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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

EU研究の国内最大拠点として日本とEUの架け橋を築く
EUIJ早稲田

 EUIJ――それは、EU Institute in Japanの略称であり、日本における欧州連合(EU)の高度学術研究拠点を意味する。2001年、ブリュッセルで行われた日・EU定期首脳会議において、EUと日本は、「日欧協力の10年」の取り組みをスタートさせることを決定した。その大きな柱の1つが、EUIJという研究拠点を日本の大学との連携により設置することである。

 近年、ヨーロッパの統合が驚くようなスピードで進み、世界の中で「EU」という巨大な政治・経済の連合体が占める位置とその影響力は、きわめて高い重要性を持ってきた。こうした状況を背景に、欧州連合・駐日欧州委員会代表部の主導のもと、日本においてEUに関する知識を広げ、理解を深めることを目的に、EUIJの事業がスタートした。

 2009年4月、EUIJ早稲田はEUIJ関西、EUIJ東京コンソーシアムに続く3つめの拠点として、かつ単独大学で運営される初めての拠点として発足、活動をスタートさせた。早稲田大学においてEU研究が現在までどのように行われてきたのか、またEUIJ早稲田は今後どのような活動を展開していくのか――。同拠点代表であり、以前から早稲田大学EU研究所所長を務めてきた福田耕治・政治経済学術院教授に、これまでの経緯を含めて話を聞いた。

(C)EC/Ayako Goto
EUIJ早稲田設立記念レセプションにて/海部俊樹元内閣総理大臣、白井克彦早稲田大学総長、ヒュー・リチャードソン駐日欧州委員会代表部代表、トミー・クルバーグ欧州ビジネス協会会長(写真左から)

EUIJ早稲田代表/EU研究所所長 福田耕治教授

学際拠点「EU研究所」を発足

(C)EC/Ayako Goto
日-EU フレンドシップ・ウイーク・シンポジウム2009/元仏外相ヴェドリーヌ氏講演

 早稲田大学では、EU研究の歴史は古く、EUIJ採択以前の1970年代 から進められてきていた。2001年からは、欧州委員会からの呼びかけと協力を受けて、「日-EU フレンドシップ・ウイーク・シンポジウム」という一般公開シンポジウムを、EU研究所と本学の現代政治経済研究所の共催、駐日欧州委員会代表部とEU各国の駐日大使館の後援により、ほぼ毎年開催している。直近の2009年5月には、「国際アクターとしてのEU」というテーマのもとで、ユベール・ヴェドリーヌ元仏外相による招待講演などが行われ、学生・教職員のほか一般社会人を含む300人近い聴衆の参加を得て活発な議論が交わされた。

EU研究の成果は多数の出版物にまとめられ、欧州の著名な学術出版社から英語本も刊行されている
(写真は、右下から時計回りに『EUとグローバル・ガバナンス』早稲田大学出版部,2009;『EU国境を越える医療』文眞堂,2009;『欧州憲法条約とEU統合の行方』早稲田大学出版部,2006;『EU政治経済統合の新展開』早稲田大学出版部,2004;European Governance After Nice, RoutledgeCurzon,2003)

 2004年には、学内のEU研究者が共同して、「EU研究所」というプロジェクト研究所を発足させ、以来、学際的なEU共同研究やEU・欧州統合教育・情報発信の活動を展開してきた。 「EU研究所の発足以前から、早稲田では学部や大学院研究科の壁を超えた学際的・統合的な研究や教育の連携が行われており、その自然な流れの中で、EU研究所というプロジェクトが発足したのです。この点はやはり、本学ならではの強みだと思います」(福田教授)

 EU研究所の発足メンバーは、以前から密接に交流してきた政治、経済、法学、社会学など多彩な研究者で構成されている。EU研究所というかたちを取ることにより、より明確な目標と体制のもとで、大学としての公式な活動が組織的に展開されてきた。ベルギーの欧州大学院大学(College of Europe)やフローレンスの欧州大学院大学(EUI)など、欧州の研究機関、世界の大学、海外のEU学会などと連携を取り、研究・教育の国際的な拠点ネットワークを拡充させてきた。名実ともにEUに関するわが国最高水準の拠点を構築しようという意欲のもとで、理工系や人文系などの研究者とも組織的な連携を取り、全学レベルの取り組みへと広がってきた。

国内最大の学術プログラムを展開

 こうした取り組みのうえに、2009年4月、EUIJ早稲田が発足した。今回のEUIJ事業は、欧州委員会の方針として、研究・教育・アウトリーチの3本柱の中の、「アウトリーチ活動」に焦点を絞り込んだものとなっている。アウトリーチというのは、専門家が非専門家や一般市民への直接的な情報発信や対話に取り組み、知識の啓発や理解促進に積極的に取り組む活動のことである。

EU/欧州統合プログラム 講義風景

 EUIJ早稲田の事業資金は、欧州委員会からの助成金(4年間で100万ユーロ)6割に加えて、早稲田大学が4割の自己資金を拠出する仕組みとなっている。 「EUIJ事業では、アウトリーチも重視されていますが、研究・教育活動があってこそのアウトリーチですから、全学から教員のボランタリーな協力を募ったり、独自に外部資金等を工面したりしながら、様々な活動に着手しています」(福田教授)

 その1つめの柱が学術活動である。早稲田大学のオープン教育センターでは、全学の学生を対象に、分野横断・学際型の様々な講義を行っている。その中でも、EU関連のプログラムの充実度は、国内でも群を抜いている。今回のEUIJ早稲田の発足にあたって、従来のラインアップに、さらに新たに5つの講義・演習科目が加えられた。2009年度前期に開講された「EU政治経済統合のガバナンスと国際公共政策」では、200人の大教室で、複数の講師陣により毎回学際的視点からの講義が行われた。後期には、早稲田大学初のフルオンデマンド講義「EU/欧州統合研究」が展開される。10月から15回毎週連続して行われるこの講義のうち、第1回目の講師には、EU・駐日欧州委員会代表部のヒュー・リチャードソン大使を迎えて、「日本・EU関係」について英語による講義が行われる。この第1回目の講義については、駐日欧州委員会代表部のホームページを通じて全世界に向けて発信される予定である。

 さらには、学内の理工学系教員や欧州諸国の科学技術担当参事官等を含めた各界の専門家を講師に招いての「EU科学技術政策」も後期に開講される。
「知恵を絞って斬新なプログラムを組み、複数の講師陣をコーディネートするのが骨の折れる仕事ですが、これまでの研究の蓄積と、人脈ネットワークを存分に生かして、他では決して真似のできない講義内容を提供できていると自信をもっています」(福田教授)。

 いまや学部生向けにEUに特化した20科目(3講義科目・17演習科目)、大学院生向けに6科目(演習科目)およびオックスフォード大学等からの招聘外国人講師による夏期集中講義科目・演習科目(英語)が提供されるEU/欧州統合研究プログラムは、国内最大規模のEU教育の拠点であるだけでなく、本場ヨーロッパの大学のプログラムにも引けをとらないものとなっている。

「日欧研究機構」発足で盤石な体制へ

地域の自治体や市民へのアウトリーチも重要な柱の1つである。写真は、佐倉市国際文化大学(千葉県)で200名近い受講生を前に、EUの食の安全について講演する福田代表

 そしてEUIJ早稲田のもう1つの柱が、アウトリーチ活動である。そのメニューは、政界、官界、財界・産業界、一般市民など、あらゆるセクターを対象とした啓発活動から、国際シンポジウムの開催、NGOやジャーナリストへのアプローチなどまで、じつに多岐にわたる。 「事業開始からまだ半年ですが、幸いにもこれまでの実績が豊富にあるので、そのベースの上で活動をスピーディーに展開していくことが可能になっています」(福田教授)

 政界向けの「永田町定期会合」は、4月から毎月ペースで開催している。国会議員や議員秘書の方々、近隣の国会図書館のスタッフの方々などにも声をかけて、EUの政治経済、文化、教育、社会事情などについての勉強会を行っている。学外の専門家を招聘して、第1回目はEUの金融政策、第2回目は鳥インフルエンザの動向、第3回目はフィンランドを中心としたEU諸国の教育といった具合に、多彩なテーマで展開している。その一方で、官僚向けの「霞ヶ関不定期会合」は、9月から開催される。こちらは学内の教員が中心となって、より専門的なレクチャーを行っていく計画だ。

EUの官僚や法曹などによる講演も、多数開催されてきている。写真左はオーストリア行政裁判所副所長。右はワルシャワ証券取引所所長。

 EU高官を招いての公開講演もシリーズ化していく。9月にはフランス大使館の後援により、ミッテラン政権下で大統領補佐官を務めた経済学者・思想家のジャック・アタリ氏の講演会を、12月にはスウェーデン大使館の後援により、死刑制度に関する国際シンポジウムを開催することが決まっている。
「EUIJ早稲田はアウトリーチ活動を含めた4年間の事業ですが、その枠組みにとらわれず、長期的な視点に立って大学と欧州連合という国際機関との連携を深めて、将来的な研究教育の発展につなげていくことが、究極的な目的です」(福田教授)

EUIJ早稲田の研究助手、事務局スタッフらと代表・福田耕治教授(中央)

 EUIJ早稲田の発足に伴って、学内には「日欧研究機構」という新たな体制が整備された。この研究機構というのも、早稲田大学独自の枠組みで、組織的な研究・教育を推進していく戦略的体制を確立するためのものだ。地域研究については、すでにアジア研究機構、日米研究機構、イスラーム地域研究機構が設置されている。日欧研究機構が新たに加わったことで、アジア・米・欧の三極の組織的な研究体制が整ったことになる。

 アジア研究機構、日米研究機構に比べれば、予算規模も5分の1程度と小さい日欧研究機構だが、学内の研究者の数からいえば、欧州研究が圧倒的に多い。EU加盟国研究者を含めれば、きわめて層が厚い。EUIJ早稲田と日欧研究機構の発足を契機に、名実ともに、アジア・米国に匹敵する研究領域へと発展させていくことが、一連の活動の最大のミッションである。ロボット技術、マリンバイオ、光通信など、理工学系での欧州との研究教育連携も進んでおり、今後は「文理融合による日欧研究」という早稲田大学ならではの特徴を、より戦略的に打ち出していこうとしている――。

EUIJ早稲田の活動と組織

関連リンク

EUIJ早稲田
http://www.euij-waseda.jp/

早稲田大学EU研究所
http://www.waseda.jp/prj-EUcollege/

早稲田大学現代政治経済研究所
http://www.waseda.jp/seikei/ircpea/

欧州連合・駐日欧州委員会代表部
http://www.deljpn.ec.europa.eu/