早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > 研究力 > WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

TWInsが医理工の融合を変える
―東京女子医大・早稲田大連携 先端生命医科学センター

医・理・工融合研究の新拠点「TWIns(ツインズ)」(正式名称:東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設)

 2008年3月、東京都新宿区河田町の東京女子医大病院に隣接する敷地に、医学・理学・工学の融合によって生命医科学研究を推進する新拠点、「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」がオープンした。東京女子医大のT、早稲田のW、そしてInstitutionを組み合わせて、通称「TWIns(ツインズ)」と呼ばれる。その名の通り、2つの大学によって1つの研究教育施設とその活動が共同で運営されるという、画期的な取り組みがスタートしたのである。

 新拠点オープンの背景には、両校間の長きにわたる医工連携の歴史、組織の壁を超えた人的交流の歴史があるということは、一般にはあまり知られていないだろう。今からちょうど40年前、心臓外科の名医として知られた東京女子医大の榊原仟教授(故人)は、人工心臓の実現を夢見て海外の最新文献を収集する中で、流体素子の技術によって心臓を動かすというアイデアに注目し、その技術を国内に探し求めていた。ようやく見つけ出したのが、早稲田大学理工学部機械工学科の土屋喜一教授であった。意外にも目と鼻の先の早稲田に、流体素子の専門家がいたのである。さっそくコンタクトを取り合った両者の間で、共同研究が始まった。

 その数年後、1人の鉄道好きの学生が、早稲田大学理工学部に入学する。学生は、土屋教授が鉄道技術研究所と共同で手がけていた新幹線のスプリンクラー開発のプロジェクトに憧れ、学部3年の時に土屋研究室の一員となった。その学生こそが、今回の新拠点を率いる早稲田側のリーダー、梅津光生(先端生命医科学センター長/創造理工学部総合機械工学科教授)である。

「スプリンクラー技術も血液も同じ」

TWInsの早稲田側リーダー、梅津光生教授

 梅津が大学院に進学するにあたり、土屋教授は「医学」を志すことを勧めた。これに対して「僕がやりたいのは機械工学です。医学なんて関係ないじゃないですか」という言葉が思わず口をついて出た。しかし土屋教授は、「問題は関係があるかないかじゃない。関係をいかに創り出していくかが大事なんだ」と答えたという。

 「確かに、スプリンクラーの技術も、人体の血液循環も、どちらも流体制御という点では同じなんですね。当時は、工学がそこに何か寄与できるなんて思ってもみなかったんですが、振り返ってみれば、あのときの先生の言葉は、医工連携を実践するための哲学をまさに言い表していたと思います」

シリコーン樹脂で成型されたシミュレータ用血管

 大学院生となった梅津は、人工心臓の研究のために、東京女子医大に通う日々を送った。手術室、カテーテル検査室、集中治療室など、関係者以外立ち入り禁止の場所にも、すべてフリーパスで出入りでき、医師、看護士、検査技師ら、専門スタッフとも密接にコミュニケーションが取れるという、きわめて恵まれた環境が提供された。「異分野の若造がいろんな質問を投げるものだから、かえって面白がられて、みんな親身になって教えてくれましたね。そのうち医学の専門用語にも慣れてきて、気づいたら自分も“あっち側”の言葉でしゃべれるようになっていました」

 心臓外科の榊原教授が主宰する「あんぱん会」という毎月定例の研究発表会にも参加した。あるときそこで見聞きした心臓手術の手法に関する議論からアイデアがひらめき、人工心臓やゴム管を組み合わせて血液循環のシミュレーションモデルを組み立て、実験を繰り返してみた。「心臓機能が非常に弱っている場合には、Aの手術方法が、まだ回復の余地のあるような場合には、Bの手術方法が適している、ということを示唆するデータが得られたんです。これを発表したところ、みんながこれは面白い、これで医学博士の論文を書いてみたらどうかと言ってくれたんです」。かくして、スタッフが総力体制で研究をサポートする中で論文は書き上げられ、医学博士号が東京女子医大より授与された。

一つ屋根の下、成果着々

 その後、梅津は早稲田を離れ、国立循環器病センター、シドニー・セントビンセント病院などで人工臓器開発プロジェクトを牽引したのち、1992年に再び母校に戻ってきた。その間も、両校の医工連携は、人工臓器、生体計測、医用材料などの分野で脈々と続けられてきた。2000年代に入って、早稲田の医学系・生命科学系領域への研究志向は、段階を追って具体的な組織のかたちを取り始める。2001年には、大学院に学際型の「生命理工学専攻」が創設された。2007年には、「生命医科学科・専攻」を新設。これに、電気・情報生命工学科・専攻、教育学部の理学部生物学専修、総合機械工学科バイオ・ロボット系、さらには文部科学省のスーパーCOE拠点に採択された「先端科学・健康医療融合研究機構(ASMeW)」などの複数の部門が横断的に連携しながら、東京女子医大との連携においても組織ぐるみの展開を進めてきた。

 こうした一連の動きが結実するかたちで、今回の統合的な拠点形成の実現がなされたのである。東京女子医大病院に隣接する国有地の払い下げにより、2千坪という敷地が確保された。当初は、この敷地の中に、それぞれの大学の建屋が別々に建てられるという案が出ていた。確かに、異なる大学法人が、1つの設備を共同運用管理するとなると、手続き的に面倒なことが多い。

各フロアには、研究員たちがコーヒー片手に気軽に議論を交わせるスペースが設けられている

 「しかし、なんで連携拠点なのに別居なんだ、ちょっと待ってくれよと(笑)。やはり自分の経験から言っても、一つ屋根の下で一緒に暮らすこと、いわば同棲関係に持ち込むことが、医工連携においてはものすごく重要です。工学者が医療の現場に入り込み、医学の世界にのめり込んでいける環境がなければ、真の医工連携はなしえない。今度はそれが両方向で可能になるわけです」。議論の末、諸々の問題を乗り越えて、1つの棟に統合することとなった。

 オープンから数ヵ月で、すでに“同棲”の効果は上がっている。例えば、早稲田の学生が医学系の学会で発表するときには、そのあたりでコーヒーを飲んで一服している臨床医をつかまえてきて、予行演習を見てもらう。医者から見てどんなプレゼンが受けるかなど、ワイワイガヤガヤと議論しながら、あっという間に質の高いプレゼンが完成していく。「結局、形式ばった円卓会議からは、クリエイティブなアイデアは出てきません。なんとなく廊下で出会いがしらに立ち話をしたりなど、普段着の会話、カフェ的な議論の中に、刺激的なアイデアが潜んでいるんです。だからこの施設には、各フロアのあちこちにラウンジ的なスペースが設けられています」

TWIns(ツインズ)全景。一棟の建屋に2つの大学が同居することのメリットは大きい

常識にとらわれないビジョン

組織の壁を超えたオープンなディスカッションが、研究現場のあちこちで常に繰り広げられている

 「早稲田にとって、新拠点を形成したことの目的は大きく2つあります。1つは、これまで全学に分散していた生命・生物系の研究を1ヵ所に結集させること、もう1つは、医学と理工学との連携による新分野を切り拓くこと、そのための新しい環境を整えることです」と梅津教授がいうように、医・理・工の諸領域の連携がさまざまに交錯する中で、これまでの医工連携の常識にこだわらない、あるいはそれを打ち破るような斬新なシナリオが、新拠点を舞台にあちこちで紡ぎ出されていく、そんなビジョンが描かれている。

 既存の分野別にこだわらない組織構成もユニークだ。生命理工学専攻を創ったときから、研究内容ではなく、研究スタイルでグループを構成するやり方が取られてきた。「第1のグループがこれまでの知見をベースに積み上げ型の研究を展開するアプローチ、第2のグループが未知の現象を深く掘り下げていく探究型のアプローチと、大きく2つのグループに分けています。意外とこれがバランスがよくて、人数も同じくらい、理学博士と工学博士の比率もそれぞれ半々くらいの構成になっています」(梅津教授)

 3月19日には、今後のTWInsの向かうべき方向について議論する、両校共催のシンポジウム、「医・理・工融合研究の新しい連携のかたち」が東京女子医科大学弥生記念講堂で開催され、若手研究者たちを中心に、未来へのビジョンが活発に議論された。オープン・イノベーションのための開かれた体制づくりもまた、重要課題である。「未知の領域を開拓するのに、ここにいるメンバーだけで完結するはずもありません。学内・学外に広くリソースを求めていく、あるいは逆に求められるものに応えていく。そのためのリサーチコーディネートの制度も拡充させていかなければと考えています」

 新奇なアイデアと偶然に出会う能力を「セレンディピティ」という。それは一見偶然的な出会い、運に恵まれた出会いに見えるものの、その背景には、長いあいだの努力や経験がめぐりめぐって、そのような出会いを成就させる条件を整えているのだともいわれる。40年という長い年月の蓄積から成就された新連携拠点「TWIns」には、そうした条件が十分に醸成されているように思われる――。

TWInsを構成する早稲田大学側の組織「先端生命医科学センター」の体制

参考リンク

早稲田大学 先端生命医科学センター
http://www.waseda.jp/advmed/index.html

早稲田大学 先進理工学部生命医科学科/先進理工学研究科生命医科学専攻
http://www.biomed.sci.waseda.ac.jp/index.html

早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構
http://www.waseda.jp/scoe/

東京女子医科大学
http://www.twmu.ac.jp/