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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

連携開発研究のスパイラルが
絶えざるイノベーションを創出する

材料・デバイス・システム連携開発研究センター
(2007年度 私立大学学術研究高度化推進事業
〈ハイテク・リサーチ・センター整備事業〉採択)

 文部科学省の私立大学学術研究高度化推進事業は、私立大学における研究開発拠点の高度化推進の柱となる施策である。いくつかのサブプログラムがある中で、最初に創設された〈ハイテク・リサーチ・センター整備事業〉は、最先端の研究開発プロジェクトを実施する研究組織を選定して、必要な研究施設、研究装置・設備の整備に対し、重点的かつ総合的支援を行うものである。国が支援するのはこれらの設備にかかる予算の半分、残り半分と研究活動の予算そのものは、大学がみずから負担する仕組みである。

研究代表を務める柳澤政生・理工学術院教授

 早稲田大学ではこれまで、「実践的ナノ化学」(2003-2007年度)、「先端分子及び光子機能性新素材と機能システムの開発」(2006-2008年度)などのプロジェクトが同事業に採択されてきた。そして現在進められているのが、先端生命医科学センター(TWIns)が中心拠点となって推進している「医・理・工融合生命研究センター」と、今回紹介する「材料・デバイス・システム連携開発研究センター」(いずれも2007-2011年度予定)の2拠点である。いずれも私学の中では群を抜いた事業規模を有しており、他に追随するものがないといっていい。

 材料・デバイス・システム連携開発研究センターは、理工学術院の約40名の教員が参画している。大学院でいえば、基幹理工学研究科の電子光システム学専攻、情報理工学専攻、数学応用数理専攻、および先進理工学研究科の電気・情報生命専攻、ナノ理工学専攻の教員を主として、同事業で新たに整備されたセンター施設に集結し、コミュニケーションを密に取りながら、縦割りの専門領域を超えた新しいかたちの“連携型の開発研究”のあり方を追求している。同センターの概要とその目指すところについて、研究代表の柳澤政生・理工学術院教授に話を聞いた。

連携研究の新たな文化を創成する

 「本センターの目指すところは、材料―デバイス―システムという、高度情報通信社会を川下から川上に渡って支える各領域を架橋して、統合的な先端技術を創出していくことができるような、新しい連携型の開発研究の文化を創成することです」(柳澤教授)

 材料・デバイス・システム連携開発研究センターでは、ターゲットを次世代の高度情報通信社会に据えて、次の4つのプロジェクトを設定し、それぞれの果たす役割を明確に位置づけるとともに、目指すべき連携開発研究と統合的成果の構想を描いている。1)数値シミュレーションに関する数理的研究では、精度保証付きの数値計算をはじめとするコンピューティングのモデリングやシミュレーションを、2)高信頼超並列ソフトウェア基盤研究では、高速で効率的かつ高信頼性を有するソフトウェア基盤を、3)環境志向型材料創製研究では、新しい機能を持った製品を世の中に出していくうえで不可欠な、持続型社会を踏まえたエコ材料を、そして4)高機能材料デバイスとシステム開発研究では、以上のプロジェクトの成果を統合し、高機能材料・デバイスとユビキタス情報通信システムの新技術・新製品のプロトタイプを、それぞれ追求する。

 「この連携を私は、飛行機の各部位にたとえて説明しています。数理研究は尾翼、並列計算はエンジン、材料はボディ、そしてシステムはコックピットに座して操縦桿を握る役割を担う…、そんなイメージを抱いています。4つのプロジェクトが高度情報通信社会という目的地へ向かう飛行機を構成し、さらには間違いなく目的地へ降り立ってその社会応用を広げるところまでを目指しているのです」(柳澤教授)

 この連携のサイクルを、持続的に回していけるものにしていくことが、センターの究極の目標である。プロジェクトから生み出されたプロトタイプによって、各プロジェクトはさらに進展し、そこからまた新たなプロトタイプが生み出され、技術や社会の進展に応じて、新たな目的地が目指されていく――。「これを終わりのない永続的なスパイラルとして回し続け、次々と革新的な理論から実践技術を生み出していくことが、我々の連携型開発研究が目指す理想の姿です」(柳澤教授)

センターは、2008年2月に竣工された西早稲田キャンパス63号館の4階から7階を占める。4つのプロジェクトにかかわるメンバーが集結したことが、相互連携を深めていくうえで大きなメリットになっている。

広い視野から社会連携モデルを確立

 大学の教育研究は、伝統的に研究室単位での活動をベースとしてきた。研究室では、教員の興味関心に応じて専門領域が深く掘り下げられる一方で、それぞれの領域が縦割りになってしまい、相互の関連性が乏しく、統合的な視点に欠けるということが、伝統的な研究室制度の弊害となってきたといわれる。同じ学科にいても、隣の研究室が何をやっているかよく知らないという状況が、大学には当たり前のようにあった。

 しかし近年では、科学技術の成熟化、社会の成熟化に伴って、あらゆる分野で社会志向・市場志向の研究開発が求められる時代になっている。大学教員一人ひとりにも、より広い視野の中で自分はどこをやっているのか、連携によって自分の研究活動の可能性はどう拡張しうるのか、連携してもなお足りないものは何か、統合的な成果を出すためにブレークスルーすべきものは何かといったことを、積極的に探究する姿勢が求められるようになっている。

 「大学には今、古い伝統から脱却して、新しい連携の文化を創成することが求められています。そうしなければ、社会に必要とされる研究成果も出せないし、人材も育てられない。何より学問そのものの発展が、研究者の連携の中からこそ生まれていく、そういう時代だということを認識しなければならないのです」(柳澤教授)

センター主催の第3回シンポジウム「材料・デバイス・システム連携と次世代通信社会」(2009年12月12日)でのパネルディスカッション風景。今後の連携開発研究や研究者のあり方などについて、熱心な議論が展開された。

 こうした問題意識のもとで、早稲田大学では理工学部全体の再編に取り組んできた。教員個人の研究活動の一方で、それらの相乗効果による組織的な成果を出すこと、さらには社会の発展、産業の発展に資する技術的イノベーションにつながる研究成果を出すことを、大学の新たな使命と位置づけることを重視してきた。

 「もっといえば、産業界が厳しい状況におかれている中で、大学には企業の中央研究所の代わりとなるような、広い視野からの社会的分業と産学連携の機能が求められているのです。本センターが目指しているのは、そのための開発研究の尖鋭的なモデル化といってもいいのかもしれません」(柳澤教授)

 それはまた、従来から言われてきた、基礎研究と実用化の間に横たわる、「死の谷」と呼ばれる大きなギャップを埋めていくための、新たな開発研究のモデルを探究する試みでもある。大学の中に、基礎研究から実用化までを一貫した視点で見据え、連携によってこのギャップを乗り越えていく方法論を確立することが目指されている。

若い世代を連携の文化で育てる

シンポジウムでは、若手研究員も多数参加し、熱のこもったディスカッションが繰り広げられた。

 新たな連携文化をいかに生み出すか――将来の開発研究のビジョンや方法論などのあり方について、年1回のシンポジウムを中心に、熱い議論が交わされてきた。2009年12月に開催された第3回シンポジウムでは、村岡洋一教授(情報理工学専攻)が情報学の未来について、また共催の「アンビエントSoC教育研究の国際拠点」からのゲスト講演として、後藤敏教授(情報生産システム研究科)が情報・電子分野の先端研究のあり方について、それぞれ問題提言型の基調講演を行った。
いずれも根底に流れる問題意識は、縦割りシステムをベースとした学術研究の閉塞感をいかにして打ち破っていくかということである。こうした閉塞感を打ち破る上では、やはり異分野交流が欠かせないものとなっている。

 「若い世代への教育においても、大学院生の学位論文はもちろんのこと、学部生の卒論の段階から、連携と交流にもとづく開発研究への意識を高めていくこと、そういう文化の中で研究を進めていくことが、何よりも重要になっていくと思います」(柳澤教授)

シンポジウム併催のポスターセッション

 シンポジウム併催のポスターセッションにも力を入れている。「自分たちの研究をショーウインドウ化して、異なる研究室、異なる専攻の人たちに対して、積極的に見せていくことが重要です。そのための機会を意識的に作っていくように心がけています」(柳澤教授)

 今年度ようやく中間評価の時期を迎えて、4つのプロジェクトから主要な成果がかたちになって出てきたところである。これからの後半フェーズでは、いよいよ連携の本格的な創成に向けて、取り組みに力が入れようとされている。これまでにない、大学発の連携開発研究のスパイラルモデルの創出に、期待が大きい――。

関連リンク

早稲田大学 学術研究高度化推進事業(採択事業紹介)
http://www.waseda.jp/rps/yearbook/2007/support/gakujutsu.html

早稲田大学 理工学術院
http://www.sci.waseda.ac.jp/

早稲田大学 基幹理工学部・研究科
http://www.sci.waseda.ac.jp/global/faculty/nucleus/index.html

早稲田大学 先進理工学部・研究科
http://www.sci.waseda.ac.jp/global/faculty/advanced/index.html