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赤間 高雄(あかま・たかお)早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

アスリートは風邪をひきにくいか?
―免疫力を高めるための運動とは

赤間 高雄/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

 今年の夏のロンドンオリンピックでは日本のアスリート達の大活躍に日本中が盛り上がりました。私は日本選手団の医務責任者としてロンドンオリンピックに参加し、日本のアスリートの健康管理に関わりましたので、日本のアスリート達が好成績をあげられたことを本当にうれしく思っています。アスリートがオリンピックなどの重要な試合のときに体調を崩していては、せっかくの実力を発揮することができません。皆さんのなかには、アスリートは日ごろから鍛錬しているので、体が丈夫で風邪もひかないだろうと思うかたがいるかもしれません。私は約20年前から様々な大会の日本選手団の内科ドクターとして活動してきましたが、実は、大会中に風邪で体調を崩すアスリートは少なくありません。

なぜ、体を鍛えているアスリートが風邪をひくのか?

 運動と風邪のひき易さには関係があることが科学的に証明されています。まったく運動をしない状態に比べて、「ほどほどの運動」をすると風邪をひきにくくなります。「風邪をひかないように体を鍛えよう」というのは本当なのです。ところが、さらに運動の量や強度を増やしていくと、逆に風邪をひき易くなって、結局、運動をしない状態よりもかえって風邪をひき易くなってしまいます。まさに「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。日常的にトレーニングをしているアスリートは運動が「過ぎた」状態になることが多く、一般の人よりもかえって風邪をひき易い状態になりやすいのです。

風邪のひき易さとひきにくさ

 風邪の多くはウイルスが原因の感染症です。風邪のウイルスが鼻やのどの粘膜に侵入して増殖すると炎症がおこり風邪をひきます。風邪のウイルスが粘膜に侵入するのを防ぎ、侵入したウイルスを攻撃して排除するのが免疫の仕組みです。免疫の力が強ければ風邪をひきにくく、免疫の力が弱まると風邪をひき易くなってしまいます。「ほどほどの運動」は免疫力を高めて風邪をひきにくくし、「過剰な運動」は免疫力を低下させて風邪をひき易くするのです。唾液中に含まれる免疫物質(分泌型免疫グロブリンA)は風邪のウイルスが粘膜に侵入するのを防いでいるのですが、たとえば、42Kmのマラソンを走ったり、大学運動部の厳しい合宿を行ったりすると、この分泌型免疫グロブリンAが著しく低下してしまうことがわかっています。日常的に運動しているアスリートは、「過剰な運動」による免疫機能の低下によって風邪をひいてコンディションを崩しやすいのです。アスリートは、過剰なトレーニングの結果としてオーバートレーニング症候群という慢性疲労状態になることがあり、そのような状態では免疫機能も低下しています。

免疫力を高める運動は

 免疫力を高める「ほどほどの運動」とは、どれくらいの運動でしょうか?私たちの研究では、高齢者の1日の運動量を万歩計で測定して免疫力との関係を検討したところ、1日合計7000歩程度の運動をしている高齢者が唾液に含まれる免疫物質(分泌型免疫グロブリンA)の量が多いことがわかりました。また、運動習慣のなかった高齢者の方々に週2回の定期的な運動教室(1回60-90分、軽い筋力トレーニングと有酸素運動)を続けてもらったところ分泌型免疫グロブリンAの量が多くなることがわかりました。別の高齢者の方々に1日30分週5日のウォーキングを続けてもらっても分泌型免疫グロブリンAの量が増えました

どうして運動が免疫力を変化させるのか?

 一人のヒトは約60兆個の細胞からできていると言われています。1つ1つの細胞が生きている身体内部の環境は、温度やpHなどが一定の状態に保たれています(ホメオスタシス)。運動すると、エネルギーの消費、疲労物質の産生、体温上昇、などがおこり、身体内部の環境が大きく変化します。身体内部の環境の変化をストレスと言います。ストレスは、心理的なストレスだけではなく、様々なストレスがあり、運動もストレスの一つです。ストレスに対しては自律神経系、内分泌系および免疫系が反応して、内部環境のホメオスタシスを保っています。ほどほどのストレスは、自律神経系、内分泌系、および免疫系を刺激して、これらの機能を高めますが、過剰なストレスは、これらの機能を疲弊させて、からだの健康が保てなくなると考えられます。ストレスの一つである運動を「ほどほど」に行っていけば、免疫をトレーニングして健康を維持する力を高めていくことができるでしょう。

赤間 高雄(あかま・たかお)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】
1957年生まれ、栃木県出身
1982年 筑波大学医学専門学群卒業
1988年 筑波大学大学院医学研究科修了 医学博士
1989年 筑波大学臨床医学系講師、
2000年 日本女子体育大学助教授、
2004年 早稲田大学スポーツ科学部助教授
2006年 早稲田大学スポーツ科学学術院教授教授

専門分野 スポーツ医学、スポーツ免疫学、アンチ・ドーピング
アテネ、北京、ロンドンオリンピックで日本代表選手団本部ドクター
(公財)日本アンチ・ドーピング機構 副会長