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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

《GLOPEII》国際政治経済研究センター(2008年度グローバルCOE*採択)

政治と経済の協働で開く新領域――「制度構築の政治経済学」

グローバルCOE拠点《GLOPEII》リーダーを務める田中愛治教授

 世界中がグローバルな経済や情報のネットワークで結ばれるようになった今日、世界の様々な現象は、相互に密接に影響し合って動いている。とりわけ経済と政治は密接に関わり合い相互作用を及ぼしている。一つの現象が、良い影響であれ、悪い影響であれ、国境や地理的距離を超えてあっという間に波及する。政治経済においてはどのような現象であれ、国内問題と国際問題はいまや境目なく結びついている。

 こうした社会においては、地域経済・国内経済・世界経済の問題を、あるいは政治と経済の問題を、それぞれ分断して考えていては、問題の解決につながらない。しかし学問の世界では、経済学、政治学においてそれぞれの研究領域が分断されたまま、簡単には融合できないでいるのがこれまでの現状であった。

 早稲田大学政治経済学部では、こうした問題に真っ向から取り組んでいくには、学問の世界の再構築が不可欠であるという意識が早くから持たれ、実行に移されてきた。1999年には新学科創設の構想が具体化され、2004年には、政治経済学部の中に政治学科、経済学科に次ぐ第3の新学科として、「国際政治経済学科」を創設した。

 こうした動きと並行して、2003年には、同じ志の下で組織された研究教育拠点「開かれた政治経済制度の構築」が文部科学省の21世紀COE事業に**採択され、5年間の事業をスタートさせた。同時にその拠点として、「早稲田大学国際政治経済研究センター《GLOPE》」を設立している。

 21世紀COE事業は現在、2008年度からスタートしたグローバルCOE事業として、教育研究拠点「制度構築の経済学―期待実現社会に向けて―《GLOPEII》」に発展的に継承されている。両事業の展開を中心とするGLOPEの取り組みについて、グローバルCOEプログラム拠点リーダーを務める、田中愛治・政治経済学術院教授に話を聞いた。

(*「グローバルCOE」は、文部科学省による、国際的に卓越した教育研究拠点形成のための重点的支援プログラム。COEはセンター・オブ・エクセレンス=卓越した研究拠点の略)
(**「21世紀COE」は、世界的な研究教育拠点形成のための重点的支援プログラム。一連の大学COE形成支援事業の初期のプログラムとして、2002年度からスタートした)

グローバルCOEプログラムでは、政治学と経済学の協働により、新たな「制度構築の政治経済学」の確立がめざされている

開かれた方法論の開発に取り組む

 21世紀COEプログラム「開かれた政治経済制度の構築」では、文字通り、政治学と経済学が協働して、開かれた学問領域のための共通の方法論の確立が目指されてきた。

 「当初、外部からは、“政治学と経済学の融合なんて、そんなことできるわけがない、ほとんど不可能だ”という声が大勢でした。しかし5年間をかけて、新しい方法論の開発に協働で取り組んだことが一定の成功をみせており、政治学者と経済学者が共通の方法論を共有しうるということに確信を得ています」(田中教授)

早稲田大学「政治経済学実験」の実験ルーム。複数の人間を対象に、ある事象に関する実験を同時に行うことができる。被験者の入力データをもとに、大型コンピュータが社会事象をシミュレーションする。

 田中教授が言うように、グローバル社会の諸現象と対峙するための政治学と経済学の共通の方法論は、既存の理論を戦わせることではなく、政治学者と経済学者が協働して新しい社会現象とどう向き合うべきかを追求する中で――具体的には社会現象をミクロとマクロから分析する実証研究の新しいアプローチを開発していく中で見出されてきた。

 その1つが、「政治経済学実験」という、デスクトップ・パソコンをサーバーに連結させた実験室で、人間心理や行動を実験によって解明する手法である。人間がある集団や社会の中で、どのように振る舞うのか、また他者の行動を見ながら被験者はどう行動するのかを観察し、演繹的に組み立てられた理論モデル通りに、人間の行動が収斂するのか否かを検証する。「従来は、ゲーム理論に依拠する数理的な理論モデルが主流でしたが、近年は認知心理学や進化ゲーム論など新たな視点からの理論モデルが提示されてきています」(田中教授)

最先端の社会調査手法「CASI」

 さらにもう1つが、「CASI(Computer Assisted Self Interview)」という、新しい社会調査手法の開発である。社会調査は、世論調査などに現在も用いられている無作為抽出した対象者への戸別訪問方式の聞き取り調査の手法だが、属性に関係なく全員に一律の設問構成が用いられるため、一人ひとりの心理や行動に深く切り込んでいくことができないことや、被験者が調査員に対して自分の行為を良く見せたがるといったバイアスが働くことの問題点が指摘されてきた。

 これに対してCASIは、質問紙をノートパソコンに置き換えることで、属性や前問の回答パターンに従ってより深い質問へ入っていくことが容易にできるのと同時に、調査員に見えないように被験者が自分自身で回答を入力することができるので、回答にバイアスがかからず、本音を正直に入力してもらうことができる。

日本初のノートパソコンによる全国世論調査(CASI調査)の実際の画面例。早稲田大学では、これに政治経済学実験を組み込んだ世界初のCASI調査による実験に成功している

 「世論調査では世界一の研究を誇るミシガン大学のISR(社会調査研究所)で使っているものでも、CAPI(Computer Assisted Personal Interview)という、今までどおり調査員が入力する方式に留まっているため、回答のバイアスが依然として残ります。スタンフォード大学では、インターネットを用いたCASIを実現していますが、戸別訪問方式と違って、対象者にノートパソコンを貸与し、ネットにつないで操作してもらわなければならない。コンピュータリテラシーのあまり高くない対象者を幅広くカバーすることができないのが難点です。その点、我々の開発したCASIは、今考えられる最先端の調査手法を実現しており、世界からの注目も非常に高いものになっています」(田中教授)

 さらに、早稲田大学《GLOPE》は実験室での政治経済学実験をCASI調査に組み込んだ全国世論調査を、世界で初めて成功させた。21世紀COE事業においてもこの点が高く評価された。

 2008年度からのグローバルCOE事業では、さらにミクロとマクロの視点からの理論と実証の相互作用を通して、「Waseda Model」と呼びうる新たな政治経済学の確立が目指されている。

キー・コンセプトは「制度」と「期待」

 グローバルCOEプログラム「制度構築の政治経済学」では、2つのキー・コンセプト、「制度」と「期待」が、新たに打ち出された。

 「個人や集団の行動は、現在・将来の生活や他者の行動について自らが抱く願望や予想、すなわち期待に影響されます。そうした期待の形成は、社会で形成される行動規範やルール、すなわち制度により促進・抑制されます。我々のグローバルCOE、《GLOPEII》が目指すのは、いかにして期待に応えうる制度が構築できるのか、またそのような制度を持つ〈期待実現社会〉はどのように成り立ちうるのかを追求していくことです」(田中教授)

「期待実現社会」のイメージ。人々が社会や他者の行動に対して抱く「期待」が共有される中で、制度が形成され、人々の期待に応える社会が実現されていく

 身近な例を考えてみよう。値段は高いが頑丈でカラスが食い散らかさない新しいごみ袋の制度を導入したとしよう。10軒のご近所さんの中で、どうもほかの9軒は、これまでの安いごみ袋で済まそうとしているらしいと察知すれば、うちも安いので済ませようかという心理が働く。逆に、10軒のうち8軒は、すでに新しいごみ袋に変えているらしい、変えていないのはうちともう1軒だけだということになれば、最後の1軒になるのはいやだから、早いところ新しいごみ袋に切り替えようという心理が働く。このように、人々はその制度の効果への期待と、他者の行動への期待によって、自分が新たな制度に参加するか否かを決定するというわけだ。

これまでの研究成果をもとに多数の書籍が刊行されている

 さらにそうした期待の形成においては、それぞれの社会に根づいている価値規範が、大きな影響をもってくる。

 「日本人が新しい総理大臣に期待することと、アメリカ人が新大統領に期待することは違っているかもしれない。同じ制度でも、その社会が歴史的に培ってきた価値規範や、置かれた環境条件によって、期待という変数が制度の機能に及ぼす影響力は変わるでしょう。その相違を明らかにするためには、規範理論による分析視角も必要になると考えています」(田中教授)

世界にも例のない一貫教育体制

2009年3月、ケネス・アロー氏(スタンフォード大学名誉教授)に名誉博士学位を授与する、白井克彦・早稲田大学総長

 早稲田大学政治経済学術院では、学部から大学院博士課程まで、政治と経済が専攻の壁を超えて、国際政治経済の教育を行うコースが2012年には完成する。その年には、本拠点《GLOPEII》の事業もまた完了する。ここまでの一貫教育研究体制は、世界でも例がないという。

 「もともと本学創立時に、政治と経済を分けない政治経済学科としてスタートしたことが、大きな原動力になっています。日本のほかの大学はドイツの伝統にならって、政治学は法学部の中にあり、経済学部とは別にしたのですが、本学は英国の伝統にならって、政治と経済が1つの学科にまとまった。その後、学科から学部になり、時代の趨勢の中で政治学科と経済学科が分かれて別々に発展してきた経緯はありますが、近年の努力の中で、再びその一体性を取り戻しつつあります。本家の英国オックスフォード大学など欧米の大学でも、ここまで一貫した政治経済学のプログラムは実現していないと思います」(田中教授)

大学院生に囲まれたケネス・アロー氏

 これまで、ジョセフ・スティグリッツ、ダグラス・ノース、ケネス・アローといった、ノーベル経済学賞受賞者の錚々たる顔ぶれを、講演に招いてきた。その際にも、大ホールでの講演とは別に、大学院の学生たちとの小規模な意見交換のワークショップを必ず開催してきた。

 「この新しい領域を開拓するうえで、教員と学生は、教え教わる関係というよりも、協働して新しいテーマにチャレンジし、研究のプロセスを共有する中で共に成長していくことを重視しています。学生には、ノーベル賞級の学者の方々とも、同じ志を持つものとして対話をし、何かをつかみ取ってほしいと考えています」(田中教授)

大学院生のためのサマーセミナー風景(2008年夏)

 グローバルCOE、《GLOPEII》の事業が終了する2012年度には、この新しい国際政治経済コースの一貫教育を経た、博士後期課程の最初の修了生が誕生する見込みだ。まさに研究と教育の変革が同時進行で進められてきた取り組みの、集大成としての今後の成果に期待が大きい。

早稲田大学グローバルCOE拠点《GLOPEII》(国際政治経済研究センター)
http://globalcoe-glope2.jp/index.php

早稲田大学政治経済学術院
http://www.waseda.jp/seikei/index.html

早稲田大学政治経済学部
http://www.waseda.jp/seikei/seikei/index.html

早稲田大学大学院政治学研究科
http://www.waseda.jp/seikei/seiken/index.html

早稲田大学大学院経済学研究科
http://www.waseda.jp/seikei/gse/

早稲田大学大学院公共経営研究科
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早稲田大学現代政治経済研究所
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