早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > 研究力 > WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

日本文学・日本文化研究の拠点として
世界的なネットワークを構築する

国際日本文学・文化研究所

 早稲田大学は、2007年に創立125周年の節目を迎えたことを契機に、大学経営の中長期計画「Waseda Next 125」を打ち出すとともに、世界に通用する「研究のWASEDA」の確立へ向けて、大学として組織的・戦略的に力を入れていく重点研究推進分野を策定した。目標を実現に移していくために、2009年4月には戦略研究を推進していくための全学組織、重点領域研究機構が新たに設置され、2009年度・2010年度に、各年4つの重点領域において、学内研究プロジェクトの公募が行われた。

「国際日本文学・文化研究所」のロゴマーク

 こうした動きの中で、当初から人文系研究の重点化の柱として打ち出されていたのが、早稲田大学を「日本学・日本文化の世界的な研究拠点」としていくこと、そのために「国際日本研究機構(仮称)」を早期に設立していくという構想である。その第一歩として、2009年度には、「日本学・日本文化研究の国際発信・交流」というテーマで学内公募が実施され、複数の応募の中から、その一つとして、「世界と共創する新しい日本文学・日本文化研究」プロジェクト(研究代表:中島国彦・文学学術院教授)が採択された。

 同プロジェクトは、早稲田大学、とりわけ文学学術院において、長い時間をかけて培ってきた日本文学研究、日本文化研究のさまざまな成果を活かしつつ、これまで個別に築いてきた海外の有力な研究機関及び研究者たちとのパイプをより強固なものにし、真に国際的と言いうる研究の展開をめざす計画のもと、組織されたものである。

国際日本文学・文化研究所所長を務める中島国彦教授

 プロジェクトの採択と同時に、重点領域研究機構の中に「国際日本文学・文化研究所」というプロジェクト研究所が設置された。学内に散らばっている多くの教員や若い研究者を結集する活動拠点として、早稲田大学の日本文学・日本文化研究の国際的なネットワーク拠点として、また早稲田で学びたいという世界の研究者や留学生の受け入れ窓口としての機能を担い、活動を展開している。

 重点領域研究プロジェクトの研究代表であり、同研究所の所長を務める中島国彦・文学学術院教授(近代文学専攻)に、一連の取り組みについて話を聞いた。

重点領域研究を契機に学内研究者が結集

 人文系の研究は、理工系分野などと比べて、大きな額の研究資金獲得を目標とすることはそう多くはない。目に見える社会応用・産業応用につながる成果が出しづらい、高価な実験装置などが必要とされないといったことが、その背景にあるといえるだろう。既存の公的研究資金の確保だけでは、個人レベルの研究は進められても、何か組織的に新しいことに挑戦する、国際的な教育研究の新しい体制づくりを図るといった取り組みが、なかなか難しい状況にある。

 しかし、学問において人文系研究が重要なことはいうまでもない。とりわけ日本学や日本文化研究の国際的なプレゼンスを高めていくことは、文化・経済・政治……、あらゆる領域での日本のプレゼンスを高めていくことに直結し、きわめて社会的重要性、貢献度の高い取り組みといえる。

5つのプロジェクトの関係
本重点領域研究では、3つの海外連携プロジェクト(縦軸)と、2つのテーマプロジェクト(横軸)が設定されている。テーマプロジェクトは、3つの海外連携プロジェクトを架橋していく役割も担う

 「今回、本学が重点領域として日本学・日本文化研究を定め、そこに自前の研究資金を出していくということには、大きな意味があります。本学には他大学と比べても多数の日本文学・日本文化の教員がおり、それぞれが高い研究業績や国際的ネットワークを有しています。しかしこれまでは個人の研究や、所属する学部・大学院の業務に追われて、学内で組織的に連携する機会がほとんど持てないという状況でした」(中島所長)

 重点領域への応募は、こうした状況を打開する契機として捉えられた。文学学術院に所属する教員を中心に13名の主幹メンバーが集まり、プロジェクトが構想された。まずは日本文学を中心に活動の基盤を固めつつ、外国文学、美術、歴史、映像、メディア、サブカルチャーなど、様々な領域へ広げていく計画が立てられた。具体的には、次の図に示されたような、5つのプロジェクトが設定されている。

 米・欧・アジアにわたる3つの海外連携プロジェクトは、アメリカのコロンビア大学との連携プロジェクト、フランスの研究機関イナルコ(フランス国立東洋言語文化研究学院:INALCO)との連携プロジェクト、そして中国、韓国を中心としたアジアの大学や研究機関との連携プロジェクトからなる。

明治期に活躍した文学者・思想家、木下尚江の貴重な資料(文学学術院所蔵)の画像データベース化プロジェクトも進めている

 「コロンビア大学は、世界で最も先進的な日本研究の拠点です。イナルコもまた、フランスを代表する日本研究の拠点として、世界にその名を知られています。いずれの大学・研究機関とも、これまですでに長い連携の蓄積があります。また、これらの大学・研究機関で活躍する研究者の方々の多くが、かつて本学で学ばれた経験を持たれていることも強みです。この機会に本学が拠点となって、日・米・欧をつなげる連携研究へ、さらにはアジアを含めた世界的な連携研究へとネットワークを広げていくことを目指しています」(中島所長)

 「メディア・書物・注釈」「現代・制度・都市」という2つのテーマプロジェクトも設定された。メディア・書物・注釈プロジェクトは、早稲田大学が所蔵する文学・語学資料のデータベースの構築やその活用を通して、新たな本文研究・注釈研究を提示していこうとするもので、なかでもコロンビアプロジェクトと連携し、万葉集以降の和歌研究についての成果を集約し、海外へ紹介していくことなどにも力が入れられている。現代・制度・都市プロジェクトは、文学や歴史・演劇映像などを含む文化の展開と、現実の環境の史的展開との関係を総合的かつ国際的に研究しようとするもので、具体的には、時代小説などの大衆文学の誕生と社会とのかかわりや、日本とアジアの表象、なかでもオキナワのありかたについての研究、また現代都市伝説や、携帯小説など都市とメディアの変容に関する研究などが計画されている。

ダブル・ディグリー・プログラムの展開

コロンビア大学との共同ワークショップ「国際交流・学問・教育の新展開―日本文学・日本文化研究の将来―」(2010年1月早稲田大学にて)

 将来の日本文学・日本文化研究を担う若手研究者育成のための国際連携にも、力が入れられている。重点領域研究に先立つ2008年度から、コロンビア大学と早稲田大学の間で、ダブル・ディグリー・プログラムがすでにスタートしている。両校の博士後期課程の学生が、相手校の修士課程に留学し、1年間で修士学位を取得するというプログラムで、すでにコロンビア大学で3名、早稲田大学で1名が、相手校での学位取得を果たしている。

 「これまでも相互の学生留学は活発に行われてきていましたが、これをきちんと大学として制度化し、学位授与まで実現させたことは、たいへん意義深いことです。教育研究体制への相互の信頼関係が構築され、以前よりいっそう安心して学生を送り出すことができるようになりました。ダブル・ディグリー・プログラムの成功例は決して多くないのですが、コロンビア大学と我々の取り組みは、非常にうまくいっている成功事例といえるでしょう」(中島所長)

ニューヨーク・コロンビア大学での国際交流風景(ダブル・ディグリー・プログラム現地中間報告より)

 2008年3月には兼築信行・文学学術院教授、2009年3月には十重田裕一・文学学術院教授、2010年3月には日下力・文学学術院教授がコロンビア大学を訪問して一ヶ月ほど講義を担当するとともに、国際シンポジウム・ワークショップに参加、コロンビア大学のハルオ・シラネ教授、鈴木登美教授らと協力して、大きな成果を収めている。一方で、2007年11月にはコロンビア大学のポール・アンドラー教授、2009年1月にはハルオ・シラネ教授、2010年5月にはデイヴィッド・ルーリー准教授が、早稲田大学で特別講演を行うなどの教育交流も活発化している。

 2010年1月には、早稲田大学において、コロンビア大学との共同ワークショップ「国際交流・学問・教育の新展開―日本文学・日本文化研究の将来―」を開催、コロンビア大学から担当教員が来訪し、ダブル・ディグリー・プログラム修了者も参加、早稲田大学の担当教員や学生と、今後の国際連携のあり方についての実質的な議論が行われた。学内の関係分野の研究者や学生が多数集まって予想以上の盛況を見せ、本プロジェクトへの注目と期待の高さが感じられた。

日英バイリンガル出版など成果も着々

文学学術院では、海外からも著名なゲストを招き、多数の関連講演・シンポジウム・ワークショップを開催してきている

 重点領域研究プロジェクトが発足してまだ1年だが、研究成果も着々と出始めている。コロンビア大学との共同研究をベースにした共同出版プロジェクトが3冊進行中で、うち2冊は出版社も決まっている。1冊は「検閲・メディア・文学」に関するもの、もう1冊は「和歌文学」に関するものである。

 「日本文学・日本文化を学んでいる世界の学生が、教科書・参考書として読めるようなものを想定しています。どちらも同じ論文が日本語と英語の両方で併記される「バイリンガル出版」となる予定です」(中島所長)

 テーマプロジェクトによるイベントも目白押しだ。2010年10月には、イナルコとの共同国際ワークショップ「記憶の痕跡」が早稲田で開かれ、同月の早稲田大学文学部創設120周年記念イベントでは、文学学術院所蔵資料のデータベース化プロジェクトの第1弾として、木下尚江という明治期に活躍した文学者・思想家の資料画像のデータベースによる公開と資料展示をし、本重点領域研究の活動をアピールしていく。

アジアの研究者・学生との交流も活発に行っている。写真は国立 HANBAT大学校日本語科、朴蕙成(パク・ヘソン)先生講演会「韓国における日本古典文学研究・教育の現状と課題―中世文学を中心に―」(2010年3月早稲田大学にて)

 2010年11月には、現代・制度・都市プロジェクトによる国際シンポジウム・講演集会「越境する歴史×時代小説―ジャンルの混交、研究のグローバル化」が開催される。中国・韓国など海外から招待講演者を招き、国内の学者・作家・評論家とともに、歴史小説の成立、司馬遼太郎論、チャンバラものの誕生といったテーマについて、研究発表や講演、シンポジウムを行う。

 重点領域研究の3年間のスタートアップ期間に実績を形成し、将来的には外部資金を確保し、世界的拠点としての自立的展開を図っていく――その目標への足場を着々と築きつつある。

関連リンク

早稲田大学国際日本文学・文化研究所
http://www.j-lit-cul.com/index.html

早稲田大学重点領域研究機構
http://www.kikou.waseda.ac.jp/jyuten/

早稲田大学文学学術院
http://www.waseda.jp/bun/

早稲田大学文学部学術情報データベース
http://db2.littera.waseda.ac.jp/app/index.html

フランス国立東洋言語文化研究学院(INALCO)
http://www.inalco.fr/

アメリカ コロンビア大学
http://www.columbia.edu/