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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

アジア・アフリカ各国との深い相互理解に立った
国際的環境リーダーを育成する

デュアル対応国際環境リーダー育成プログラム
(平成20年度文部科学省科学技術振興調整費「戦略的環境リーダー育成拠点形成」採択事業)

 平成20年度、文部科学省科学技術振興調整費の新規事業の1つとして、世界的な環境リーダーを形成する「戦略的環境リーダー育成拠点形成」がスタートした。アジア・アフリカ諸国等からの留学生と日本の学生が共に学び合う場にする、自然科学と人文・社会科学の知識をバランスよく身につける、企業等へのインターンシップや研究開発へ学生が参加する、既存の環境学系大学院のカリキュラムと融合させる、などが事業応募の条件とされた。

 環境関連の知識や科学技術を習得するのみならず、国境を超えて環境問題の現場に出向き、フェイストゥフェイスの国際的なコミュニケーションを行い、異文化との相互理解能力と実践能力とを両立させながら、環境問題と国際貢献を牽引していくことのできるリーダー人材を育てる――それも日本人学生だけでなく、パートナーを組む相手国の学生をも一緒に育てていこうというプログラムである。ゆくゆくはパートナーの海外大学と共同で、両大学の学位が取れる複数学位取得制度を確立していくことも称揚されている。

「デュアル対応国際環境リーダー育成」の教員と学生たち(写真はメンバーの一部。前列左から2番目が勝田正文・研究代表、その右がインターンシップ担当の吉田徳久教授)

 こうした条件を満たしうる大学の中から、平成20年度は5大学、平成21年度は3大学が、同事業に採択された。有名国立大学が居並ぶ中で、私立大学として唯一採択されたのが、早稲田大学である。その特徴は、工学ベースの環境学系大学院が絶対数として少ない中で、機械工学系が主体となって牽引してきた大学院環境・エネルギー研究科(2007年設置)が中核となり本事業に取り組むこと、加えて、大学院アジア・太平洋研究科など、人文・社会科学系の各大学院での幅広い環境学の取り組みや、アジア地域研究の取り組みとの間で、文理融合の環境学の追求にすでに高い実績があるなど、総合性と国際性を有する環境リーダー養成のカリキュラムを組むうえで、優位な条件を備えている点である。

 「デュアル対応国際環境リーダー育成」という、ユニークなテーマ名を冠してスタートした早稲田大学の事業について、研究代表の勝田正文・理工学術院環境・エネルギー研究科教授、事務局担当の永井祐二・環境総合研究センター主査研究員、そしてプログラムの目玉である日中共同インターンシッププログラム(*1)を担当した吉田徳久・理工学術院環境・エネルギー研究科教授に、話を聞いた。

*1 東京海上日動火災保険株式会社から資金提供をいただいて実施したもの。

現場主義の環境教育がベース

 「“デュアル対応”という言葉をタイトルに付けたのには、日本と海外とのパートナーシップによる事業推進や、日本の学生とアジアの学生が相互に学び合うカリキュラム、あるいはまた文理融合による環境学の教育研究を追究するといった本事業の“複眼的な”目的を、そのものずばり実現させていくという意味を込めています」(勝田教授)

 早稲田大学の大学院環境・エネルギー研究科では、埼玉県本庄キャンパスを拠点として、地域の自治体や市民、企業などと連携し、すでに様々なプロジェクトを展開してきた。なかでも水素エネルギーのプロジェクトは、産学官民すべてのセクターを巻き込んで、研究開発から地域ぐるみの実証実験までにわたる、幅広い取り組みを行っている(*2)。特筆すべきは、大学院の若い学生たちが、プロジェクトのキーパーソンとして大活躍していることだ。

 「環境の分野では、現場に学生がどんどん入り込んで、共同研究や実証実験のコーディネート役を担っていくことが大きな力になります。地域住民の方々とのパートナーシップの形成をはじめ、産学官民の連携をスムースに進めるうえで、学生たちが触媒のような役割を果たしてくれます」(勝田教授)

 例えば、2007年に本庄キャンパスを地域に開放して行われた「水素祭り」では、地域住民から政府の環境政策担当者まで、幅広い来客層を相手に、水素自動車のデモンストレーションや、研究成果のプレゼンテーション、子どもたち向けの実験イベントなどを生き生きと行う学生たちの姿に、各方面から高い賞賛が寄せられてきた。大学院環境・エネルギー研究科のこれまでの取り組みに、「環境リーダー育成」という機能が、自然なかたちで埋め込まれてきたといえる。

 「内閣府がシンクタンクに委託して、環境リーダー育成についての調査を行った際にも、我々の大学院の取り組みは、非常に高い評価をいただきました。今回の環境リーダー育成事業の計画にあたっては、すでに評価と実績のあるこの現場主義の研究教育を踏襲し、さらに発展させていくという考え方で進めてきました」(勝田教授)

 文理融合による環境学や、国際的なリーダー育成についても、すでに様々なプロジェクトが進められてきている(*3)。こうした比類ない実績をベースに、さらに早稲田の強みであるアジアとの連携研究を組み合わせる――いわば、強みに強みを掛け合わせたといえるのが、今回の「デュアル対応国際環境リーダー育成」事業である。

*2 「研究特区」バックナンバー2008年5月27日号『水素エネルギー研究所』参照。
http://www.waseda.jp/rps/information/magazine/front/front_080527.html

*3 例えば、「研究特区」バックナンバー2008年10月28日号『アジア地域統合のための世界的人材育成拠点』や、同2009年7月30日号『環境総合研究センター W-BRIDGEプロジェクト』を参照。
http://www.waseda.jp/rps/information/magazine/front/front_081028.html
http://www.waseda.jp/rps/information/magazine/front/front_090728.html

「本プログラムが想定する人材・活躍領域」

「デュアル対応国際環境リーダー育成」修士課程履修モデル
アジア・アフリカ諸国にあたるところは、現在、中国・北京大学との共同で進められている。

日中共同のインターンシップを実現

北京高碑店汚水処理場(展示室)

北九州エコタウン

新日鉄君津鉄工所

産廃不法投棄が問題の香川県・豊島では地引き網も体験

写真左:日中共同インターンシップ報告会(2009年9月、早稲田大学にて)/写真右:北京大学からインターンシップに参加した2名の学生も、遠隔ゼミシステム(テレビ会議システム)で中国から遠隔参加した

 今回の事業は、アジア・アフリカ各国との連携のプロトタイプとして、最も近い間柄にある中国との連携に焦点を置いている。本事業の背景には北京大学と早稲田大学との長期的なパートナーシップ構想がある。2008年には北京大学との間で、「持続可能な発展」に関する共同大学院の設立に向けた基本協定を締結するなど、複数学位取得制度の実現に向けて動き始めている。

 「具体的に動き始めてみて改めて壁になっているのが、両国の大学制度の違いです。例えば大学院修士課程は、日本は基本的に2年間ですが、中国は3年間。博士課程のカリキュラムにしても、講義による単位履修を重視する中国に対して、研究活動重視の日本と、両国の考え方は大きく違います。ダブル・ディグリー制度は一朝一夕には実現できないのが現実ですが、ともかく問題の解決に向けて両大学とも積極的に動き始めています」(永井研究員)

 こうした大局的な取り組みと並行して、2009年4月には、「デュアル対応国際環境リーダー育成」の修士課程プログラムがスタート、早稲田大学側で8名(うち3名が中国からの留学生)、北京大学側で6名の学生が、第1期生として参加した。プログラムの目玉となったのが、夏期に実施された日中共同の国際インターンシップである。これは東京海上日動火災保険株式会社の全面的な資金提供を受けて実現したものであり、両大学の学生が互いの国を訪れて交流しながら、現場への訪問・視察を行い、日中両国の取り組みと課題を深く理解し、国際的環境リーダーとしての素養を養うことが目指されている。

 「いまや、日中の協力と相互理解なしに持続可能な社会の実現はないという認識に立ってプログラムを進めています。両国の環境対策やそれを取り巻く社会情況は、まったく違う次元にあるといっても過言ではありません。学生が現場に飛び込んで、生の声を聞いて、その違いを肌身で感じ取る。さらに日中の学生が、互いの意見をぶつけ合って認識を深めることが、我々のインターンシップの目的です」(吉田教授)

 訪問・視察先は、(1)行政機関、(2)環境保全インフラ、(3)基幹産業、(4)資源循環施設、(5)NGO等と、5つの分野がバランスよく構成されている。2009年は、中国政府の環境保護部、中国最大規模のNGO「自然の友」、北京市近郊のモデル農村「留民営生態農場」、北京市最大の汚水処理場、汚染の激しい太湖などを、日本では環境省、新聞社の環境部、北九州エコタウン、有明水再生センター、日本のCO排出量のおよそ1%を排出する新日鉄君津製作所、東京電力富津火力発電所、琵琶湖などを、それぞれ訪問・視察した。

 「日中それぞれ一週間ほどの弾丸ツアーですが、体系立てて訪問・視察を行うこと、訪問前の事前講義や、訪問後のレビューとディスカッションをしっかり行うことで、質の高い学びを実現することができました」(吉田教授)

「環境リーダー」の定義そのものを探る

 こうした日中共同のプログラムを通して、学生たちには、事例の表面的な理解だけではなく、その背後にある深い事情、互いの国が置かれた時代情況の違い、政策の違い、人々の考え方や生活の違いなどを十分に理解してもらうことが重視されている。

 「日中の環境政策の違いを理解するうえでいちばん重要なことは、日本では公害の時代があって、その後に環境の時代がやってきたのですが、中国ではそれが今同時に起きているということです。そこでは、急速に広がる貧富の格差に配慮し、階層間や民族間の争いをなくす“和諧社会”、欧米や日本などの先進諸国とは異なる持続可能なライフスタイルを築き上げる“生態文明”というビジョンが、掲げられています」(吉田教授)

 「環境」とひとくちに言っても、その指し示す領域は幅広いうえに、国や地域によってまったく観点が違ってくる。また「環境リーダー」の定義そのものも、これからのプログラムの取り組みの中で見極めていかなければならない。「環境マネジメントとはいかなるものか、環境分野における実践力とは何か。そうした定義を1つひとつ発見していくことも、本プログラムの重要な課題だと考えています」(勝田教授)

 端緒に着いたばかりの「デュアル対応国際環境リーダー育成」事業だが、若い世代が主役となって、国際的な異文化コミュニケーションと現場重視の実践的カリキュラムに取り組む中で、これまでにない新しいタイプの環境リーダーが着実に育ち始めている――。

図左:「日本の持続可能な社会の政策目標」/図右:「中国の政策目標と3つの社会ビジョン」

関連リンク

早稲田大学 デュアル対応国際環境リーダー育成プロジェクト
http://envleader.net/

早稲田大学 大学院環境・エネルギー研究科
http://www.waseda.jp/weee/

早稲田大学 環境総合研究センター
http://www.waseda.jp/weri/

早稲田大学 理工学術院
http://www.sci.waseda.ac.jp/index.html

早稲田大学 サステイナビリティ学研究推進本部
http://www.wispj.com/

財団法人本庄国際リサーチパーク研究推進機構
http://www.howarp.or.jp/

NPO法人 早稲田環境市民ネットワーク
http://npowenet.blog120.fc2.com/