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平田 竹男(ひらた・たけお)早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

WBC二連覇 今こそ日本にとって外交の時

平田 竹男/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

 日本中を熱狂させた第二回ワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)。 原監督のもと一致団結し臨んだ日本代表は、前回王者の重圧を撥ね退け、見事優勝を成し遂げた。まずは素晴らしい戦いぶりを称えたい。

 延長戦の末、日本が連覇を成し遂げた韓国との決勝戦は、日本時間の昼間の時間帯ながら瞬間最高視聴率が45%にまで達するなど、改めて日本における野球人気を確認した大会であった。WBCの熱気は大会前から伝わってきた。原JAPANの宮崎合宿には連日4万人を超えるファンが押しかけ、東京ラウンドが行われた東京ドームは満員となった。

 私は、今回のWBCを総括するにおいて、キーワードが3つあると考えている。ひとつは「MLB主催」もう一つは、「日韓戦」、最後に「オランダの躍進」である。

「MLB主催」と「野球版FIFA」

 まずWBCを語る上で外せないキーワードが、「MLB主催」であることだ。

 私は、MLBが大会を主催するうちは、真の国際大会とは言えないのではないかと思う。どうしてもMLBが収益を上げられれば良いという構造になってしまうからである。世界の野球連盟を統治する団体の必要性を感じた。例えばサッカーでは、FIFA(国際サッカー連盟)が代表の国際試合を管轄しているほか、陸上ではIAAF(国際陸上連盟)が、スキーでもFIS(国際スキー連盟)がW杯や世界選手権を主催している。野球に関しても、「野球版FIFA」が必要だろう。五輪から外れた一つの原因はここにあると感じている。そもそもMLB主催のWBCですらアメリカ代表に主力選手が出場していないのに、五輪で主力選手が出てくるとは考えづらい。WBCに関しても、今のままアメリカ主導で行っている限り、本当の意味での国際大会にはなれないだろう。

 「野球版FIFA」を作ることを考えた時に重要なことは、日本が主体的に動くことである。なぜならアメリカを除けば、日本ほど野球が文化として、そして人々に感動を与えるエンターテイメントとして根付いている国はない。放映権の市場、ビジネスの規模も大きい。国際大会の統括を行う国際連盟作りをするに当たって、アメリカを納得させられるポテンシャルを持った国は日本しかないことを意識するべきだろう。日本がリーダーシップを取った「野球外交」に期待したい。

日韓戦、アジアでの仕掛け

 次に、「日韓戦」について触れよう。大会期間中疑問が沸いた方も多いのではないか。また韓国とやるのか?と。なにしろ今回のWBCで韓国とは5試合もしている。

 韓国と5試合もした理由は、トーナメントの組み方にある。
簡単に言えば敗者復活ルールがあるのである。一度負けても連敗しなければ次のラウンドへと上がれる。これは、強豪国が1次もしくは2次ラウンドで一度負けてしまった場合のセーフティネットとも言えるだろう。日本も例外ではない。それくらい日本の市場は大きい。テレビ放映権も高く売れる。日本が決勝ラウンドに進めなかった場合の損失は大会を主催するMLB機構にとっても重大である。言い換えれば、日本から手に入るテレビマネーに対する一種のギャランティーが、このトーナメント方式なのである。

 サッカーでもしかりなのだが、韓国と本気でぶつかり合うと、必ずと言って良いほど盛り上がる。これは素晴らしいことだ。私は日本サッカー協会専務理事時代に代表戦のマッチメイクを担当していたのだが、日韓戦を多く組んだほか、東アジア選手権という大会を作った。2002年W杯共催で出来た両国の交流を継続させたかったということもある。そして彼らは日本相手だと本気で向かってくる。両者のモチベーションの高い試合は観客も見ていて面白い。今回のWBCでは中国のレベルアップも目立った。東アジア全体が、協力しながら野球を盛り上げていければ良い。日本が中心となって「東アジアベースボール選手権」を開催するなど、アジアにおいて様々な仕掛けを作り出していくべきだろう。サッカーにおけるアジアに対する仕掛けに関しては、専務理事時代のサッカー日本代表のマッチメイクを私の著作、「サッカーという名の戦争~日本代表、外交交渉の裏舞台~」(http://www.shinchosha.co.jp/book/313831/)で解説している。興味が沸いた方はぜひ読んでみてほしい。

オランダの躍進と野球人気

 3つ目のキーワード、「オランダの躍進」についてだが、1次ラウンドで優勝候補のドミニカ共和国を2度も破る番狂わせを起こし、一躍日本でも有名になったのがオランダ代表だ。優勝候補の国を、野球があまり盛んではない欧州の国が2度も破るというのは、野球の国際化という意味では価値があるだろう。ただし認識しておくべきは、オランダ代表の選手のほとんどはオランダ領のカリブ諸島出身であるということだ。イタリア代表も米国出身者が多くを占めていた。彼らの活躍が本国で報道され、人々が野球に興味を持ってくれるならそれは素晴らしいことだ。

 最後にWBCで盛り上がった野球人気が、プロ野球にどう繋げられるかということに関しても触れておきたい。代表戦はこれだけ盛り上がる。野球人気自体は決して沈んでいないということである。しかし、気をつけなければいけないのは、決してプロ野球人気もWBC効果で盛り上がるとは限らないということだ。WBCの効果で春先は観客動員の出足が良いかもしれない。問題は、WBCで野球に興味を持ってくれたお客さんがスタジアムに来てくれたときに、満足させる試合が出来るか、楽しめる環境を提供できるか、である。プロ野球の試合を魅力的なライブエンターテイメントにしていく努力が不可欠である。前回WBCの優勝は、結局プロ野球人気回復の起爆剤とはならなかった。最近では景気の悪化もあり、企業スポーツの撤退が相次いでいるが、プロ野球も例外ではないだろう。経済面での逆境と、WBCの追い風の中、どうマネジメントしていくのか。今回の優勝に喜ぶだけではなく、それを「敗北」ととらえた上で、次のマネジメントに期待したい。

平田 竹男(ひらた・たけお)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】

1960年、大阪府生まれ。1982年横浜国立大学経営学部卒。同年通商産業省(現経済産業省)入省。1988年ハーバード大学ケネディスクール卒(行政学修士)。1989年から1991年まで産業政策局サービス産業室室長補佐。1991年から1994年まで外務省へ出向し、在ブラジル日本大使館一等書記官。帰国後はエネルギー政策などを担当し、中東やカスピ海諸国との交渉にあたる。2002年に資源エネルギー庁石油天然ガス課長を最後に経済産業省を退官し、2002年から2006年まで、(財)日本サッカー協会専務理事。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授。工学博士(東京大学)。