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原田 宗彦(はらだ・むねひこ)早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

2020年東京オリンピック招致の可能性

原田 宗彦/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

 新聞やテレビの取材時に、決まって受ける質問がある。それは「2020年のオリンピックが東京に決まる確率は?」である。それに対する私の答えは、いつも「50%」。要は、予想が成り立たないのである。前回の2016年オリンピック招致では、最終的に4都市の競争となり、東京は、1回目の投票で22票を獲得したが、2巡目では票を伸ばせず、逆に2票減の20票しか獲得できずに敗れ去った。

 この時筆者は、TOKYO MXのスタジオにいて、英国のブックメーカーの掛け率などを参考にしつつ投票の行方を予想していたが、最初の投票で敗れたのは、オッズが1.72倍で、圧倒的に有利だと思われていたシカゴであった。シカゴの落選が決まった時、スタジオ中で驚きの声が上がった。シカゴ以外の2016年候補都市のオッズは、リオが3.25倍、東京が8倍、そしてマドリッドが12倍であったが、最終投票では、2番手のリオが4番手のマドリッドを破り、「一番人気は落選する」というジンクスどおりの結果となった。

 ちなみにその前の2012年大会のオッズは、パリが一番人気で1.25倍、ロンドンが二番手の3.75倍、三番手のニューヨークが13倍、そしてマドリッドとモスクワがそれぞれ34倍と101倍であった。この時も結局、一番手のパリは落選し、二番手のロンドンが開催権を手に入れた。

 さて2020年の五輪招致であるが、昨年の5月時点では、東京が一番手の2.10倍、マドリッドが2.75倍、イスタンブールが3.75倍であった。ところがロンドン五輪後の9月には、東京が1.2倍、イスタンブールが2.5倍、マドリッドが3倍と、東京のオッズが上がり、2位と3位が逆転した。これはロンドン五輪で獲得した38個のメダルや50万人を集めたパレードの実績が反映したと思われるが、東京が一番手という状況は変わっていない。

 オッズとは、競馬・競輪などで、当たった場合の配当を賭け金に対する倍率で表したものだが、競走馬や競輪選手の人気の程度を示す「空気」を数値化した指標でもある。ただ過去の招致レースの結果を見る限り、この空気がIOC委員の投票行動を直接左右するものではないことがわかる。空気では示せない政治的判断や、実利を求める思惑が投票行動を左右するのである。東京は、低いオッズに油断してはならない。

 その一方、国内支持率の低迷という状況は変化していない。昨年12月の調査で、東京五輪への賛成は66%であった。今春に東京を訪問するIOC評価委員会がまとめる報告書には、IOCが昨年12月から本年1月ごろに行う独自調査の結果が反映されるが、問題は、招致委員会が出す数字とIOCの独自調査が示す数字の乖離である。過去の支持率調査の結果を調べると、ほぼ例外なく3%から24%の範囲でIOCの調査結果が(候補都市が出した数値よりも)低く報告されている。例えば、2008年五輪の招致では、大阪の招致委員会が76%という数字を開催概要計画書に掲げたが、評価報告書に記されたIOCの独自調査の結果は52%であり、これが敗因のひとつとなった。一般に、支持率は最低7割という暗黙の了解があるが、東京の場合、66%を下回るのは確実で、赤点を取った東京の支持率がどう評価されるか楽観視はできない。

 米国のスポーツ経済学者、ステファン・シマンスキー教授は、東京の有利な点はイベント開催能力の高さと信頼性、そして安全であり、不利な点は、支持率の低さと震災によるエネルギー不足であることを示唆した。また2008年夏季大会(北京)や2018年冬季大会(平昌)のようにアジアでの大会が続くことへの懸念も指摘した (Time Olympics、2012)。

 実際、東京都の公共交通機関や観光宿泊施設等の社会インフラの充実は、招致委員会が掲げるコンパクト五輪の開催にとって大きなアドバンテージであるが、同時に、コンパクトさゆえに予想される混雑や、精密な交通システムが持つ脆弱さ等の懸念材料も多い。さらに、五輪開催時期となる8月の気温についても、十分な対策が必要である。特に屋外に建設される屋根のない仮設競技施設では、観客や選手が何時間も夏の日差しにさらされることになる。2011年8月に熱中症で病院に搬送された人は1765人であるが、五輪開催時は、この数がさらに増えることが予想され、特に外国人に対する熱中症対策が必要となる。

 東京招致の可能性を高めるには、これらの弱点に納得のいく答えを用意し、なおかつ東京開催が世界の平和と繁栄にどのように貢献するのかをエレガントに、そしてハンブル(控えめ)に伝えていくことが大切である。

参考資料 : Time Olympics (2012)

原田 宗彦(はらだ・むねひこ)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】
1954年 大阪府に生まれる
1977年 京都教育大学教育学部卒
1979年 筑波大学大学院体育研究科修了
1984年 ペンシルバニア州立大学体育・レクリエーション学部博士課程修了
1987年 鹿屋体育大学助手
1988年 大阪体育大学講師
1995年 フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)
1995年 大阪体育大学大学院教授
2005年 早稲田大学スポーツ科学学術院教授 現在に至る

【社会的活動(現行のもの)】
日本スポーツマネジメント学会(JASM)会長
一般社団法人日本スポーツツーリズム推進連携機構(JSTA)会長
さいたまスポーツコミッション(SSC)副会長
なでしこリーグ改革タスクフォース委員長
日本スポーツ産業学会理事
日本体育・スポーツ経営学会理事
社団法人日本フィットネス産業協会理事
社団法人スポーツ健康産業団体連合会理事
財団法人新宿区生涯学習財団理事
bjリーグ経営諮問委員会アドバイザー
日本トップリーグ連携機構アドバイザー
独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター業績評価委員
日本体育協会総合企画委員会企画部会委員
JKA公益事業審査委員
東京都スポーツ振興審議会委員
学校法人浪商学園将来構想委員会委員

【主な著書】
「フィジカル・フィットネス」(訳書)ベースボールマガジン社
「公共サービスのマーケティング」(訳書)遊時創造
「スポーツ産業論第5版」杏林書院
「スポーツ・レジャーサービス論」健帛社
「スポーツ経営学」大修館書店
「スポーツイベントの経済学」平凡社新書145
「生涯スポーツの社会経済学」杏林書院
「図解スポーツマネジメント」大修館書店
「アメリカ・スポーツビジネスに学ぶ経営戦略」(訳書)大修館書店
「スポーツマーケティング」スポーツビジネス叢書Ⅰ:大修館書店
「スポーツマネジメント」スポーツビジネス叢書Ⅲ:大修館書店
「スポーツ・ヘルスツーリズム」スポーツビジネス叢書Ⅳ:大修館書店
「スポーツファシリティマネジメント」スポーツビジネス叢書Ⅴ:大修館書店
「新YMCA戦略」日本YMCA同盟