早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > 研究力 > WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

環境総合研究センター W-BRIDGEプロジェクト(早稲田大学―ブリヂストン連携研究)

産-学-NPOの“架け橋”として
環境活動の新しいかたちを創る

 この20年間、温暖化への国際的議論の高まりなどを背景に、企業の環境活動への取り組みは大きく進展してきた。いまや「環境活動」「環境経営」は企業にとってあたりまえのこととなり、環境への負荷を減らす努力や社会的貢献への取り組みが、企業活動の責務といわれる時代である。

左から、W-BRIDGE堀尾正靱代表代行、堀口健治代表、岡田久典研究マネジメントチームリーダー

 こうした広がりの中で、企業の大きな課題は、環境への取り組みを見据えた経営理念をいかに確立し、環境活動を経営戦略にいかに埋め込んでいくかということである。これまでの取り組みからさらに進んで、「真の環境経営とは何か」という問いに真剣に答えを見出そうという次の段階へ入りつつあるといっていい。

ブリヂストン荒川社長(左)と白井総長、W-BRIDGEプロジェクト発表会にて

 その「次の段階」への解を追究しようという先進的な試みが、早稲田大学と株式会社ブリヂストンの連携プロジェクト、「W-BRIDGE」(Waseda-Bridgestone Initiative for Development of Global Environment)である。環境NGOや市民団体による環境活動に積極的に関与し、研究と社会的実践の融合から新たな環境学を創生したいという早稲田大学の思いと、社会連携へのかかわりを通じて環境経営の「高み」を目指したいというブリヂストンの思いが結びつき、2008年7月に同プロジェクトが発足された。

 「W-BRIDGE」が目指す新たな環境活動とはどのようなものか、プロジェクト執行組織の、堀口健治代表(早稲田大学副総長・政治経済学術院教授)、堀尾正靱代表代行(早稲田大学客員教授、東京農工大学名誉教授)、岡田久典研究マネジメントチームリーダーに話を聞いた。

環境活動を経営の根幹に埋め込む

W-BRIDGEプロジェクトのしくみ
生活者/地域、大学、企業の三者を結び、より効果的かつ実生活に根ざした「地球環境問題への貢献」を目指す

 「W-BRIDGEプロジェクトでは、環境活動への取り組みを、経営の根幹に積極的に埋め込んでいきたい、経営戦略にとっての環境活動の意味を追求したいというブリヂストンの強い思いが、本プロジェクト発足のきっかけです」(堀口代表)

 ブリヂストンは、世界中に180を超える生産拠点と多数の販売拠点を有し、連結で13万人の従業員を抱える。環境活動には非常に熱心で、2007年には日経の環境経営度ランキングで、トヨタ自動車に次ぐ第2位となるなど、常にトップ10に入る評価を受けている。グローバル企業として、環境貢献活動も国際的な展開を目指してきたが、近年は、ブリヂストンにとっての環境活動の意味とは何かをきちんと見出していきたい、その上で、自分たちのなすべき環境活動を行っていきたいという思いが強まっていた。

W-BRIDGEプロジェクトの機能

 「ブリヂストンの思いを受けて、我々も一緒になって議論してきました。実際にW-BRIDGEというプロジェクトのかたちになるまでに、1年間もの歳月を費やしました。企業と大学の連携にNPO・市民団体との連携を加え、しかも、国際的な課題にも道を開き、ごみ問題、生物多様性、地球温暖化、といったこれまでばらばらに取り組まれることの多かった環境問題に、新たな横の連携を作り出そうというコンセプトです。このコンセプトをベースにして、利益追求を課題とする企業としての環境活動に、また大学の活動に、新たなパフォーマンスを実現できるのではないかということになったのです」(堀尾代表代行)

 「W-BRIDGEという名前には、早稲田のWとブリヂストンのBRIDGEということと同時に、“2つの架け橋”あるいは“双方向の架け橋”という意味が込められています。今までつながっていなかったものをつなげることで、これまでにない環境活動を実現していく。あらゆる意味での“架け橋”が、W-BRIDGEの中心的なコンセプトです」(堀口代表)

産・学とNPOをつないだ社会連携へ

多目的樹木と油糧樹木の混植によるCO2吸収とバイオディーゼル原料生産の実証的研究(研究代表:早稲田大学人間科学学術院・森川靖教授/活動団体:(財)国際緑化推進センター)

全国学生環境ビジネスコンテスト「em-factory」の開催に向けた議論風景(研究代表:環境総合研究センター 関谷弘志教授/活動団体:早稲田大学学生NPO環境ロドリゲス)

 2008年秋には、これらのテーマのもと、第1期の研究委託事業の公募を開始。10件が採択され、2009年1月に事業がスタートした。応募条件は、早稲田大学または協定校の教員が研究代表を務めること、そしてNPOあるいは市民団体と連携して実施することである。「参加団体を見ると、日本を代表するような環境NGOから、学生のボランティア団体まで、じつに多様です。この多様さこそが、環境活動においては重要なのだと考えています」(岡田研究マネジメントチームリーダー)

 プロジェクトは、次の4つの研究領域にわたる。1)地球温暖化対策と生物多様性保全のバランスを考える領域、2)人々の生活と環境保全活動のバランスを考える領域、3)次世代からの視点で目標を定め、効果的で効率的な環境改善手法を考える領域、4)環境に関する情報を世界へ効果的に発信し、コミュニケ―ションする手法を考える領域。いずれも縦割りの専門分野ではなく、環境問題に、いろいろな角度から双方向の橋を架けるという新しいアプローチで領域が構成されている。

早稲田環境塾のコンテンツを世界に発信する手法及びその評価の研究(研究代表:アジア太平洋研究科 天児慧教授・原剛特命教授/活動団体:環境ジャーナリストの会)

 例えば、1番目の研究領域では、温暖化対策の1つとして取り組まれているバイオディーゼルの問題を重視。再生可能エネルギーによる自動車用燃料への関心が日本をはじめ先進国で急速に高まる中で、パーム椰子の原産国であるマレーシアやインドネシアでは、大規模プランテーションの増加による環境問題・地域問題への影響が問題になっている。「環境にやさしいエネルギーを生産しているはずなのに、逆に環境や生態系を破壊しているのでは元も子もありません。第1期の採択課題の中では、バイオ燃料の持続性評価や、生産方法の研究が取り組まれています」(堀尾代表代行)

 そのほかにも、バラエティ豊かなプロジェクトが実施されている。研究実施期間は、1月から6月までのわずか半年間と短い。「企業は四半期経営で動いていますから、半年というのは企業の経営からみればむしろ長いともいえる。半年でどこまでできるのか、ともかく試金石ということでスタートしたのですが、きわめて実質のある成果が上がっています。理由としては、どの参加団体もそれぞれの分野で実績があり、その蓄積の上でプロジェクトを展開しているということがあります」(堀尾代表代行)

学生ボランティア団体の活躍

マレーシア移民集落における衛生環境改善のための環境認識研究と学生ボランティア活動(研究代表:早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター・岩井雪乃助教/活動団体:同センター主催「海外ボランティアリーダー養成プロジェクト」)

 もともと盛んだった早稲田大学の学生ボランティア団体による取り組みも、大きな力となっている。例えば、マレーシアで急増するフィリピン人移民集落では、政府がごみを回収しないため放置されたままになっている。住民たちの間にも、ポイ捨て行動が目につく。そこで、学生ボランティアが現地に出向き、ごみ問題について考えてもらう集会や、ごみ拾いイベントを開催するとともに、移民とマレーシア人の間に人的つながりを形成するなどの活動を行っている。

 「日本から学生が来ると聞けば、そのときだけは政府がごみを回収しに来るんですが、帰ればまた放置したままになってしまう。住民はポイ捨てしながらも、その状況が良くないということは、みんな自覚しています。そこで学生たちが、行動につなげていくための支援に取り組みました」(岡田研究マネジメントチームリーダー)。さらに学生たちは、「幸せとはなんだろうか」という小冊子を作成して、環境ボランティアに参加する意義を日本人の学生に考えてもらうための活動も行っている。

学生たちがゴミレンジャーに扮し、地域の子どもたちや住民に、ごみ問題について考えてもらうイベントを開催

 東京・新宿区での環境活動にも、学生ボランティアが中心になって取り組んでいる。早稲田大学は、新宿区でも最大の事業者の1つである。例えば、学内で最大のエネルギーを消費しているのが、自動販売機。この省エネ対策について試行錯誤する中で、夜間はコンプレッサーを止めてしまうとか、昼間や深夜は照明を切るとか、そもそも台数を減らすにはどうしたらいいかなど、様々なアイデアをひねり出し、早稲田の先端技術も投入しながら実証実験を行い、大きな省エネ効果を上げている。

 「学生ボランティア団体も、教員と組んで、研究報告書としてまとめる作業を行うことにより、自分たちの運動を客観化し、取り組みの成果を一般化して社会に広げていくことができる。もちろん参加する学生たちも大きく成長します」(岡田研究マネジメントチームリーダー)

“早稲田発”サステナブル都市「新宿」における地域共創型の温暖化対策推進に関する実証研究(研究代表:早稲田大学環境総合研究センター・小野田弘士准教授/活動団体:新宿区エコ事業者連絡会)

プロジェクト間の相互交流も盛んに

学生と地域市民との協働による地域バイオマス活用による循環型社会の研究(研究代表:環境総合研究センター・紙屋雄史准教授/活動団体:NPO法人早稲田環境市民ネットワーク)。本庄キャンパス近郊での地域交流、里山体験には、ブリヂストンの若手社員らも参加

 これら研究プロジェクト間の相互交流が活発なのも、W-BRIDGEの特徴的な点である。事務局スペースには、参加者たちが常に集まってきて、情報交換を行っている。 「お互いに、活動へのアドバイスをしたり、ネットワークを活用して人を紹介し合ったり。個別の活動を支援することもさることながら、こうした相互作用を起こしていくこと、二重三重に取り組みの輪を広げることで、さらに充実したパフォーマンスを実現していくことが、より重要なねらいなのです」(岡田研究マネジメントチームリーダー)

 現在、第2期の募集に入っている。第1期では、すべて早稲田大学の教員が研究代表を務めていたが、今後は、国内27校、海外560校に上る協定校の研究者が代表となるプロジェクトも積極的に採択していく。英語の募集要項も作成し、国際的に募集をかけている。「ゆくゆくは、英文の年報を発行して、世界へ情報発信するとともに、W-BRIDGEプロジェクトのプレゼンスを上げていくことが目標です。情報発信そのものが、世界の環境活動に影響を与え、地球環境の未来の方向性に影響を与えていくでしょう」(堀口代表)

農業と農村の持続的発展を考える研究(研究代表:人間科学学術院・柏雅之教授/活動団体:学生NPO農楽塾)。早稲田商店街や大学近隣住民との交流や、農村訪問などを実施。写真は、大隈庭園での田植え風景

 研究・活動から得られる成果を、ブリヂストンの経営へフィードバックしていくことも、執行組織の重要な役目である。「CSR(企業の社会的責任)活動と企業経営とは、矛盾したり、並び立つだけのものではなく、持続的な企業戦略や活力の形成に有効なものになることを、このプロジェクトを通じて実証していかなければならないと考えています」(堀尾代表代行)

 端緒に着いたばかりのユニークなプロジェクトだが、多様なアクターによる、多様な環境への取り組みにより、この拠点を通じてグローバルでダイナミックな相互交流と相乗効果が起きそうな兆しである――。

関連リンク

W-BRIDGEプロジェクト
http://www.w-bridge.jp/

環境総合研究センター
http://www.waseda.jp/weri/

株式会社ブリヂストン
http://www.bridgestone.co.jp/