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原田 宗彦(はらだ むねひこ)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

リオから東京へ:メガスポーツイベントの課題と役割

原田 宗彦/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

 リオ五輪が終了した。競技に影響が出るような大きな混乱もなく、巨額の放送権料に見合う迫力ある映像が世界に向けて配信されたことは、主催者であるIOCにとっても、そして世界中の五輪ファンにとっても喜ばしいことであった。IOCのバッハ会長は、閉会式で「マーベラスな町で行われたマーベラスな大会だった」と述べた。マーベラスとは「素晴らしい」や「驚くべき」という意味であり、リオ大会に最大級の賛辞を送ったことになる。

 大会前は、警察官が1日あたり平均1名殺されるブラジルの犯罪率の高さや、ヨット会場であるグアナバラ湾の深刻な水質汚染、ジルマ・ルセフ大統領の弾劾、そしてジカ熱の恐怖といったネガティブな話題が先行するとともに、選手村で配布される35万個のコンドーム(選手1人平均1日2.5個!)といったアスリート不在の話題で盛り上がるなど、五輪成功を不安視するメディアの論調が目立った。しかしながら、競技はスムーズに進行し、五輪アスリートが繰り広げる数多くの感動的な映像が世界に向けて配信された。

 筆者は、2014年に開かれたサッカーのワールドカップ大会を観戦したが、この時も準備の遅れや、競技運営の不備が指摘されていた。確かに、新しいスタジアムは直前まで工事が行われ、会場周辺にも工事用資材がそのまま残っていた。しかし大会が始まれば、スタジアムの中は熱狂的なファンで埋まり、素晴らしい「テレビの映像」が流された。リオの場合も、状況はよく似ている。

 これまでの五輪大会では、短いフレーズで大会の特徴が表現されてきた。例えば、2000年のシドニー五輪は、環境に配慮した大会として「緑のオリンピック」(Green Olympic)と呼ばれ、2004年のアテネ大会は「発祥の地に戻ったオリンピック」(Olympics come home)、2008年は「13億人のオリンピック」(The Olympic flame touch 1.3 billion people)、2012年は、SNSで「最も繋がった大会」(Most Connected Games)と形容された。今回のリオは、どのような大会と呼べばいいのだろうか?大会後は「マーベラス・オリンピック」と称賛されたが、大会前は「最も混乱した大会」(Most confused Olympic)になると予想されていた。

 五輪大会の難しいところは、巨大、複雑、延期不可という3つの要因とともに、招致が決まってから五輪が開催されるまでの7年間の間に起きる、予測不能な経済状況への対処にある。ブラジルの場合も、2010年には+7.5%であった経済成長率が、五輪前年の2015年には-3.5%に急落するなど、経済の落ち込みと政治の混乱が、準備の大幅な遅れを招いた。

 リオ五輪に限らず、多様なプロジェクトの集合体であるオリンピックの準備では、多少の混乱や計画の遅れが起きるのは当たり前である。ただし準備の遅れは、現代のオリンピックで重要とされるレガシープラン、すなわち大会後の施設利用計画に遅れを生じさせる。例えば2004年のアテネ大会では、開催が危ぶまれるほど工事が遅れ、その影響でレガシー計画がうまく起動せず、大会後も多くの施設が今も放置されたままになっている。

 同じような混乱は先進国の五輪でも起きる。例えば2012年のロンドン大会では、開催決定直後に起きた地下鉄テロ事件以来、セキュリテイに関する計画の大幅な見直しを迫られた。さらに2008年の金融危機によって起きた民間投資の停滞による資金不足など、予測不能な困難に見舞われ続けた。

 しかしロンドンは、巧みなマネジメントによって困難を克服し、大会後もロンドン東地区の再開発や、大会後の外国人観光客の増加など、五輪レガシーをスムーズに起動させることに成功した。さらにリオ五輪において英国は27個の金メダル獲得し、アメリカに次ぐ2位という英国史上最高の結果を残すなど、競技面でも優れたレガシーを残した。

 東京の場合も、エンブレムの見直しやや新国立競技場の見直し、そして仮設施設整備費の高騰など、これまで様々な問題が噴出しているが、今後起きうる予測不能な事態に対処するための緊急(コンティンジェンシー)予算の確保や、多様なプロジェクトをマネジメントできる専門人材の確保など、先を見通した組織運営が必要とされる。

 五輪開催を準備する都市にとって、4年間は長いようで短い。五輪のようなメガスポーツイベントの特徴は、多様な公共投資を前倒しさせ、すべてが開会式の日に終わるようにタイミングを合わせる力を有している点にある。東京は今後、遅れのない大会準備とともに、大会後の施設利用計画の策定を行い、五輪で得た果実を先進的な都市づくりに反映させていかなければならない。

原田 宗彦(はらだ・むねひこ)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】
1954年 大阪府に生まれる
1977年 京都教育大学教育学部卒
1979年 筑波大学大学院体育研究科修了
1984年 ペンシルバニア州立大学体育・レクリエーション学部博士課程修了
1987年 鹿屋体育大学助手
1988年 大阪体育大学講師
1995年 フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)
1995年 大阪体育大学大学院教授
2005年 早稲田大学スポーツ科学学術院教授 現在に至る

【社会的活動(現行のもの)】
日本スポーツマネジメント学会(JASM)会長
一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構(JSTA)会長
さいたまスポーツコミッション(SSC)副会長
日本スポーツ産業学会理事
社団法人日本フィットネス産業協会理事
社団法人スポーツ健康産業団体連合会理事
JKA公益事業審査委員
Jリーグ理事
スポーツ庁スポーツ基本法検討部会委員

【主な著書】
「フィジカル・フィットネス」(訳書)ベースボールマガジン社
「公共サービスのマーケティング」(訳書)遊時創造
「スポーツ産業論第5版」杏林書院
「スポーツ・レジャーサービス論」健帛社
「スポーツ経営学」大修館書店
「スポーツイベントの経済学」平凡社新書145
「生涯スポーツの社会経済学」杏林書院
「図解スポーツマネジメント」大修館書店
「アメリカ・スポーツビジネスに学ぶ経営戦略」(訳書)大修館書店
「スポーツマーケティング」スポーツビジネス叢書Ⅰ:大修館書店
「スポーツマネジメント」スポーツビジネス叢書Ⅲ:大修館書店
「スポーツ・ヘルスツーリズム」スポーツビジネス叢書Ⅳ:大修館書店
「スポーツファシリティマネジメント」スポーツビジネス叢書Ⅴ:大修館書店
「新YMCA戦略」日本YMCA同盟
「スポーツ都市戦略」学芸出版