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内田 直(うちだ・すなお)早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

時差ぼけ(ジェットラグ症候群)を克服

内田 直/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

 近年の、アスリートの国際化に伴って、我々の研究室では時差ぼけを克服する方法をアスリートに応用しています。時間帯の異なった地域に、ジェット機で急に移動した場合に、眠く体のだるい中で試合に望むのでは、良い結果は期待できません。これを精神力で克服するだけでなく、科学の力をつかって、克服するところにスポーツ科学の醍醐味があります。我々はこのような時差ぼけ克服法をオリンピック選手にも応用して、良い結果を得ています。しかし、このような知識はアスリートに限らず、仕事をしてとんぼ返りしてくるビジネスマンにも十分応用できる知識であることは間違い有りません。この時差ぼけ克服法について解説いたしましょう。

西向き飛行と東向き飛行

 飛行機で海外旅行をする場合、日本からですと、ヨーロッパ行き、アメリカ行き、そしてオーストラリア行きの三つを考えてみましょう。ヨーロッパへは西向き飛行、アメリカへは東向き飛行、そしてオーストラリアへは南向き飛行となります。ほぼ同じ時間かかる飛行の場合、飛行機の中ですごす旅の疲れは同じですが、時差ぼけの起こり方は異なっています。もちろん、オーストラリアへの旅行では時差はほとんど無く、したがって時差ぼけはありません。2時間程度の時差は、体感されない場合が多いです。

 ヨーロッパへの旅行は西向き、アメリカへは東向きの飛行となります。西向き飛行と東向き飛行ではどちらが時差ぼけは大きいでしょうか。これは、多くの方々がすでに経験されておられるように、東向き飛行のほうが時差ぼけは辛いことが知られています。この理由は、例えば8時間の時差のある地域のことを考えてみると分かりやすいと思います。ここでは日付変更線のことは考えず、たとえば、今日本が昼の12時なら、東向き飛行の地域は8時間後の午後8時、西向き飛行の地域は8時間前の午前4時と考えましょう。さて、そうすると次のような関係になります。東向き飛行の8時間時差のある地域で夜11時に眠ろうとすると、日本では午後3時です。体の中にある体内時計がまだ午後3時なのに、さあぐっすり眠りましょうと言われても、なかなか眠れないのは当たり前です。その後、暗い中で悶々としていると、6時間くらいして明け方の5時ころに、日本の午後9時の時刻に体内時計が達し、少し眠気がでますが、すぐに起きる時刻となってしまいます。東向き飛行ではこのように、日本の午後11時になるのは、現地時間の午前7時で、これから仕事をしなければならないときに眠い時間が始まるわけです。これに対して、西向き飛行は楽です。西向き飛行では現地の午後11時は日本の午前7時ですから、通常は旅の疲れもあり、現地では午後9時ころ眠ってしまいます。これは日本の午前5時ですから、精一杯夜更かしして眠るのと同じような形になるわけです。多くの場合は、早起きしてしまいます。これも、社会的には好ましい行動で、いつもは夜更かしの人も早寝早起きになるわけです。

東向き飛行の克服法

 では、どのようにして東向き飛行の時差ぼけを克服したらよいのでしょうか。まず、日本を出発する前に、なるべく現地の時間帯に体をならすことです。これは忙しいビジネスマンにとってはなかなかやりにくいと思いますが、基本は早寝早起きをするということになります。7時に起きている人であれば、毎日一時間くらいずつ早起きにして、4時かできれば3時くらいまで持っていければベストです。その際に、これを効率的に行う方法として明るい光(高照度光)を浴びる方法があります。これは、2000ルクス以上という強い光を起き抜けに一時間くらい浴びるという方法です。光は、蛍光灯の光でもかまいませんが通常の室内光では2000ルクスは無いので、高照度光療法器を使います。「高照度光療法」のキーワードでインターネット検索をおこなうと情報を得ることができます。毎日起きる時間を早め、起床したあとに光を浴びる時間帯も早めていくわけです。じつは、早朝浴びる光には生体時計を早める作用があります。したがって、ただ単に早起きするのと比べて、光を浴びることには歴然とした効果の違いがあります。

飛行機の中での過ごし方

 もう一つ大切な事は飛行機の中での過ごし方です。通常、西海岸行きの飛行機は、夕方出発します。そして現地の朝到着するわけです。飛行機の中での過ごし方のTIPSを示しておきましょう。

・日本の空港で出発前に時計を現地に合わせる
自覚的な時刻も、生体リズムに影響を与えます。日本の空港で、現地の時刻に時計をあわせて、自覚的にも現地の時刻で早めに過ごすようにしましょう。

・なるべく眠る。
時差ぼけの一つの原因は、旅の疲れがあります。眠らず、アルコールを飲みながら映画を見ているのではなく、なるべく眠って疲れが残らないようにしましょう。

・水分をよく取る。
飛行機の中は一般に乾燥しています。長時間水分を取らないと、軽い脱水状態になり、さらには血液が濃縮して血栓のできやすい状態になることもあります。水をたっぷり飲みましょう。

・アルコールは控える。
アルコールは、睡眠に悪い影響があり、また到着後も体の状態は悪くなります。少量であれば結構ですが、アルコールはなるべく飲まないようにしましょう。

・時々体を伸ばす。
飛行機の中では体を時々伸ばしてください。血液の循環をよくして、血栓などを防ぐ効果もあります。また、気分的にもすっきりし、眠りやすくなるでしょう。

・ついたら現地で光を浴びる
 現地での光の浴び方は、テクニックが要ります。特に初日は日本の時計を持っているので、日本の早朝に当たる時刻に強い光を浴びると良いわけです。日本からアメリカ西海岸に行くなら、午前10時半から1時ころ。ちょうど到着したあとに、明るい太陽を浴びると良いわけです。光については、私が協力した光療法器のサイト(http://www.litebook.com/apps/jetlag.asp)に、ジェットラグカリキュレータがあるので参考にしてください。

内田 直(うちだ・すなお)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】

2003- 早稲田大学スポーツ科学学術院 教授
1992- 東京都精神医学総合研究所 睡眠障害研究部門長
1990- カリフォルニア大学ディビス校医学部精神科客員研究員
1983- 東京医科歯科大学付属病院精神科神経科 医員

資格等
日本体育協会 スポーツドクター
日本睡眠学会 睡眠医療認定医
博士(医学)東京医科歯科大学
厚生労働省 精神保健指定医

学会:
日本精神神経学会
日本スポーツ精神医学会 理事長
日本睡眠学会(評議員)
日本臨床スポーツ医学会
日本体力医学会
バレーボール学会
日本臨床生理学会
アジア睡眠学会
アメリカ睡眠学会
ヨーロッパ睡眠学会