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研究力

▼知の共創―研究者プロファイル―

小尾 敏夫/早稲田大学国際学術院(大学院アジア太平洋研究科)教授、電子政府・自治体研究所所長 略歴はこちらから

電子政府の世界的研究拠点を
超高齢社会日本に構築する

小尾 敏夫/早稲田大学国際学術院(大学院アジア太平洋研究科)教授、電子政府・自治体研究所所長

ようやく日本に政府CIOが誕生

 電子政府(e-government)という、行政の業務やサービスを電子化する活動について、黎明期から研究や政策提言に取り組んできました。アメリカで1980年代後半から、日本でも1990年代に入って進められてきました。まだ若い分野ですが、先進国、途上国、新興国を問わず、きわめて重要なテーマです。併せて、情報化を司る専門的なリーダーとしてのCIO(Chief Information Officer;最高情報統括者)の役割についての研究、提言、国際的な人材育成活動も行ってきました。

 アメリカでは、政府も企業も早くから挙ってCIOを設置してきましたが、日本ではなかなか取り組みが進まず、2000年代に入ってようやく各省庁にCIOが配置され、それなりに電子政府化は進められてきました。しかし、どうにも省庁間の取り組みの内容やレベルがばらばらで…。ここ数年は、政府全体のCIOを置くべきだとしつこく委員会等で進言してきました。ようやく2013年5月に政府CIO法が施行され、政府CIO(内閣情報通信政策監)として、民間企業で電子政府事業に取り組まれて来た遠藤紘一さん(リコー元副社長)が正式に就任されました。電子政府なら省庁を横串で刺せるはず、風穴を開けてほしいと期待しています。(→政府CIOポータルサイト

 日本の電子政府は、情報システムやネットワークのインフラ面では世界一だと思うのですが、それをどう使うか、アプリケーションやサービスの面でまだまだ遅れています。例えば、税金申告を電子化するe-taxは、最近ようやく普及し始めました。年金情報もやっと統合的に電子化されてきましたが、国民にとって使いやすく便利な仕組み、行政サービスを効率的に進める仕組みという視点からすると弱い。自動車免許やパスポートの申請にしても、もっと便利になっていいはずですよね。政府CIOの設置を契機として、電子政府化へさらに大きく踏み出してほしいし、私もさらに様々な支援活動をしていくつもりです。

電子政府ランキングを世界へ発信

 そもそも電子政府へ関心を持つようになったのは、1980年代にコロンビア大学日本経済経営研究所の主任研究員として、ニューヨークに滞在していた時です。当時、アメリカ最大の企業で、電話通信会社として独占的な事業を展開していたAT&Tが、独占規制政策により1984年に分割化されることになり、その前後数年にわたって大変な議論になりました。なにせ国民10人に1人がAT&Tの社員という規模だったのですから…。

 この変革を間近に見て、「全土のネットワークインフラを築いているし、公共的な事業なのだから独占でも仕方がないのでは」というそれまでの漠然とした考えは打ち砕かれました。ほどなく日本でも電電公社の民営分割化が進められました。当時、情報化は私自身の直接の研究テーマではなかったのですが、インターネットという新しい通信インフラの可能性に興味が湧いてきて、電子政府の議論も登場し、ICT化によって変わる政府と公共サービスを自分の今後の研究にすべきだと直感しました。

情報化や電子政府への貢献は国際的に高い評価を受けている。写真は、第7回世界電気通信賞の授賞式にて(2013年5月、インド・ニューデリー)

 国連でのキャリアを通じて培った国際的な人脈や交渉力をフルに活用して、研究を国際的かつ組織的に展開していきたいと考え、本学に着任した2001年に、国際CIO学会(IAC Japan)を世界に先駆けて設立しました。その後、世界各国に学会設立が広がり、これらをまとめる世界学会(IAC)も組織化しました。さらに2004年には、世界の電子政府ランキングもスタートさせました。ちょうど10年目になりますが、世界中から大変注目されるランキングとなっています。世界中の学者や専門家と相談しながら、30数項目にわたる評価指標を作るところから始めて、代表的な55カ国を対象にランキングを行い、早稲田大学の名前で毎年2月頃に発表しています。最近では各国政府の要人の方々がわざわざ本学へ訪れたり、国際会議でもすぐに取り囲まれてしまってアピールされたり…(笑)、うれしい反響です。

超高齢社会にこそ電子政府が必要

『シルバーICT革命が超高齢社会を救う』(2011年9月、毎日新聞社刊、岩崎尚子と共著)

 もう1つ重要な研究テーマが「超高齢社会と情報化」です。日本は世界の高齢化の先頭を突っ走ってきて、超高齢社会に世界で唯一、突入しました。ずいぶん前から世界中の人に「日本は大変だね。どうやってサバイバルしていくのか、ぜひ教えてほしい」と言われてきたのですが、肝心の日本ではしっかりとした国民的議論になっておらず、内心、この国は真剣に将来のことを考えているのかと疑問に思ってきました。電子政府こそ超高齢社会のサバイバルの切り札になるはずだ、電子政府と高齢化の2つを融合させて何が解決できるのか、何が変わるのかという研究に、今のめり込んでいます。

 東日本大震災では、死傷した方の7割以上が高齢者でした。災害対策とは高齢者対策だといっても過言ではない。高齢者に優しいまちづくりへと社会システムそのものを変革していかなければ、未来の災害対策は実現しません。情報化+超高齢社会はもちろん、さらに防災が加わった政策となれば、世界中で日本以外の国では提言しえないのです。日本の体験と実践をもとに世界を主導していくことが、期待されています。8年前から本学とユネスコの間で、防災教育国際共同研究プロジェクトの調印を交わし、私が代表を務める電子政府・自治体研究所が代表機関として、世界の主要30大学との大学間共同研究による防災教育の確立と普及を目指した活動を牽引しています。

 これから日本や欧米に続いて、中国をはじめ世界中の国が遅かれ早かれ高齢化を迎えます。中国が高齢化を迎えたら――それこそICT化を図らなければ解決できません。途上国・新興国では先進国とは異なり、貧しい地域が貧しいままに高齢化していくことが政情不安に結びついていくことが懸念されます。各国政府も、高齢化問題を危機的に捉えています。こうした状況に対応していくために、OECDとAPEC、2つの国際機関にプロジェクトチームを設置することを提言し、言い出した私自身が両方の委員長を務め、研究プロジェクトと国際会議を推進してきました。

 その1つの集大成として、2012年9月にはOECDとAPECの合同会議「21世紀最大課題―超高齢社会と情報社会の融合」を本学で開催し、世界中から400人近い専門家や各国要人が集まって3日間発表と議論を繰り広げました。これに先立つ5月、北京で第1回「日中韓高齢社会対策会議」を開催し、日本団長として産学官混成チームを率いて訪中しました。最近では2013年11月バンコクで国際電子政府会議、12月はブラッセルで日本―EU高齢社会フォーラムを開催します。どちらも議長を務めます。

 一連の国際的な取り組みや、国内でもICT成長戦略会議委員や電子政府推進員協議会長として、電子政府の政策形成、普及促進に尽力したとして、2013年度の総務大臣賞を受賞しました。これまでの努力が認められて大変うれしく思っています。

電子政府の国際会議、学会等で数々の議長、招待講演を務めてきた(写真左は2011年シンガポールでのiGOVグローバルフォーラム講演風景、写真右は2013年北京での国際CIO学会世界大会講演風景)

サービスイノベーションの時代へ

 10年前、20年前に比べると、膨大な情報量が流通・蓄積されるようになり、まさにビッグデータの時代を背景に、電子政府にもナレッジマネジメントの手法を融合することが求められています。これからはCIOではなくてCIIO(CダブルIO)だ、Information+Innovationだと国際会議で主張したら、すごく賛同されて…(笑)。現在、世界に向けて電子政府によるサービスイノベーションを興していくことを目標に、シンガポール政府と共同研究を組織して、彼らの効率的な行政運営のアプリケーションと日本のICTとを融合する取り組みを推進しています。

図 スーパーCIOに求められる4つの“I”

 大学の授業でも電子政府を講義していますが、予想以上に興味を持って受講してくれる学生が多く、手応えを感じています。現在、タイ政府の顧問として、国家戦略の政策提言を行っており、政府幹部が本学に来て研修するなどの教育交流を続けていますが、こうした教育活動の裾野をもっと若い世代へ広げていかなければと意欲を燃やしています。やはり電子政府のように、日本でなければ学べないという分野を確立して、アジアの優秀な学生にたくさん留学してもらうことが次の目標です。

小尾 敏夫(おび・としお)/早稲田大学国際学術院(大学院アジア太平洋研究科)教授、電子政府・自治体研究所所長

慶応義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。早稲田大学大学院にて博士号(国際情報通信学)取得。国連開発計画の企画担当官、コロンビア大学主任研究員、労働大臣秘書官などを経て、2001年より現職。内閣府IT戦略本部評価専門調査会委員、経産省CIO戦略フォーラム委員などを歴任。北京大学(中国)、ジョージワシントン大学(米国)、エセックス大学(英国)、サンクトペトロブルグ国立大学(ロシア)、タマサート大学(タイ)の各客員教授を務めてきた。現在、APEC電子政府研究センター長、総務省ICT成長戦略会議委員、総務省ICT超高齢者構想会議座長代理、総務省電子政府推進員協議会会長、(一社)国際情報化協力センター評議員、国連ITU事務総長特別代表、国際CIO学会世界会長、OECD・APECシルバーICTプロジェクト委員長、(一社)情報通信ネットワーク産業協会顧問、(一社)電気通信協会委員長、タイ政府情報通信省顧問などを務める。2013年第7回世界電気通信賞、平成25年度総務大臣賞(情報化促進貢献個人等表彰)受賞。