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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

エキスパート研究者のスキルを駆使
ナノテク先端技術を広く移転する

ナノ理工学研究機構 ナノテクノロジーファウンドリー
(2007年度 先端研究施設共用イノベーション創出事業
ナノテクノロジー・ネットワークプログラム採択)

全国13拠点(26機関)にわたる第2期のナノテクノロジー・ネットワークプログラム採択拠点。早稲田大学「カスタムナノ造形・デバイス評価支援事業」は単独機関での事業採択を実現させている

 ナノテクノロジーとは、物質をナノメートル(1nm = 10-9m)という極めて微小な世界で自在に制御する技術である。このような原子レベルに近いスケールでの物質のふるまいには未知なところが多く、様々な製品のナノレベルの小型化・高集積化の実現はもちろん、新たに発見された特性の活用などによって、産業のイノベーションが促進されることに期待が大きい。

 いまや国際競争となっているナノテクへの取り組みだが、その成功と発展には国家レベルでの戦略的な研究開発ネットワークの構築が不可欠である。ナノテクに必要な特殊な設備機器類は、そう簡単に誰もが揃えたり使いこなしたりすることはできない。そのため、大学や公的研究機関がもつ先端的な研究施設やスキルを広く提供して研究開発を促進することが必要である。さらにいえば、ナノテクとは1つの研究分野を指す言葉ではなく、既存の様々な研究分野を横断して生じる新しいパラダイム(=枠組み、規範)というべきものである。そこでは、多様な分野にわたる研究者たちに対して、先端的なナノテクの知見やノウハウを移転したり、専門的なノウハウを持った人材を育成したりする、先導的な支援拠点の機能も求められている。

 こうした事情を背景に、文部科学省では2002年から、ナノテクノロジー総合支援事業の一環として「ナノテクノロジー・ネットワーク プログラム」を開始した。2002-2006年の第1期では、超高圧電子顕微鏡支援/放射光解析支援/分子・物質総合合成・解析支援/極微細加工・造形支援の4つのテーマ別に全国から先端的な研究施設を備える支援拠点として、合計13機関を選定。早稲田大学はこのうち極微細加工・造形支援の分野で採択を受けて、「ナノテクノロジーファウンドリー(*1):カスタムナノ造形支援事業」に取り組んできた。続く第2期(2007-2011予定)では、同事業にさらにデバイス評価への取り組みを加えた「カスタムナノ造形・デバイス評価支援事業」を展開している。

 一連の事業を通じて、どのような支援活動に取り組み、どのような成果を出しているのか、他の拠点と異なる早稲田大学の独自性とは何かについて、研究代表を務める本間敬之・理工学術院教授に話を聞いた。

*1:ファウンドリー foundryには、顧客の発注や設計図面をもとに製造請負を行うといった意味がある。

カスタムメイドのナノテク支援を展開

 「他の拠点のほとんどが、研究設備や機器を共用に提供していくことが主眼であるのに対して、我々のアプローチはまったく異なります。先端的なナノテクで新しいものづくりに挑戦したいと考えている人たちに対して、ネックになっている問題解決を支援すること、いわゆるソリューションの提供を主たる目的においています。それぞれのクライアントが抱える問題についてエキスパート研究者が技術相談に乗り、本学が保有する様々な設備とノウハウを組み合わせて、解を探究していく――カスタムナノ造形支援事業という名称の“カスタム”という言葉に、我々の目指すべきところが表わされています」(本間教授)

研究代表の本間教授(前列右)を囲む、専任スタッフたち。民間の研究開発の現場での経験を有するエキスパート研究者たちが、ナノテク支援事業を牽引する

 図面は自分たちで引けるけれども、ものをつくる設備やノウハウがない――そういうクライアントに、ものづくりのソリューションを提供するビジネスを、半導体やMEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカルシステム)の世界ではファウンダリー事業という。早大のカスタムナノ造形支援事業が目指すのも、そうしたサービスである。ナノテクものづくりの分野で、カスタムメイドの技術支援を提供すること、そのために民間企業の研究開発部門で豊かな経験を積んだエキスパート研究者が、専任スタッフとしてチームを組み、技術相談とソリューションのコーディネートにあたっていることが、早稲田大学のナノテク支援事業のきわめてユニークな特徴である。

  「今回の事業には、民間の研究開発の現場でノウハウを積んだ研究者の雇用が不可欠だと考えました。高度な施設を共用しても、それを使いこなすノウハウがなければ何の意味もありません。民間企業でも、あるいは大学や研究機関にしても、広い領域に渡るナノテク技術を自在に扱える専門家は多くはありません。手探りでナノテクにアプローチして、問題にぶつかっても、解決方法の糸口すら分からない。あるいは問題そのものが茫漠としている場合すらある。こうした顧客の悩みに対して、一歩踏み込んで話を聞いていく、持てるノウハウを組み合わせて解決の糸口を見つけていく――それができるのは、やはりものづくりの現場であるメーカーの研究開発部門で豊富な経験を積んだ方々です」(本間教授)

 現在、8名の専任スタッフが客員教員のポジションを得て、ナノテク支援業務に携わっている。いずれも日立製作所、NECなど、一流メーカーの出身者で構成されている。博士学位を持つなど研究能力を十分に有している人ばかりで、海外の国際学会で自身の研究成果発表を行うなどの業務もこなしている。

ものづくりの匠の技を体系化する

精密めっき法で作製した金のグレーティング。電子ビーム露光法を用いて樹脂に形状を作りこみ、樹脂の凹部に金を埋め込む形で金めっきを行い形成。

 カスタムナノ造形・デバイス評価支援事業では、(1)ナノレベル精密メッキ技術支援、(2)ナノ/マイクロ加工技術、(3) ナノ/マイクロデバイス素構造形成(特性評価支援)を、支援事業の3つの柱としている。いずれも早稲田大学の得意領域で、ものづくり研究開発のニーズに幅広く対応する分野構成となっている。

 「ナノテクの世界は、ものづくりしてみて初めて見えてくるものが多い。机上のシミュレーションで、単純な条件であれこれ計算しても本当のふるまいは読めません。ナノのスケールで、いろいろな素材がいろいろな形状で複雑に組み合わさって形になったときに、何が起きるのか。どうやったらナノスケールでうまく動作するものづくりができるのか、ともかく試行錯誤であれ形にして検証していくことが必要です」(本間教授)

 ものづくりは、昔から匠の技に支えられる部分が多いが、ナノの世界もまた同様に、あるいはさらに匠の技を必要とする領域といえる。例えば、メッキ技術。ナノスケールで3次元的な形状をつくるには、蒸着やスパッタリングなどのドライプロセスでは対応が困難なため、ウェットなプロセスで均一なメッキを施す方法を探究する必要がある。半導体デバイスを例にとれば、もはや2次元では留まらず、ナノスケールの3次元実装というさらに複雑な世界が展開されている。垂直方向の電気的接続を保持するために、どのような立体成型を行うのがいいのか、クリーンルームで様々な実験を繰り返していく。そこでは、理論的・経験的に積み上げられたノウハウが威力を発揮する。

光学的バイオセンサー。電子ビーム露光法でパターン形成を行い、銀膜を同心円状に加工して形成。センサー上に対象物を置き、光を照射して発生する散乱光のスペクトルを観測することにより、対象物の構造を高感度で検出・解析する。

 「民間企業だけでは実用化が優先されて、体系化や理論化がおろそかになるところを、大学が支援しながら、同時に体系化・理論化の役割を担い、共通の知識として蓄積していくことが、本事業の重要な目的の1つなのです」(本間教授)

 多くの企業に利用してもらうという点で、拠点が新宿区の早稲田キャンパスにあるということも大きい。顧客だけではなく、装置メーカーや材料メーカーなどの調達先も一堂に会して、製造・加工プロセスを検証するなどの試験作業も、ひんぱんに行われる。

 「山手線の内側で、クラス100という高水準のクリーンルームがあるのもほぼここだけです。街の真ん中にファウンダリーがあるということが、ナノテクの迅速な発展を支援するうえで大きな意味があると考えています」(本間教授)

公的支援と自主事業の両輪で

電気特性測定用ナノギャップ電極。分子の電気特性を測定するための金電極で、電子ビーム露光、真空蒸着、化学機械研磨等の技術を用いて形成。電極のギャップは僅か7.9nmである。

 2007年度からの2期目事業では、「デバイス評価」を新たな柱として加えている。ものづくりの支援で終わらせることなく、性能をきちんと評価し、体系化・理論化へつなげていくところまでを、事業の一環としてやるべきだという意思の表れである。デバイス素構造の形成そのものは、第1期から取り組んできたが、特性評価という目的を明確に打ち出した。

 「評価とひとくちにいっても、これがまたひと苦労です。電気特性の計測にしても、どんな端子をナノスケールでどこにどうやってつけたらいいのか。顧客の要望に応じて、計測のための微小端子を新たに形成するなど、評価に必要な素構造形成を含めて支援しています」(本間教授)

 また第1期では、あくまで「公的支援」という目的のため、支援内容をすべて公開しなければならない、商業化できないなどの制約があったが、第2期からは、事業の枠外で「自主事業」として取り組みを拡張することができるようになった。本気で事業化を考えている企業に対しては、このチャネルによって、通常の産学連携のスキームでの共同研究や委託研究といった選択肢を提供できるようになった。

 ナノテクノロジーへのものづくりのパラダイムの転換は、端緒に着いたばかりである。公的な支援事業によって日本全体のレベルを底上げしながら、もう一方で、先導的取り組みに挑戦する企業との本格的な産学連携によって、成功例を輩出していく。いましばらくは、この両輪を走らせていくことが求められているようだ――。

関連リンク

早稲田大学 カスタムナノ造形・デバイス評価支援事業
http://www.all-nano.waseda.ac.jp/custom_nano/index.html

早稲田大学 ナノ理工学研究機構
http://www.kikou.waseda.ac.jp/all-nano_open/index.php

早稲田大学 ナノテクノロジーフォーラム
http://www.all-nano.waseda.ac.jp/forum/

ナノテクジャパン(文部科学省先端研究施設共用イノベーション創出事業)
https://nanonet.nims.go.jp/