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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

グローバルロボットアカデミア(2008年度グローバルCOE*採択)

ロボット研究の総力結集
―「M-Robotics」の構築目指す

 高度成長まっただ中の1960年代――。鉄腕アトムが人々の科学技術の未来への夢を駆り立て、その期待と興奮は1970年の大阪万博でピークに達した。こうした時代を背景に日本の本格的なロボット研究はスタートし、今日まで世界の最先端を走ってきた。
早稲田大学では、1966年に世界で初めて二足歩行ロボットと人間の歩行メカニズムの研究に着手、1970年には4つの研究室が共同して、限りなく人間に近いロボット(ヒューマノイド)の実現と、医療・福祉・生活支援ロボットの実現を2つの柱とした《WABOT》(ワボット;早稲田型ロボット)プロジェクトをスタートさせ、ロボット研究を発展させてきた。 2000年代に入ると、それまでの研究活動を総結集し新たな展開をみせる。2000年にはヒューマノイド研究所を、2002年には住環境とロボティクスの融合を研究するWABOT-HOUSE研究所を新たに創設、2003年からは文部科学省21世紀COEプログラム**《超高齢社会における人とロボット技術の共生》の拠点を形成し、早稲田ロボット研究の集大成を追究してきた。

「グローバルロボットアカデミア」拠点リーダー、藤江正克教授

 この間、日本のロボット技術は大きく発展を遂げてきた。ホンダやソニーといった民間企業も研究開発に参画し、2005年の愛知万博(愛・地球博)では、人間のように歩き、笑い、話し、踊るなど、じつに多彩な動きや表情をみせるヒューマノイド型ロボットが多数演示され、人々を驚かせたのは記憶に新しい。ロボット技術の裾野は幅広く、いまや社会のあらゆる領域に実用が広がり、人々の目に見えるところ、見えないところで、生活や産業の基盤になくてはならない技術となっている。 ロボット技術は多くの工学分野の発展に貢献している。にもかかわらず、「ロボット学」というべき学問領域を打ち立てることを目指した、ロボット技術や理論の体系化は、意外なことにこれまで着手が遅れてきたのだという。

ロボットと共生する家「WABOT-HOUSE」

 この課題に取り組むことなしに、21世紀のロボット研究のさらなる飛躍はありえない――。そうした決意のもと、早稲田大学では、「体系的ロボット学:M-Robotics(Methodological Robotics)」を確立することを目指して、2008年度から文部科学省グローバルCOEプログラムの採択を受けた教育研究拠点、《グローバルロボットアカデミア》をスタートさせた。この挑戦的な課題に取り組む同拠点のリーダー、藤江正克・早稲田大学理工学術院教授に話を聞いた。

(*「グローバルCOE」は、文部科学省による、国際的に卓越した教育研究拠点形成のための重点的支援プログラム。COEはセンター・オブ・エクセレンス=卓越した研究拠点の略)
(**「21世紀COE」は、世界的な研究教育拠点形成のための重点的支援プログラム。一連の大学COE形成支援事業の初期のプログラムとして、2002年度からスタートした)

写真左:初期の二足歩行ロボット(WL-3、1969年)、写真中:つくば万博に展示された二足歩行ロボット(WHL-11、1984年)、写真右:エレクトーン演奏をするロボット(WABOT-2、1984年)

育まれたロボット研究の系統樹

人間共存ロボット「TWENDY-ONE」

 日本のロボット研究を先駆けてきた主要な拠点には、早稲田大学をはじめ、東京工業大学、大阪大学、東京大学など、いくつかの大学が挙げられる。東工大は金属系の制御機構に強く、阪大は知能のメカニズムに強いといった具合に、それぞれに特徴的なアプローチがとられてきた。その中でも早稲田大学の強みは、故・加藤一郎というカリスマ的な魅力を持った研究者を頂点としつつ、いくつもの研究室を巻き込んで横断的に研究を広げ、ロボット研究の多様な系統樹を育ててきたことにある。機械工学者であった故・加藤教授だが、ロボット研究におけるビジョンは、未来を見据えた壮大なものであった。「ロボットと人間との共生・共存」を目指すという当初からの構想に多くの研究者が引きつけられ、さらに若い世代へと夢は受け継がれてきた。

ICタグ通信で視覚障害者をナビゲートする「つえナビ」

 「早稲田ロボット研究の最大の強みは、やはり総合力です。今回の《グローバルロボットアカデミア》では、学内から多数のロボット研究者を集め、その総力を結集しています。これだけのメンバーが揃えられるところは、本学以外にはないでしょう」(藤江教授)

力覚入出力装置による肝臓モデルの突刺シミュレーション

 確かに、その充実した顔ぶれには驚かされる。人と共生できる生活支援ロボットTWENDY-ONEを手がける菅野重樹教授。2足歩行ロボットWABIAN-2Rなどヒューマノイド型ロボットを追究する高西淳夫教授。環境認識能力を持つ自律型ロボットや、人工高分子ゲルを自律歩行させるなどのケミカルロボティクス研究などに取り組む橋本周司教授。人工心臓研究のパイオニアであり、東京女子医大との医理工連携拠点「TWIns」を率いる梅津光生教授。そして拠点リーダーの藤江教授は、心臓外科、脳神経外科、整形外科などの手術支援ロボットシステム、高齢者や障害者の歩行支援システムなどを手がける――。これらのメンバーはほんの一部にすぎない。総勢22名の教授・准教授陣が居並ぶ大プロジェクトが構成されている。

 「メンバーは、ロボット技術の応用分野の観点から、大きく3つのグループ――(1)ひとりの人間を対象とするP-RTグループ、(2)複数の人間を対象とするC-RTグループ、(3)多数の人間がかかわる社会を対象とするS-RTグループに分かれて、拠点のミッションを追求しています」(藤江教授)。3つの観点から、それぞれに必要な学際的アプローチを人文・社会科学、人間科学へと広げる中で、体系的ロボット学を構築していこうという構想である(図1参照)。

図1《グローバルロボットアカデミア》取り組みの目標

産業界で活躍できるドクターを養成

 次代のロボット学を担う若手研究者の育成もまた、《グローバルロボットアカデミア》の重要な柱である。「ひとことで言えば、“突破力”のある研究者・技術者を育てていくことを目指しています。しっかりとした学問の知と、構想力・実践力を兼ね備え、産業界で次代の社会基盤を担うロボット技術を牽引していけるドクター人材が必要とされているのです」(藤江教授)

図2《グローバルロボットアカデミア》人材育成の目標

 以前の21世紀COEプログラム《超高齢社会における人とロボット技術の共生》では、5年間に12名のドクター人材が企業に就職してきた。これに続く《グローバルロボットアカデミア》では、2012年までの5年間で、さらにこの10倍の120名という大量のドクター人材を、産業界へ送り込んでいくことを計画している。「決して独りよがりの目算ではなく、企業の要請を踏まえた現実的な数字と捉えている」と、藤江教授はいう。

 この目標を達成するうえでは、教育プログラムの充実が欠かせない。充実したカリキュラムと、研究現場での経験を積んでいくOn Research Trainingが、その2本柱だ。「海外では、博士後期課程でも120単位程度の科目履修が必要とされますが、日本では科目履修はほとんど必要なくて、研究論文だけという場合が多い。これでは世界に伍していける人材は育ちません。我々の拠点では、《グローバルロボットアカデミアプログラム》と称した独自のカリキュラムを組んで、しっかりした教育体制を整えています」(藤江教授)

サマースクール風景

 On Research Trainingのためにも、様々な制度が用意されている。幅広いロボット技術を知り、教員ごとに異なる技術の流儀を学ぶために、複数の研究室を横断的に体験する「研究室の渡り歩き」というユニークな制度もある。また、博士後期課程の学生全員が、最低3ヵ月を目標に海外での研究を経験する。「自分で行きたいところを決めて、プロポーザルを出して、一定の成果を挙げて帰ってきてもらいます。ゆくゆくは、行った先で助成金のプロポーザルを書けるくらいのところを目指したいと考えています」(藤江教授)。
日本の大学では、国の助成研究の研究プロポーザルを書くのはほとんどの場合、教員の仕事であるが、本拠点では博士後期課程の学生たちが主導して取り組んでいる。これを海外に行っても実践していけるようにしようということである。

セミナーディスカッション風景

 さらには、優秀な博士後期課程学生への支援プログラムとして、「研究助手」という独自の制度があり、採用者には大卒初任給程度の給与が支給される。これは故・加藤一郎教授が創設した制度で、すでに長い実績がある。

 「海外では、博士後期課程に進んだ学生は、早い段階で就職先が決まり、企業が奨学金を負担するといった制度が整っています。これに匹敵するものを創るのは至難ですが、日本の現状の中では、この研究助手の制度は画期的なものだと思います」(藤江教授)

日米欧+東アジアの4極連携体制を構築

韓国KIST-CIR、イタリアSSSAとの合同サマースクール(2008年9月、イタリアにて)

 「《体系的ロボット学》の確立は、決して簡単な目標ではありません。5年間でどこまで到達できるか、未知数ですが、世界に先駆けて我々が取り組まなければならない課題であることは確かです」(藤江教授)

 目標の実現に向けて、世界の研究拠点との連携にも力を入れている。韓国KIST-CIR(Korean Institute of Science and Technology, Center for Intelligent Robotics)、イタリアのSSSA(Scuola Superior Sant'Anna;聖アンナ大学院大学)とは、数年前から協定を結び、教育・研究両面で確固とした協力関係を構築している。 さらに2008年9月には、ドイツのカールスルーエ大学、アメリカのカーネギーメロン大学、香港科学技術大学、そして早稲田大学で4大学協定、「Inter ACT(International Center for Advanced Communication Technologies) を締結し、学術交流、共同事業などの計画を推進している。

Inter ACT協定書に署名する早稲田大学・白井総長(2008年9月)

 究極的には、早稲田大学が発信する《体系的ロボット学》を、世界のロボット学の標準としていくことが目標である。そのためにも、世界最先端の教育研究ネットワークの一翼を担う活動を展開していかなければならない。日米欧+東アジアの4極拠点連携の体制も固まる中で、《グローバルロボットアカデミア》の壮大な夢は、着実に現実に近づきつつある――。

関連リンク

早稲田大学グローバルCOE拠点《グローバルロボットアカデミア》
http://www.rt-gcoe.waseda.ac.jp/japanese/index.html

早稲田大学WABOT-HOUSE研究所
http://www.wabot-house.waseda.ac.jp/index.html

早稲田大学ヒューマノイド研究所
http://www.humanoid.waseda.ac.jp/index-j.html

早稲田大学先端生命医科学センター(TWIns)
http://www.waseda.jp/advmed/index.html

早稲田大学+SSSA(聖アンナ大学院大学)「ロボ・カーサ」
http://www.robocasa.net/index.php?lang=en

早稲田大学理工学術院
http://www.sci.waseda.ac.jp/