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研究力

▼知の共創―研究者プロファイル―

関根 泰/早稲田大学理工学術院准教授 略歴はこちらから

常温と電場の触媒化学で
次世代エネルギーへの転換を推進する

関根 泰/早稲田大学理工学術院准教授

現実を見据えてビジョンを描く

 「触媒化学」という分野から、エネルギーや環境問題という地球規模の課題解決に関連するテーマに取り組んでいます。地球全体が持続可能な発展を遂げていくために、脱炭素社会への転換が必須の課題となっていますが、その実現には、触媒の技術が大きな鍵を握っています。石油や天然ガス、石炭などの化石燃料は、炭素と水素の結合からなる炭化水素化合物です。現在、エネルギー資源の7割を占めるこれら炭化水素を、次世代のクリーンエネルギーとして期待される水素へと転換する技術開発が急がれています。私の研究は、こうした炭化水素転換に必要な触媒や、放電効果を用いた革新的な転換プロセスなど、次世代エネルギーへの問題解決の核となるテーマを柱としています。

 研究と並行して、触媒学会の水素製造利用研究会の代表を務め、日本エネルギー学会石炭科学部会、石油学会石油化学部会などにもかかわっています。2011年4月からは、独立行政法人科学技術振興機構(JST)のフェローにも着任し、エネルギー環境部門での国の科学技術プロジェクトの戦略づくりに携わっています。

 今回の東日本大震災、そして原発被災とそれに伴うエネルギー政策の転換へ向けて、政府は自然エネルギーへの大幅な転換を図るという方針を打ち出しています。しかしながら、太陽光、風力、バイオマスなどの自然エネルギーの供給量は、現状では社会の需要に応えられるようなレベルとはほど遠いものです。太陽光パネルや風車の製造、バイオマス発電の原材料の運搬や加工、取り出されたエネルギーの供給などに、自然エネルギーから創出されるエネルギーよりも多くの化石燃料エネルギーを必要とします。

 自然エネルギーを作るために、化石燃料を同じくらい必要とするのだとすれば、そんな無駄なことはありません。究極的な理想像を掲げて実現へ近づく努力は行いつつも、一方では短中期的な観点でより現実的な代替エネルギーの研究課題に取り組んでいくことが重要です。最も直近の課題は、化石燃料の利用効率を徹底的に高めることです。現在の化石燃料エネルギーの利用効率は、わずか2割程度にすぎません。せっかく生産されたエネルギーのうち7割以上が、その製造や流通の過程で大気に放出され捨てられているのです。

 日々の暮らしは自然エネルギーに転換できるとしても、大型飛行機を飛ばしたりするのは、やはり石油でなければできません。化石燃料の使用をゼロにはできないとすれば、その利用効率を上げる技術開発が必要不可欠です。高効率な熱と電気の利用、そして廃熱は無駄に捨てず、ヒートポンプや高効率燃焼などの技術でエネルギーとして完全に使い切ることが必要です(図2)。

図1

図2

 このとき温暖化対策と資源循環の視点から重要な課題が、化石燃料の燃焼で出された二酸化炭素を、太陽光から作った水素による酸化還元で再び石油へ戻す再資源化を実現していくことです(図3)。つまり、石油の利用から再び石油へとリサイクルするわけで、これは技術的に可能です。水素を使って二酸化炭素を還元するくらいなら、水素を石油への転換に使うのではなくて、そのまま燃焼エネルギーとして利用すればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、現時点の水素エネルギーは自然エネルギーと同様に、社会を支える動力源としてまだパワー不足です。水素エネルギー社会の実現はもちろん目指しつつ、一方でより現実的な問題解決のプロセスに水素を有効利用することが、より重要です。

図3

図4

建築家志望から思いがけず転身

 じつは学生時代、建築家になりたくて工学部に進学したのに、体育会ラグビー部で頑張りすぎて(笑)、人気の高い建築学に進むことができませんでした。あまり好きではなかった化学専攻に進んだものの、建築で飯を食っていくという夢が捨てきれず、他学科履修枠を最大限使って、建築の講義ばかり履修していました。デッサンもやりましたよ(笑)。

 4年になり、大手建設会社から内定までもらっていたんですが、周りの人から「建築学科を出ていないのは絶対不利だ」と言われて、あきらめました。石油会社からサポートをいただきそのまま大学院へ進みました。修士課程のときに書いた研究論文が、英国王立化学会という由緒ある学会からおもしろいとして取り上げられ、海外で研究が評価されるという感覚を初めて味わいました。それをきっかけに研究がおもしろくなっていき、さらに博士課程に進みました。

 評価された研究は、常温に近い低温でメタンからメタノールを生成するというものでした。高温の化学が盛んなのに対して、常温の化学を手がける研究者は多くありません。以来今日まで、常温の触媒化学にずっとこだわってきました。高温をかけてやれば、反応は進むし、無理が効きます。けれども常温で同じようなことを実現するのはとても難しい。だからこそ逆に、チャレンジ精神が湧いてきます。

 例えば、自動車の吸排気系の触媒などは、非常に高い浄化性能を持っています。最近の自動車は、走行中に吸気された外気よりも、排出するガスのほうがきれいだということ、ご存知でしょうか。しかしせっかくの高い性能を持ちながら、唯一の難点は、エンジンが温まってフィルター内の触媒に高温がかからないと性能が発揮できない点です。最初のスタート時の5分は触媒が冷えているので、汚い排気ガスが垂れ流しの状態になります。

 この問題を解決するのが、常温化学の専門家としての腕の見せ所です。数年前から複数の自動車メーカーと共同で、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)やJSTの戦略的創造研究推進事業(CREST)といった国の大型プロジェクトを組んで、低温時にも高い浄化性能を発揮させる触媒の研究開発に取り組んでいます。

ウオッカで水素を作る装置を実現

写真1 世界初の常温常圧で作動する小型水素製造装置

 最近、ナノテクノロジーが先端分野として脚光を浴びていますが、あえてナノという言い方こそしてきませんでしたが、私たち触媒化学の分野では、もうずっと前からナノレベルの研究開発が当たり前になっています。例えば、自動車のフィルターには、ロジウム、パラジウムなど希少金属のナノレベルの粒子が無数に散りばめられています。希少金属を加えると触媒反応が良くなるのですが、価格の変動が激しく、1グラム3万円以上になることもあります。効果を上げて使用量を減らすことができれば、大きなコストダウンにつながります。これも2009年にNEDOの希少金属代替プロジェクトに採択され、力を入れている研究テーマです。

 常温に加えて、もう1つこだわっている研究の柱が、電場をかけて放電プラズマ反応などを加えるプロセスです。触媒に電極を差し込んで、ちょっとした電場をかけてやることで、低温でも反応を進みやすくすることが可能です。常温の触媒化学と同様、電気系の触媒化学をやってきた人もとても少ないので、自由な発想でいろいろなことを手がけてきました。

 その1つとして、常温常圧で作動する超小型水素製造装置を開発しました。非平衡放電というプロセスを組み込むことで、お酒のウオッカを注いで電源スイッチを入れるだけで、水素70%のガスがすぐに生成される高効率な装置を実現しました(写真1)。私の基本特許をもとに、2001年にベンチャー企業を立ち上げ、経済産業省の助成金を取って実証研究に取り組んできました。将来の水素社会の実現を夢見ながらの先駆的な研究ですが、すでにプロトタイプの開発フェーズを終えて、今後はさらに高齢者向けのシニアカーや、電動車椅子、未来のスクーターなど、将来の製品への応用に夢がふくらんでいます。前述した自動車排気ガスの触媒の開発も、この技術開発を活かして進めています。

時事問題から研究の間口を広げる

写真2 ゼミでは、学生と一緒に新聞記事を持ち寄って幅広く社会問題、時事問題の議論も行っている。最近は、中東諸国の民主化の波、中国の起債ブームなども取り上げた

 研究をするにあたって、人の後追いは絶対しないというのが私のモットーです。「問題の本質」は何かを突き詰めて考えれば、おのずとやるべきことが見えてきます。そのためには、研究の世界だけに目を向けていてはだめで、産油国の政治情勢はもとより、高齢化社会、国際政治、農業や食糧などへ、視野を広げておくことが大切です。学生には、「間口を広く掘れ」と指導しています。まず間口を広く掘らないと、深い穴は掘れません。そのために、ゼミでは新聞記事を持ち寄って時事問題を議論しています(写真2)。

 先例がないものをゼロから立ち上げてきたので、周りから理解されない時間も長いのですが、いったん共同研究した企業とは、本質的なことを議論しあうなかで、強い信頼関係を築き上げてきました。最初はほとんど見向きもされなかったのが、徐々に周りが意義を認めてくれるようになり、共同研究プロジェクト、さらには国家プロジェクトへと大きく発展していく、そういう理想的な展開ができています。現在、共同研究している複数の自動車メーカー、触媒メーカー、石油会社などとは、いずれもこの6〜8年、切れ目なく次々とプロジェクトを立ち上げてきています。

 研究のアイデアは、よく夢の中でひらめきます。夢の中で実験をしていて、「ああ、電極をこう差してやればいいのか…」といったイメージが具体的に湧いてくる。忘れないように書き留めておいて、実際に試してみたり、しばらく寝かしておいたりします。そうした断片的な着想や、時事問題などのネタの蓄積が、やがて相互に結びついて1つの研究プランにまとまっていく――これが私の研究スタイルです。

関根 泰(せきね・やすし)/早稲田大学理工学術院准教授

1968年生まれ。東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程修了(工学博士)。東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻助手、早稲田大学理工学部応用化学科助手、同・ナノ理工学研究機構講師、同・理工学術院応用化学科講師を経て、2007年から現職。2011年よりJSTフェロー(研究開発戦略センター・エネルギー環境ユニット)を兼務(2011/4-2013/3予定)。日本エネルギー学会進歩賞(学術部門)、プラスチックリサイクル化学研究会(FSRJ)研究進歩賞、触媒学会奨励賞などを受賞。