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▼知の共創―研究者プロファイル―

宮島 英昭 略歴はこちらから

コーポレート・ガバナンス研究の新展開
―世界経済から見据える日本型システム―

宮島 英昭
早稲田大学商学学術院教授 早稲田大学高等研究所副所長
早稲田大学企業法制と法創造総合研究所(*)副所長
(*文部科学省21世紀COE/グローバルCOEプログラム拠点)

失われた10年と日本企業の大改革

 今日まで約30年間にわたり、日本の経済システム、企業システムの研究に取り組んできましたが、20年前、30年前には、コーポレート・ガバナンスやM&Aのようなテーマが自分の研究の中心になろうとは、まったく予想もつきませんでした。

 「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」という言葉は、日本では1990年代後半頃から急速に広がりました。その背景には、1980年代に高い国際競争力をもって世界市場に進出していった日本型の企業システムが、1990年代に入って急激に競争力を失っていったことがあります。

 それまで日本の企業の強さの秘訣は、市場ベースの経営手法とは異なる、長期的な取引関係や雇用関係にあるといわれており、「系列」のような下請け企業のネットワークや、グループ企業間での株式の相互持ち合い、メインバンク・システムといった、独特の経営システムが、海外からも注目を集めました。ところがこのような仕組みは、1990年代に入ると徐々に崩れていきます。

 以前は強みだった日本型のシステムが、今度は逆に、過剰投資や資本効率の低下といったマイナス面を強く露呈するようになってきた。このままではまずい、コーポレート・ガバナンスを根本的に変革しなければならないというムードが、経済界全体、また世の中全体において、急激に広がっていきます。

 よく「失われた10年」といわれますが、この1990年代前半から2000年代初めの10年間は、日本企業と日本経済が、大きな努力と犠牲を払いながら、みずからのシステムを改革していった時代でもあります。新聞記事を見ても、コーポレート・ガバナンスという言葉の使用頻度は、1997年の銀行危機、不良債権問題が深刻化する中で急激に増えて、2002~2003年の商法の改正前後でピークを迎えます。

 具体的にどんな改革が行われたのかというと、まず株式の相互持ち合いの解消が急速に進みます。それから取締役会などの経営組織の改革が行われます。日本企業の取締役会というのは、社員からの叩き上げの人々によって構成される傾向が強く、したがって株主よりも従業員の利益を過度に保護する傾向を持っていました。内部の視点が強いと、どうしても経営への監視機能が甘くなってしまって、リストラが必要でも、なかなか断行できない。

 この停滞から脱却するには、やはり内部視点から外部視点へと偏りを是正し、株主にとっての価値を重視し、企業の成長を最大限に追求しようとする経営システムを確立することが必要でした。この改革を国が制度的にも支援しようと、1997年には独占禁止法が改正されて、持株会社を設置することができるようになります。さらに2002年には商法の大改正によって、経営の執行機能と監督機能を分けたかたちの取締役会も組織していけるようになりました。

ハイブリッド型経営へのシフト

 こうした経営改革が進む中で、2002年、2003年頃には、日本の企業システムは米国型へ収斂していくのだろうという論調が支配的でした。日本型から脱却して、グローバル・スタンダードの企業経営を目指すということは、すなわち米国型の経営システムへの改革を意味するのだと単純に思われていたのです。

 しかし、日本企業のその後をみていくと、実態はどうも違うようです。金融以外の上場企業723社への調査分析を実施したところ、多様化が非常に進んでいる実態が見えてきた(表1参照)。米国型にぐっとシフトした企業もある一方で、日本型と米国型をうまく組み合わせた「ハイブリッド型」へと移行している企業が多数あることが分かってきました。資金調達や株主構成は資本市場に立脚したかたちへ移行しつつ、取締役改革や雇用面では長期関係を重視していく、そのようなタイプが新しい日本企業のスタンダードとして浮上してきたのです。

表1 日本企業のコーポレート・ガバナンスに関する調査分析。
青木昌彦、G.ジャクソンとの共編著、"Corporate Governance in Japan"(2007)より。

"Corporate Governance in Japan: Institutional Change and Organizational Diversity"
M. Aoki, G. Jackson, Gregory, H. Miyajima(共編著), Oxford Univ. Press, 2007.

 典型的なのが、日本型のものづくり産業です。その強みは、現場の社員が持っている知識や経験を、技術革新や経営革新に反映していく仕組みにあります。例えばトヨタ自動車では、執行役員制と社外監査役を導入しましたが、経営陣には現場の知識を持った人材が不可欠との考えを貫いて、社外取締役の導入を行わず、取締役と執行役員の兼任制度を導入しています。組織に特殊な知識を持っている人材が、企業にとって依然として重要な経営資源であるならば、日本型の長期的な雇用慣行や取引慣行のすべてを改革するべきではないということの表れです。

 これに対して、例えば金融のように、どの企業に行っても通用するような金融全般の専門知識や能力のほうが、より重要であるような業界においては、取締役会や内部組織も米国型へ改革したほうが良いだろうし、実際そのようにシフトしています。

増加する「イン・アウト型」M&A

 コーポレート・ガバナンスとも関係しますが、もう1つの私の研究テーマの柱となるのが、「M&A」(企業の合併と買収;Mergers and Acquistions)です。日本では、かつてほとんど見られなかったM&Aですが、1999年以降に急増します。

 このM&Aブームについても、実際のところ日本ではどのような理由からブームが発生し、どのような効果があったのか、その実態を明らかにするための分析を行いました。結論からいえば、日本経済の構造調整において、M&Aは非常に大きな役割を果たしてきたといえます。

 経済のイノベーションを、企業社会の新陳代謝という観点からみたときには、(1)新興企業がどんどん現れてくる、(2)不況の企業がどんどん退出していく、(3)既存の企業が自己変革する、この3つのパターンによって効果が現れてきます。米国の経済システムでは圧倒的に、(1)と(2)の割合が高いのに対して、日本の経済システムは、もっぱら(3)によってイノベーションが起きている。日本でも以前よりは、(1)、(2)の割合はかなり増えてきていますが、それでもやはり、コアとなっているのは(3)です。このように、既存企業がかたちを残しつつ、イノベーションを起こしていくようなシステムだからこそ、M&Aという手法が、経営変革に大きな役割を担うわけです。

宮島英昭 編著『日本のM&A:企業統治・組織効率・企業価値へのインパクト』(東洋経済社、2007)/第2回M&Aフォーラム賞(2008)受賞作品

 ひとくちにM&Aといっても、いろいろなタイプやパターンがあります。その中でも、日本でもこれから増えていくだろうと思うのが、「イン・アウト型」といわれる、海外企業の買収があります。2006年には、日本板硝子の英国ビルキントン社の買収、東芝の米国ウエスチングハウス社の買収など、大型買収が相次いで、話題を呼びました。いずれも海外市場への事業進出に伴って、相手国ですでに市場を有する会社を買収し、効率的に国際展開することを目的としています。既存企業の成長戦略としてのM&Aの典型的なものといえます。

 また、日本型のM&Aに特徴的なのが、合併ではなく買収をかけていくところにあります。というのも合併の場合には、両社の企業文化や雇用慣行も含めて統合していかなければならず、これが日本企業では障壁が多くてなかなかうまくいかなかった。ところが買収であれば、相手企業の独自性はある程度温存させながら、経営を統合していくことができる。これが日本企業にはよくフィットして、持株会社が解禁されて以降、M&Aが非常に増えていることの大きな要因となっています。

産学連携で評価ツールを開発

 こうした研究の成果を広く社会に活用してもらおうと、早稲田大学ファイナンス研究所(現ファイナンス総合研究所)とニッセイ基礎研究所との共同研究で、コーポレート・ガバナンス評価システムを開発しました。2003年から日本経済新聞社と提携して、パソコン用アプリケーション・ソフトとして商品化しています。上場企業約3500社の最新データをもとに、独自の10点満点評価でランキング表示するものと、さらに個別企業のデータから自由に評価分析できるものと、2つのバージョンを開発しています。大学の講義でも使っていますし、研究機関や企業などからの引き合いも多くあります。

コーポレート・ガバナンス評価システム「CGES」、ランキング分析画面(左)と個別企業分析画面(右)

 今後は、国際的な経済システムの枠組みの中で、日本のコーポレート・ガバナンスをどう位置づけていくかが課題です。1980年代には、日本経済への世界からの注目は高かったのですが、1990年代以降、もう日本型に学ぶべきものはないと、興味関心が後退しているのが現状です。これからは日本に固有の特徴を強調するよりも、日本型システムの固有性と普遍性の両方をしっかり捉えて、「こういう問題が、米国ではこう現れているし、中国ではこう現れているが、日本ではこうなんだ」といったかたちで語れなければ、関心を持ってもらえないでしょう。

 そこではやはり、国際的な研究ネットワークが重要になってきます。現在、早稲田大学の高等研究所と企業法制と法創造総合研究所が中心となり、独立行政法人 経済産業研究所(RIETI)、ハーバード大学のライシャワー研究所、ロンドン大学のビジネススクール、オックスフォード大学などと研究交流ネットワークを形成しつつあります。国際的なコーポレート・ガバナンスの比較研究、20世紀以降の歴史的進化の研究を、海外の研究者たちと共同で展開していく計画を進めています。

宮島 英昭
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学高等研究所副所長
早稲田大学企業法制と法創造総合研究所(*)副所長
(*文部科学省21世紀COE/グローバルCOEプログラム拠点)

 1978年立教大学経済学部卒業、1980年同大学院経済学研究科修士課程修了、1985年東京大学大学院経済学研究科第2種博士課程単位取得修了。2005年早稲田大学商学博士。東京大学社会科学研究所助手、早稲田大学商学部専任講師、同助教授を経て、1995年より教授。ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員などを歴任。2001年から財務省財務総合政策研究所特別研究官、2002年から独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティ・フェロー、2003年から早稲田大学企業法制と法創造総合研究所(文部科学省21世紀COE/グローバルCOEプログラム拠点)副所長、2006年より早稲田大学高等研究所副所長を併任。著書に『産業政策と企業統治の経済史:日本経済発展のミクロ分析』、共著に『現代日本経済』、ほか多数。

WASEDA早稲田大学研究推進部 http://www.waseda.jp/rps/