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研究力

▼知の共創―研究者プロファイル―

竹延 大志/早稲田大学理工学術院准教授 略歴はこちらから

長期的ビジョンと日々の努力で
革新的な材料技術の創製を目指す

竹延 大志/早稲田大学理工学術院准教授

応用研究の面白さに目覚める

 材料物理の世界で先進的な成果を出すために大切にしているのが、「今までの流れとは違うことをやる」「材料の持つ良いところをうまく使う」この2つのポイントです。材料研究の世界は細分化されていて、研究者はそれぞれの専門領域から大きくかけ離れたことはあまりやらないのがふつうです。そして、材料そのものの研究は掘り下げるけれども、その応用を広げていく研究はあまり手がけません。しかし私のアプローチは少し違います。

 もともと学生時代には、フラーレンという炭素原子からなる材料の研究をしていました。広い意味では有機材料、狭い意味では無機材料でもあるような境界領域の材料から出発したことが、分野にとらわれずに材料研究に取り組みたいという自分の考え方のルーツになっているのかもしれません。

 その後、企業に入って、カーボンナノチューブの研究に携わったことが、自分の研究アプローチを変える大きなきっかけになりました。具体的には、燃料電池用の水素吸着剤としてカーボンナノチューブを応用していく研究でした。カーボンナノチューブと有機材料を組み合わせる研究は、材料研究としてとてもおもしろいと同時に、さまざまな応用への広がりにイマジネーションが湧くものでした。

 真っ先に頭に浮かんだのが、トランジスタへの応用でした。企業から東北大学の金属材料研究所へ移って、2005年頃から本格的に研究に取り組み、論文発表などを通じて「カーボンナノチューブで、高性能のトランジスタが開発できる」と主張してきました。しかし、基礎研究からの発信だけでは、今までの流れを変えることはできません。新しいアイデアを変革につなげるには、自分で応用研究まで手がける必要があります。

 そうした考えから、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の若手研究者への産業技術研究助成事業(若手グラント)に公募し、2006年から5年間、「インクジェット法を用いたカーボンナノチューブ薄膜トランジスタの創製と透明フレキシブルトランジスタへの展開」というテーマで開発研究に取り組んできました。

カーボンナノチューブ膜を精密に制御

図1 有機分子を内包したカーボンナノチューブのイメージ

 カーボンナノチューブは、ナノレベルの中空構造を持つ素材(図1参照)として、次世代ナノテク材料としての応用に期待が集まっています。そのためもっぱらナノレベルでの応用研究が行われているのですが、その不均一な材料特性から、ナノレベルでの応用にはなかなか難しい壁があります。

 カーボンナノチューブの構造を見ていくと、直径、長さ、形状のまったく違うものがごちゃごちゃと集まってできています。材料研究者は、こうした不均一さゆえに「汚い」材料なんていう呼び方をしたりもします。ナノレベルで均一な性能を発揮するような材料を開発していくことが、たいへん難しい物質だと思います。そこで開発戦略として、膜にしてしまえば安定性の高い材料として取り扱える。また、従来の蒸着法に変わるインクジェット法によるトランジスタ作製が、カーボンナノチューブなら可能になるはずだという直観的な確信もありました。

 蒸着法を用いた既存の微細加工技術では、基板の全面に材料を塗布した後、回路の形状を残して削り落とすため、材料の80%近くが無駄になります。これに対して、最初から形状どおりに材料を吹き付けていくインクジェット法ならば、材料が無駄にならず、大幅な省エネ・省資源になります。しかしなかなか実用化につながらず、インクジェット法に適した材料の開発が待たれていました。有機EL材料でも研究が行われていますが、蒸着法では高い性能を出しているものの、インクジェット法ではうまくいっていません。

 5年間のNEDOプロジェクトの成果として、課題であった精密な膜密度の制御を可能にし、従来に比べて桁違いに特性の優れたカーボンナノチューブ薄膜トランジスタの作製方法を開発することに成功しました(2010年3月ニュースリリース)。

図2 インクジェット法を用いたカーボンナノチューブ薄膜トランジスタの作製概略図
滴下回数によってナノチューブの密度を制御し、高密度な膜を電極に、低密度な膜をトランジスタの活性層に利用する。右下は、実際に作製した素子の顕微鏡写真

優れた柔軟性を有するフレキシブルデバイス

 さらにもう1つの開発戦略のキーワードが、「フレキシブルトランジスタ」です。フレキシブルというのは、柔軟な、曲がる、柔らかいという意味で、文字通りプラスチックのような柔らかい素材でトランジスタ基板を形成することで、紙のように柔らかく軽量なデバイスを実現しようというものです。プラスチックは熱に弱く、せいぜい200℃程度までの耐熱性しかありません。これに対して、現状のシリコン基板には数百℃をかけた高温での熱処理工程が必要です。NEDOプロジェクトでは、素子材料を低温処理が可能なカーボンナノチューブに置き換えることで、プラスチック基板への素子作製も可能になりました。

 ソーラーパネルのようなものもフレキシブルデバイスへ置き換わることで、応用の幅が広がるでしょう。ソーラーパネルの材料も今はシリコンなので非常に重いのですが、パネルが柔らかくて軽い素材になれば、壁に掛けたり、クルマのボディ全体をソーラーパネルでくるんだりすることができるようになります。カーボンナノチューブに可能性があるのではないかと考えています。

世界初の有機レーザーデバイスへの挑戦

 有機トランジスタの応用としてもう1つ進めてきたのが、有機レーザーデバイスの研究開発です。トランジスタはもっぱらON-OFFのスイッチ機能の特性が実用化されていますが、特殊な構造を活用して発光素子としての応用が考えられます。従来の無機材料を用いたレーザーでは、赤色、青色などは実現していますが、緑色などを開発するのが難しい。色のバラエティが限られています。その点、有機半導体は材料設計の自由度がきわめて高く、多彩な発光色と高効率な発光が実現できます。幅広い領域での応用が期待されていますが、有機レーザーデバイスはいまだ実現されていません。

多彩な発光色を可能にする有機レーザーデバイス

 そこで、従来のダイオード構造とはまったく異なる斬新なアプローチとして、高効率発光材料を用いた有機単結晶トランジスタの両極性化により高効率発光・高電流密度を両立し、世界初の有機レーザーデバイスを実現させることを目指しています。2008年度から、JSTの研究助成事業さきがけの「物質と光作用」プロジェクトに参画し、「有機レーザートランジスタの創製」というテーマで、研究開発に取り組んできました。

 2010年度に本学に着任してからは、「光科学研究所」という重点領域研究機構のプロジェクト研究所が推進する「光と物質の相互作用-基礎物理からデバイス応用まで―」という重点領域研究にも、6人の研究メンバーの1人として参画しています。まだスタートしたばかりで、これから学内の研究者との共同研究を進めていく計画です。本学には非常にバラエティに富んだ領域の研究者が揃っていると同時に、「物理」という共通項のもとで日常的に議論ができる環境があると感じています。

次なる新材料の研究目指して

 有機トランジスタの2つの研究――インクジェット法による電子デバイス作製の研究、レーザーデバイスの研究が、ここにきて一定の成果を挙げながら、1つの流れに統合しつつあると感じています。もともと2つはまったく違う研究なのですが、私の中ではこの2つの車輪がうまく回っていました。5年間で徐々に近づいてきて、2011年からはいよいよ1つのプロジェクトとして展開していきます。

 内閣府がグリーン・イノベーション/ライフ・イノベーションの推進を目的に設定した研究助成事業「最先端・次世代研究開発支援プログラム」に採択され、「超高性能インクジェットプリンテッドエレクトロニクス」というテーマのもとで、4年間をかけて取り組んでいく予定です。省エネ・省資源・高効率化を可能にする、まさにグリーン・イノベーションの推進に貢献できるテーマです。

 こうした先駆的なプロジェクトに取り組むにあたっては、長期的には絶対に社会の役に立つゴールが設定できること、その一方で、比較的近いところに達成目標を立てて、学術的に価値ある成果を発表していく必要があります。達成目標を1つクリアできたら、また次の達成目標を立てて…といった具合に、淡々とこれを繰り返していく。これまでの5年間も、淡々と目の前の達成目標に取り組み、着実に成果を積み上げてきたことで、長期的な目標達成への道筋も見えてきました。

 じつは今、何かまったく新しいことを手がけたくて、うずうずしているところです。大きな視野でみれば、学生時代の炭素材料研究、その後の有機材料研究、どちらも捨てることなく続けてきているので、さらに新しい3つめの「何か」を同時に走らせていくことになるのでしょう。

最先端の実験設備

竹延 大志(たけのぶ・たいし)/早稲田大学理工学術院准教授

2001年北陸先端科学技術大学院大学博士課程修了。博士(材料科学)。ソニー株式会社フロンティアサイエンス研究所勤務、東北大学金属材料研究所助手、同・助教、同・准教授を経て、2010年から現職。その間、デルフト工科大学客員研究員、ナンヤン工科大学客員研究員を兼務。インテリジェント・コスモス賞(2010)、日本物理学会若手奨励賞(2010)など受賞歴多数。