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研究力

▼知の共創-研究者プロファイル-

黒田 義之/早稲田大学高等研究所助教 略歴はこちらから

ナノ物質の構造を制御し
新しい機能性材料を作りだす

黒田 義之/早稲田大学高等研究所助教

誰も見たことのない物質を作る

 私の専門は無機材料化学という分野で、セラミックスや金属材料などを化学的に合成する研究を行っています。ナノテクノロジーの発展により、機械加工では取り扱えないミクロンよりも小さなナノレベルの分子構造を化学的反応によって操作し、新しい物質を生成・加工することができるようになってきました。誰も見たことのない物質をいかに作り出すかが、私の研究目標です。微細でかつ美しい構造を持つ物質を作りたい――美しい構造からは、分かりやすく応用しやすいルールを引き出すことができます。

 現在、1)コロイド結晶を利用したナノ構造材料の合成、2)環境分野などで新たな有用性を発揮する粘土鉱物関連物質の合成、という2つの大きな柱で研究活動を行っています。もともと学部時代に、現在の所属研究室の教授であり恩師でもある黒田(一幸)先生の研究室に入って最初に取り組んだのが、この両方にまたがる研究でした。「粘土鉱物で規則的な構造を持った物質を合成する」というテーマでした。この研究は1年とちょっとで完成しましたが、その後も素材こそ変わるものの研究の根幹は共通していたように思います。今振り返ればひとえに黒田先生のテーマ設定の勝利でした。その後、修士・博士課程と進み、材料合成の様々な知見を学んで、現在はそれぞれのテーマ領域で独自な視点の研究に取り組んでいます。

 1つめの研究では、ナノ空間材料の合成方法の研究に取り組んでいます。規則的な空洞が集積する多孔体を合成することで、ナノレベルの微細な物質を吸着・分離させる触媒材料などの利用可能性が広がります(図1)。ナノレベルでも鋳型を形成して金属を流し込む鋳型合成法という方法を使います。例えば、シリカの粒子を規則正しく並べたコロイド結晶の鋳型を作り、金をイオン化させた前駆体を流し込みます。金イオンを金属に還元し、鋳型を溶かして取り去れば、微細な穴が規則的に並んだ金の多孔体を作ることができます(図2)。異なるサイズの粒子を組み合わせるなど、設計をコントロールすることで、高機能な物質を様々に合成することが可能です。

 

図1 ナノレベルの多孔体

図2 シリカ粒子の鋳型から3次元多孔体を合成

             
鋳型のナノ構造を“壊す”新合成法

 この研究で最近、今までにない方法で物質を合成することに成功しました。ナノ粒子集積体の鋳型を意図的に壊す反応を起こさせることで、薄い板状の物質を形成できるという発見です。じつは最初にこの現象が起きたときは、実験の失敗だと思ってしばらく関心がなかった(笑)。ところがあるとき急に「なぜあのときあんな物ができたんだろう?」と気になり始めて再現実験を重ねたところ、金の析出スピードを遅くしてやると少ない箇所に反応が集中して金が膨張し、鋳型がある方向にパカっと割れて、そこに金が流れ込んで板状の物質を形成することが分かりました(図3、図4)。析出スピードが速い場合には、あちこちで同時に反応が起こり、金は鋳型全体にわたって分散するためこの現象は起きません。

 

図3 遅いスピードの析出が板状物質を生成

図4 金が反応箇所に集中し膨張、鋳型に劈開面を形成

     

 鋳型の構造によって異なる規則性を持った物質が作れることも分かりました(図5)。どのような配列構造のときに割れやすいのかについても幾何学的に解析し、粒子と粒子の結合本数がいちばん少ないところ、例えば四角形とか六角形に並んでいるところは結合が少なく、脆くて割れやすいことが分かりました(図6)。今のところ、ナノスケールだから見られる特殊な現象であること、結晶成長が速い金だから起きることなどが確認されています。この物質合成は、「鋳型の構造を変化させる」という、従来の鋳型合成法の常識とは異なる発想にもとづくもので、ナノレベルの合成法の可能性を開くものとして国際的にも高く評価され、2015年度早稲田大学リサーチアワード(国際発信力)を受賞しました。

   

図5 鋳型の構造によって空間の規則性も異なる

図6 割れやすい構造を幾何学的に解析

         
粘土鉱物の陰イオン吸着能を引き出す

 もう1つの粘土鉱物の研究では、有害物質を選択的に除去するなどの高機能性を有する物質の合成に取り組んでいます。粘土は保水性や吸着性が高く、粒子は薄いウエハース状の扁平な構造をしており、この間に有害なイオンを吸着させてそのまま廃棄するなど、環境にやさしい材料として使われます。粘土のほとんどはプラスのイオン(陽イオン)を吸着するのですが、私が取り組んでいるのはマイナスのイオン(陰イオン)を吸着する粘土鉱物の合成研究で、六価クロム、ヒ素、セレンなどの有害物質の処理に有用です。

 しかし陰イオンの場合、ターゲットとするイオンよりも先に、二酸化炭素が水に溶けた炭酸イオンが吸着されてしまうという問題点があります。この解決策として2006年に環境資源工学科の山崎淳司先生の研究室で、層状複水酸化物の粒子をより微細化した微結晶を用いれば、二酸化炭素の影響をあまり受けないことが発見されていました(図7、図8)。

図7 陰イオン交換能は二酸化炭素の影響で低減

図8 微粒子化することで陰イオン交換能が向上

     

 私は合成化学の観点から、この微結晶をより精密に合成する方法の研究に取り組んでいます。塩化マグネシウムと塩化アルミニウムと三座配位子を混ぜて80 ℃に加熱するだけで、10 nmの層状複水酸化物を合成できること、しかも1つ1つの結晶の大きさがきれいに揃っており、濃度を変えることで結晶の大きさもコントロールできることが分かりました。この合成法で、二酸化炭素の影響をほとんど受けずにターゲット物質の吸着性能を向上させる物質を作ることが可能になります。現在はこの新しい合成法を中心に研究を進めています(図9)。

図9 高機能な層状複水酸化物の合成に成功

     
基礎的な合成法にこだわる

 小さい頃から工作や実験が大好きで、ものを混ぜ合わせて色が変化したりするのにワクワクしていました。高校の時には化学部に所属していたのですが、指導教員の方針が「何をやるか、どうやるか、すべて自分で考えよう」ということでした。高校2年の時に部員数が少なくなってしまい、弱気になって先生のところへ「何か面白い実験はありませんか」と聞きに行ったところ、「教えてしまったら意味がないよ」と言われてしまった。この時とても恥ずかしい気持ちになり、「研究は自分で考えなければ意味がないんだ」と悟ったことが、今ある研究者としての自分の原点です。

 応用化学、材料化学の道に進んだことは、自分にとってはとても自然なことでした。このジャンルなら何をやっても楽しめるという自信があります。これからも初心を忘れずに、誰も見たことのない物質を作っていきたい。最先端の複雑な合成法を駆使するよりはむしろ、少し知識があれば高校生でも挑戦できる、先進的な設備がないような国や地域でも扱える、基礎的な合成法の研究にこだわっていきたいと考えています。

黒田 義之(くろだ・よしゆき)/早稲田大学高等研究所助教

2006年 早稲田大学理工学部応用化学科卒業、2008年 同・先進理工学研究科応用化学専攻修士課程、2011年 同・博士課程修了。工学博士。2008~2011年 早稲田大学日本学術振興会特別研究員(DC1)、2011~2014年 東京大学工学系研究科特任研究員、2014年より現職。受賞歴:2015年早稲田大学リサーチアワード(国際発信力)、第69回日本セラミックス協会進歩賞、2015年JXエネルギー若手研究者奨励研究優秀賞、2010年NRF A3 Foresight Program Seminar 発表賞、2007年Journal of the Ceramic Society of Japan優秀論文賞 他。