロ野球観天望気
―スポーツビジネスへの転換を―

原田 宗彦/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

 日本におけるプロ野球はどこへ向かうのだろうか?「夕焼けだったら明日は晴れ」「カエルが鳴いたら明日は雨」といった具合に、明日の天気を、自然現象や生物の行動から占うことを観天望気と呼ぶが、ここでプロ野球の未来を、今起きている現象から占ってみよう。

 まず、パリーグで起きている地域密着型経営の導入による人気と実力の均衡という現象がある。プロ野球人気は下降気味と言われているが、2004年の球界再編以来、パリーグの人気は大きく伸びている。これまで、セリーグに比べて人気面で大きく後れをとっていたパリーグであるが、いち早くスポーツマーケティングを活用した地元ファン志向の球団経営を目指した。例えば、04年に本拠地を移転し、地域密着型経営に乗り出した日本ハムの場合、05年から07年にかけて平均観客数が20,083人から25,459人へ、そして年間総観客数が137万人から183万人に増加した。また経営改革に乗り出したロッテも、スポーツビジネスに長けた外部人材を積極的に採用し、それぞれ133万人から156万人、そして19,616人から21,645人へと観客数を大きく伸ばした。今期、観客数が1.2倍に増えた西武もしかりである。

「Jリーグ」手本に新風

 プロ野球の地域密着型チーム運営は、実はJリーグの経営がお手本になっている。日本ハムの藤井社長は前セレッソ大阪(現在はJ2)社長であったことや、ロッテの華やかな応援が、浦和レッズの応援を参考にしたことは案外知られていない。北海道全土にファン層を広げていった地域貢献活動や、ロッテの26番目の選手(TEAM26)としての応援などは、これまでのプロ野球にはなかった新しい発想を取り入れたものである。

 ファン志向の動きは、読売ジャイアンツにも及んだ。これまでチケットを売る苦労のなかった読売であるが、退潮傾向にある人気を回復するために、今年は「大学生のベースボールビジネスアワード2008」を実施し、観戦者人口を増やし、視聴率を回復するための方策を公募した。筆者は審査委員長として選考に関わったが、営業やマーケティングが必要なかった球団が、積極的なアイデア募集を行う背景には、ファン獲得に向けた、積極的な球団経営への転換姿勢が見て取れる。

視聴率低迷のジレンマ

 ただ、地域密着化がプラスに働かないケースもある。それが、テレビ視聴率の低迷である。その理由は簡単で、地域密着化が進むということは、それぞれの地域に人気チームが生まれる一方、かつてのジャイアンツのような全国区チームが出現しにくくなるジレンマを抱えるということである。これはプロ野球のJリーグ化とでも言うべき現象である。ただし人気が先行するセリーグはともかく、地域密着化は、確固たるファン基盤を持たなかったパリーグのチームが選択できる、数少ない成長戦略のひとつであった。

 その結果、パリーグでは戦力的均衡が生まれ、人気も平準化している。実際、リーグ優勝チームは、2003年から2008年まで、ダイエー(現ソフトバンク)、西武、ロッテ、日ハム、日ハム、そして西武と4チームで争われているし、昨年最下位争いをした西武とオリックスが、今年は首位争いをするなど、セリーグに比べて順位の変動は大きい。

国際化対応、難しい舵取り

 次は野球の国際化という現象であるが、野球には「国際野球連盟」(IBAF)があり、サッカーやラグビーのようにワールドカップを開催している。しかしこの大会は、メジャーリーガーが参加しないアマチュア野球主導の大会である。それに対して、メジャーリーガーの出場を前提にした真の世界一を決める大会がWBCで、2006年の第一回大会で日本が初代チャンピオンとなった。IBAFは、形の上ではサッカーのFIFAやラグビーのIRBと同じようなIF(国際連盟)であるが、プロ野球組織を包含していないという点で、FIFAやIRBに比べて組織のパワーは劣る。

 それゆえ野球のワールドカップは、日本人やアメリカ人の興味の外にある。その一方、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、米国のメジャーリーグ野球機構が国際化戦略のために画策した商業的な世界大会であり、リーグを中断せずに開幕直前に行われる。ただ、この大会に参加する選手の負担は大きく、メジャーリーガーの場合、レギュラーシーズン162試合に加え、ディビジョンシリーズ、リーグチャンピオンシリーズそしてワールドシリーズにフル出場した場合、選手は最大181試合をこなすことになる。ほぼ2日に1回野球をする勘定で、代表選手に選ばれるとこれにWBCの出場数が加わる。

 野球の国際化については、日本人選手の流出問題や、それにともなう国内リーグの競争力低下、そしてメジャーリーグへのスポンサー投資の流出など、グローバリズムによる弊害も起きている。それゆえ今後のリーグ経営には、グローバリズムの波にうまく乗りながら、国内リーグの競争力を高めるという難しい舵取りが求められる。ただ日本のプロ野球には、病を根本治療するための中長期計画もなく、症状や苦痛を和らげる対症療法のみが施されているのが現状であり、企業スポーツ的な財務体質からスポーツビジネスへの転換が求められている。

原田 宗彦(はらだ・むねひこ)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】

1954年 大阪府に生まれる
1977年 京都教育大学特修体育学科卒
1979年 筑波大学大学院体育研究科修了
1984年 ペンシルバニア州立大学体育・レクリエーション学部博士課程修了
1987年 鹿屋体育大学助手
1988年 大阪体育大学講師
1995年 フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)
1995年 大阪体育大学大学院教授
2005年 早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【社会的活動(現行のもの)】

アジア・スポーツ・マネジメント学会(AASM)会長
日本スポーツマネジメント学会会長
日本スポーツ産業学会理事
社団法人日本フィットネス産業協会理事
Jリーグ経営諮問委員会委員
bjリーグ経営諮問委員会アドバイザー
独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター業績評価委員
中央教育審議会スポーツ・青少年分科会スポーツ振興に関する特別委員会委員
中央教育審議会スポーツ振興投票特別委員会委員(2008年6月より)
文部科学省国立競技場の在り方に関する調査研究委員会委員(2008年4月より)
大阪府生涯スポーツ推進協議会委員
新潟県スポーツアドバイザー 自由民主党スポーツ立国調査会アドバイザリーボード委員(2008年4月より)

【主な著書】

「スポーツマーケティング」スポーツビジネス叢書 I、大修館書店
「スポーツマネジメント」スポーツビジネス叢書 III、大修館書店
「公共サービスのマーケティング」(訳書)遊時創造
「スポーツ産業論第4版」杏林書院
「スポーツ・レジャーサービス論」健帛社
「スポーツ経営学」大修館書店
「スポーツイベントの経済学」平凡社新書145
「アメリカ・スポーツビジネスに学ぶ企業戦略」(訳書)大修館書店
「図解スポーツマネジメント」大修館書店