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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

グローバル社会の諸問題を
「日米」という切り口から追究する

日米研究機構

日米研究機構のキックオフ・イベントを兼ねた第1回国際シンポジウム「2008年以降の日米関係~米国大統領選挙と安全保障、政治、経済への影響~」(2008年6月)

 早稲田大学が独自に導入している「研究機構」は、大学が戦略的な研究活動を推進していくうえで、統括的な役割を果たすことを目指した組織である。学内横断的な共同研究(約150のプロジェクト研究所)を束ねる総合研究機構(2005年度設置)のほか、戦略的テーマ別の研究機構として、ナノ理工学研究機構(2003年度設置)、IT研究機構(2004年度)、先端科学・健康医療融合研究機構(2004年度設置)、アジア研究機構(2005年度設置)、イスラーム地域研究機構(2008年度設置)、日欧研究機構(2009年度設置)を順次設置してきた。

 こうした流れの中で、2007年度に設置されたのが「日米研究機構」である。早稲田大学では、過去半世紀にわたり、毎年100~150人のアメリカ人留学生を受け入れてきた。また現在、協定関係を結んでいる539の大学・研究所のうち、アメリカの機関が約100を占める。こうした教育・研究の国際化における実績の積み重ねが、設置の背景としてある。

日米研究機構長を務める藪下史郎教授

 戦後日本は、政治・経済・文化などのあらゆる面で、アメリカから多大な影響を受けてきた。しかし、その関係の強さや幅広さから比してみたとき、「アメリカ研究」といわれる分野は、歴史学を中心に、限られた人文系の研究分野でのみ展開されてきた傾向が強い。政治学、経済学、経営学といった社会科学系の分野においても、アメリカは確かに重要な研究対象であるものの、それがアメリカ研究という大きな学際領域に結びつくような展開は、これまで日本では希薄だった。

 こうした傾向に風穴を開けて、アメリカ研究、あるいは日米研究を、総合的・学際的な研究領域として確立していく必要があるという強い問題意識のもとで、日米研究機構は設立された。設置から3年目を迎え、大きな目標へ向けて動き始めた活動の手応えや課題について、日米研究機構の機構長を務める藪下史郎・政治経済学術院教授に話を聞いた。

研究に裏づけられた政策提言を

日米研究機構の概要(クリックで拡大

 日米研究機構が掲げる「日米研究」の対象は、狭い意味での「日米」には留まらない。アメリカについては、カナダを含めた北米はもちろんのこと、中南米諸国も含めた大きなアメリカ圏が対象とされている。日本についても、東アジアの中の日本、あるいはアジア全体の中の日本という位置づけがなされている。学問分野についても、人文科学はもちろんのこと、広く社会科学全般、ビジネス、そして科学技術や技術移転も、研究の射程に入れられている。

 「単にアメリカや日米関係の歴史や文化を研究するのではなく、日米が世界の安全保障、環境や資源の問題、途上地域の開発、経済やビジネスにどうコミットしていくのかという大きな文脈の中で、新しい研究領域を確立したいという思いが強くあります。さらには民間のシンクタンクとは一線を画した、“アカデミックな研究に裏づけられた政策提言”を行っていくことが、我々の使命だと考えています」(藪下機構長)

 日米研究機構では、こうした野心的な取り組みに向けて、学内の研究者や研究プロジェクトを束ね、(A)米国社会・政治・経済・文化、(B)環境・資源・エネルギー、(C)国際協力、(D)安全保障、(E)グローバル・ビジネス、という5つの研究グループを組織している。全学から50名以上の教員の参画と協力を得るとともに、学外の大学・研究機関、民間のシンクタンクや企業、NGO、NPOなどからも、積極的に活動への参加を受け入れている。

本として刊行された研究成果もすでにある。左:吉野孝、前嶋和弘編著『2008年アメリカ大統領選挙―オバマの当選は何を意味するのか』(東信堂;2009年8月)、右:兵藤智佳、勝間靖著『国際保健による政策決定プロセスにおける日本のNGOの役割と課題』((財)日本国際交流センター;2009年9月)

 「政策形成に重要なテーマを抽出して、アカデミックな研究を展開すると同時に、政策提言も行っていく。そのためには、それぞれの学問領域のスタンダードな理論をきっちり押さえなければなりません。必然的に、日米という枠組みに捕らわれず、各分野の第一線で研究活動を展開している研究者の参画がなければ成立しないのです」(藪下機構長)

 5つの研究グループは、それぞれに現実社会の課題となるテーマを設定し、研究活動を進めている。例えば、オバマ政権の擁立を背景とした「21世紀アメリカのアイデンティティ」(Aグループ)、国際保健・国際教育・サステイナビリティの3領域に着目した「持続可能な開発とミレニアム開発目標を目指す国際社会における日米の役割」(Cグループ)、大学発ベンチャーの創出とその生き残り策に焦点を絞った「グローバルニッチ戦略獲得の支援ネットワーク構築」(Eグループ)といった具体的なテーマを設定し、戦略的な研究活動を展開している。こうした研究の成果から、すでに本にまとめられているものもある(写真参照)。

社会に開かれた議論の場を提供

ジョン・V・ルース駐日米国大使を招いて講演会を開催(2010年1月)

 日米研究機構では、すべての活動において「開かれた場」を形成していくことをモットーとしている。毎年の国際シンポジウム、著名なゲストスピーカーを招いての講演会はもちろんのこと、開催する大小すべての研究会を原則公開としている。

 シンポジウムでは、広く社会に開かれたディスカッションの場を創出することが目指されている。2010年1月には、ジョン・V・ルース駐日米国大使を招き、「日米同盟―今後も変わらぬその重要性」というテーマで講演会を開催した。
「普天間基地問題をはじめ日米間にセンシティブな課題が山積する中で、大学が中立的な議論の場を提供することには、重要な意味があります。こうした場を通じて、アカデミックな議論が深まり、問題解決と政策提言への新しいアプローチが生まれることにつなげていくことが大切です」(藪下機構長)

 2009年6月の第2回国際シンポジウムでは、日本、米国に加えて、中国からも2人のパネリストを迎えた。テーマも、「世界政治経済と日本・米国・中国―グローバル危機と国際協調をめぐって」と、日中米の3国を主軸としながら、リーマンショック以降の世界経済を議論していくものとなった。このシンポジウムでの発表論文は2010年3月刊行予定の『世界政治経済と日本・米国・中国』(仮題、東洋経済新報社)に収録される。

日米研究機構 第2回国際シンポジウム「世界政治経済と日本・米国・中国~グローバル危機と国際協調をめぐって~」(2009年6月開催)

 「もはや中国をはずして、グローバル経済、日米経済を語ることはできません。中国からの活動への参加を積極的に要請していくことが、必要不可欠になっています」(藪下機構長)

 異色な試みも行われている。人気歌手のMISIAとアートディレクターの信藤三雄という、共に社会貢献的な活動の展開で注目されている2人を招いて、2009年11月、「Child AFRICA特別講座―MISIA&信藤三男 ART-MUSICを語る」というトークイベントが開催された。早稲田大学グローバル・ヘルス研究所、MISIAさんの提唱で設立された任意団体、Child AFRICAとの共催によるものだ。

組織連携で相乗効果を創出

日米研究機構事務局スタッフと藪下機構長(中央)

 狭い意味での日米を超えて、研究対象となる領域を広げているため、学内の他の研究機構やプロジェクト研究所などとも重複するところが多くなってくる。そのため、機構の内部の連携はもちろん、外部との連携を促進して、相乗効果を高めていくことが重視されている。

 「多様なプロジェクトの間に、1+1=2以上の大きな相乗効果――経済学の用語でいう外部性の効果を発揮していく。それができなければ、“研究機構”のような組織の存在する意味がありません。連携や交流を仕掛けて、相互に刺激を与えあい、学びあう中で、新しいものを創造していける研究環境を形成していくことが、研究機構の存在価値です」(藪下機構長)

 学生の教育・研究のための場として活動を広げていくこともまた、重要な課題である。その1つとして、2008年度から日米の大学院生の参加を得て、ビジネス・アントレプレナー(起業家)育成プログラムを実施、インターネットを活用して日米で合同講義を行っている。2009年度には日米の学生が互いの国を訪問して、ワークショップを行った。

 「私もかつて、政治経済系の同僚・大学院生とともに連携校へ出かけ、コンファレンスを行いました。日米研究機構でも今年ジョージタウン大学(Georgetown University)へ出向き、米国の学生・研究者たちと“GU・Waseda合同セミナー”を行います。こういう押しかけ型の“出前”セミナーは、本学の得意とするところで(笑)、これからもっと力を入れていきます」(藪下機構長)

日米研究機構 組織図

 機構の研究成果を、学部や大学院の講義へと反映していくことも課題である。例えば、日欧研究機構では、全学学生を対象にしたオープン教育センターで、「EU-欧州統合研究」コースを開講し、学部生向けの副専攻(テーマスタディ)と、大学院生向けの演習(テーマカレッジ)のカリキュラムを提供している。
「ゆくゆくは日米研究機構でも、そうしたカリキュラムを組んで、様々な専攻の学生が日米研究を学んでいけるようなかたちを目指していければと考えています」(藪下機構長)

 日米研究機構の壮大な取り組みは、端緒に着いたばかりである。研究・教育活動、政策提言活動を発展させていくと同時に、グローバルな存在感を高めていく様々な活動を、意欲的に展開していこうとしている――。

関連リンク

早稲田大学日米研究機構
http://www.kikou.waseda.ac.jp/wojuss/

早稲田大学総合研究機構
http://www.kikou.waseda.ac.jp/

早稲田大学アジア研究機構
http://www.kikou.waseda.ac.jp/asia/

早稲田大学イスラーム地域研究機構
http://www.kikou.waseda.ac.jp/ias/

早稲田大学日欧研究機構
http://www.kikou.waseda.ac.jp/nichioh/

日米研究インスティテュート(米国NPO) US-Japan Research Institute
http://www.us-jpri.org/

早稲田大学日米研究機構 プロジェクト研究所

日米研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/wojuss/related_studies/japan_us.html

グローバル・ヘルス研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/wojuss/related_studies/globalhealth.html

グローバル・サステイナビリティ研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/wojuss/related_studies/globalsustainability.html

国際教育協力研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/wojuss/related_studies/intcoopedu.html

実験経営学研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/wojuss/related_studies/expmgt.html

グローバル・ガバナンス研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/wojuss/related_studies/globalgovernance.html

アメリカ政治経済研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/wojuss/related_studies/us_politics.html