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河野 寛(かわの・ひろし)早稲田大学スポーツ科学学術院助教 略歴はこちらから

運動しても痩せられない?
― 食欲で変わるダイエット ―

河野 寛/早稲田大学スポーツ科学学術院助教

はじめに

 人類が狩りをしながら生活を営んでいた頃、いかにエネルギー消費量を少なくして生活するかが重要でした。この環境が人類の歴史の大部分を占めます。したがって、燃費の良い車のような節約遺伝子を持った人々が生き残っている可能性は高く、また遺伝子が節約型に変わっていると推測されます。しかしながら、ここ数十年で先進諸国は飽食の時代を迎えました。この飽食の時代では、過食による肥満が問題となっています。このような背景から、現在では運動療法や食事療法による肥満の予防・改善が必要とされています。ただ大半の人が美味しいものを食べたく、そして楽をしたいと感じると思います。それらの欲求を抑えることが大変であることも事実です。その中で、運動と食欲の関係を紐解くことは、ごく自然なことかもしれません。そして、多くの人々が運動によって「肥満を解消したい」、「痩せたい」と願望を抱いますが、残念ながら運動の成果が現れるのは全員ではありません。では何故、全員が痩せられないのでしょうか?またどのような運動が食欲を抑制し、効果的に痩せられるのかといったことは、大変興味深い点でもあります。

痩せにくい人・痩せやすい人

 体重の増減は、エネルギー消費量とエネルギー摂取量のバランスで決まります。したがって、エネルギー消費量を増やす、もしくはエネルギー摂取量を減らすことで体重の減少が起こります。しかしながら、運動によってエネルギー消費量を増やして痩せようとした人の中には、「運動をしても痩せられない!」という経験的にわかっている方もいます。昨年のグローバルCOEプログラム「アクティヴ・ライフを創出するスポーツ科学」の国際シンポジウムでご講演いただきましたNeil A King博士(Queensland University of Technology @Australia)は、運動によって痩せられなかった人の食欲は、痩せられた人のそれと比べて高いということ発表されました。つまり、運動によって痩せられない人は、運動によって消費したエネルギーを食事で補っていると推測できます。つまり、慢性的な食欲の亢進です。またKing博士らのグループは、12週間の運動実施によって、食欲増進を促すグレリンというホルモンが増加することも発表しています。このように、人は習慣的に運動を実施したときに身体からのエネルギーの喪失を補填するために、恒常性機能を働かせます。その機能が優れている人ほど、痩せられないのです。ただし、現在のところ、この問題に対する明快な解決策はありません。今後、運動によって痩せにくい人でも、痩せることができる運動様式が発見されることが期待されています。

男女の差

 運動による体重減少において、男女差もまた興味深い点の一つです。運動によるダイエットで失敗しやすいのは男性よりも女性であることがわかっています。また面白いことに、動物実験では何週間もの過酷なトレーニングを行わせるときには、メスのネズミを使うことが多いです。オスのネズミは途中からエサが食べられなくなり、体重が減少してしまいますが、メスのネズミではしっかりとエサが食べられて体重も減少しないことが理由のようです。女性の持つ恒常性には感服しますし、女性が長生きするのは年老いてからもちゃんと食欲があり、食事を摂れることが原因の一つかもしれません。これらを踏まえて、恒常性に打ち勝ってダイエットに成功した女性に対して、敬意を表す必要すらあるかもしれません。

運動で食欲を減らす

 では、もう少し実生活に則した話しに展開してみましょう。読者の皆さんの中に、運動を行った直後に何か食べたいと思う人はいますでしょうか?たぶん、答えはノーだと思います。この経験則を実証した研究があります。60分間のランニング運動を行った際、運動後に食欲と食欲増進を促すグレリンが低下することがわかっています。私が行った研究では、30分間の縄跳び運動でも食欲が落ちることがわかっています。これらのデータは、皆さんが感じる運動直後の食欲不振感を生化学的に実証するものです。また、この運動後の食欲の低下は、運動後1時間程度は持続します。このことから、小腹が空いて3時のおやつが食べたいときには、2~3分でよいので、その場で飛び跳ねる運動やちょっと階段を上って降りてくるような運動を行ってみてはいかがでしょうか?それだけで食欲は抑えられ、ましてはエネルギーも消費できるという一石二鳥のダイエット成果が見込まれます。

終わりに

 美味しい食べ物がすぐ手に入る飽食の時代において、体重を上手くコントロールすることは難しいことですが、とても大切なことです。体重を上手くコントロールできないと、メタボや生活習慣病になり、健康な状態で長生きが出来なくなります。今回紹介したように、運動が食欲に及ぼす影響には個人差が存在します。自分が運動によって痩せやすいタイプなのか、痩せにくいタイプなのかをまずは見極めてください。そのためには実践あるのみです。その上で、食欲を減らせるような生活に適した運動様式を見つけることで、体重のコントロールもより簡単になるのではないかと思っています。

河野 寛(かわの・ひろし)/早稲田大学スポーツ科学学術院助教

1979年9月5日生まれ

【経歴】
2008年3月 早稲田大学大学院 人間科学研究科 博士後期課程修了 博士(人間科学)取得
2008年4月 早稲田大学 スポーツ科学学術院 助手(至2011年3月)
2011年4月 早稲田大学 スポーツ科学学術院 助教(現在に至る)

【業績】
1. Kawano H, Tanaka H, Miyachi M. Resistance training and arterial compliance: keeping the benefits while minimizing the stiffening. Vol.24, pp.1753-1759; 2006.
2. Kawano H, Tanimoto M, Yamamoto K, Sanada K, Gando Y, Tabata I, Higuchi M and Miyachi M. Resistance training in men is associated with increased arterial stiffness and blood pressure but does not adversely affect endothelial function as measured by arterial reactivity to the cold pressor test. Vol.93(2), pp.296-302; 2008.
3. Kawano H, Nakagawa H, Onodera S, Higuchi M, Miyachi M. Attenuated increases in blood pressure by dynamic resistance exercise in middle-aged men. Vol.31(5), pp.1045-1053; 2008.
4. Kawano H, Motegi F, Ando T, Gando Y, Mineta M, Numao S, Miyashita M, Sakamoto S, Higuchi M. Appetite after rope skipping may differ between males and females. Vol.6(2);pp.e121-e127; 2012.