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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

「複合災害」という視点から 大震災の複雑な特性を解明する

東日本大震災復興研究拠点・複合災害研究所

 2011年3月11日、東日本を襲った未曾有の大震災に際して、早稲田大学では地震直後に災害対策本部を設置し、学生・校友・教職員の被災状況の把握や、様々な緊急対応に取り組んできた。4月8日には「東日本大震災復興支援室」を設置、(1) 被災学生の就学支援、(2) 被災地域への支援、(3) 研究を通じた復興支援 の3つの支援方針を掲げ、多方面にわたり全学的な取り組みを進めてきた。

早稲田大学「東日本大震災復興支援室」3つの復興支援方針

複合災害研究所所長を務める、柴山知也教授

 さらに5月8日には、3番目に挙げた「研究を通じた復興支援」を具体的に進めていくために、「早稲田大学 東日本大震災復興研究拠点」を設立、全学横断的な連携研究プロジェクトとして、(1) 医療・健康系復興研究、(2) インフラ・防災系復興研究、(3) 都市計画・社会システム系復興研究を定めるとともに、一連の研究活動に対して、WASEDAサポーターズ倶楽部からの支援も含めて、大学が年間最大2千万円を3年間助成していくこととした。6月1日には、3つの研究プロジェクトが正式に設置され、活動がスタートしている。

 「複合災害研究所」は、このうちの「インフラ・防災系復興研究」を担う。理工学術院の柴山知也教授、依田照彦教授、香村一夫教授、国際学術院の松岡俊二教授が中心となり、津波被災、環境影響、複合巨大クライシスへの対応などについて、研究を通じた復興支援および、将来への対策に貢献することを目指した活動への取り組みが始まっている。研究所長を務める柴山知也教授に、設置からの活動と今後の展開について話を聞いた。

複合的な災害の全体像に目を向ける

 「沿岸防災の専門家である私が復興支援に携わるのは当然の責務ですが、大学全体として震災復興支援に取り組むことになり、急きょ他分野の教員たちと連携して、複合災害研究というより大きな観点から研究プロジェクトを推進していくことになりました」(柴山教授)

東日本大震災被災地調査(宮城県仙台市若林区荒浜、2011年3月25日)

 大震災とは、まさに複合的な災害である。地震、津波によりあらゆるものが巨大な力で破壊された。被災による大規模な火災も起こった。さらに原発被災と放射能汚染が、事態を複雑化させた。被災地の瓦礫の山からは、津波に巻き込まれて集積した様々な化学物質が漏れ出している。放射能に汚染された土砂も、どこへ運び、どう処理するのか。複合的な災害の全体像に目を向け、日本全体の問題として復興支援に取り組んでいかなければならない。

 複合災害研究所の取り組みは、(1) 津波被災機構と津波対策、(2) 環境影響、(3) 複合巨大クライシス の3つの柱から構成される。
津波被災機構の研究は、津波と高潮の災害研究では第一人者である柴山教授と、橋梁工学の依田照彦教授が主導する。日本は、Tsunamiという言葉を世界に知らしめた国であり、津波被災の経験と研究においては、世界をリードしてきた。しかしその日本において大きな被害が出た。この事実を、研究者もまた真摯に受け止めなければならない。プロジェクトでは、今回の震災に積極的に学び、津波被災の予測、港湾施設や防波堤・防潮堤の設計、津波被災避難計画などについて、根本的な見直しを図っていくための研究を行う。

 環境影響の研究については、環境地質学、廃棄物処理工学を専門にする香村一夫教授が中心となり、瓦礫に溶け込んでいる人工の化学物質が、どこにどれだけ蓄積され、どのように漏れ出して環境に影響を与えるのか、すでに各地域でのサンプル収集を終え、分析を進めている。
「大変な作業ですが、やるとなったら研究者というのは一所懸命に取り組みますからね。香村先生も全力投球で臨んでいますよ」(柴山教授)

 複合巨大クライシスの研究については、環境経済学や環境政策学を専門とする松岡俊二教授を中心に、福島原子力災害に焦点を当て、現場の判断と意思決定のプロセスや、現場と自治体、自治体と政府などの関係構造について、社会学的なアプローチを取り入れながら分析していく計画である。

 「私自身、建設社会学というアプローチで、災害復興や社会基盤施設建設をめぐる社会的な合意形成に関する研究も行ってきました。関係者への聞き取りや、会議の議事録など、様々なデータを収集し、会話や発話の意味の質的分析といった方法を使って、意思決定や合意形成のプロセスを分析し研究をしていきます」(柴山教授)

東日本大震災被災地調査(宮城県女川町、2011年3月26日)

過去の経験に学んだ地域再建計画を

1960年チリ地震津波に関する報告書(1961)

2010年チリ地震津波調査(柴山研究室)

 「この半年間、何度も被災地を訪れ、現地調査を行ってきました。津波の最高到達高39.7mを記録した岩手県宮古市の姉吉地区では、100歳の漁師さんにお会いしました。昭和8(1933)年の昭和三陸地震津波を経験されている方です。このときの生存者はわずか4人だったと言います。姉吉地区ではこの経験から、集落を海抜60mの高台へ移転して、漁港と集落を行き来しながら暮らしてきました。だから姉吉地区では、今回の津波では全員が無事でした。

 姉吉地区でも、三陸地震の経験はほとんど忘れられていたのですが、40mより低いところに戻っていかなかったのです。昭和35(1960)年のチリ地震での津波は、三陸地震の時よりもはるかに規模が小さかったのですが、多くの地域ではこれが経験として記憶されてしまった。チリ地震津波の時よりも高いところにいれば安全だろうと考えられてしまったところもあります。経験がマイナスに作用して、被害を広げてしまったんですね。この過ちを繰り返さないために、やはり過去の経験を科学的に分析して、地域再建を進めていく必要があります」(柴山教授)

 災害の科学技術は、経験がものを言う。日本の津波研究者には、昭和35(1960)年のチリ地震による津波被災、2007年のスマトラ島沖地震での津波被災などを調査研究してきた蓄積がある。チリ地震の津波被災の調査にかかわった研究者たちは、すでに現役を引退しているが、当時の記録は本にまとめられきちんと残されている(写真)。

 「この時に実地調査にかかわった研究者の方々は、もう現役を引退されています。年配の先生方の中には、被災地支援に立ち上がっている方もいます。また、岩手県などは、すでに復興計画を策定しつつあります。最大規模の津波高さを想定することにより、避難計画を再検討しようという試みは、全国各地で行われています」(柴山教授)

被災地で調査の経験を培う学生たち

 今回のプロジェクトでは、学生が目覚ましい活躍をみせている。9月には学生48人、教員3人の大所帯で、3日間の被災地調査に入った。4年生と大学院生が混じって、仮設住宅、地盤、コンクリート、港湾構造物など様々なテーマのもとに調査チームが編成された。1泊目は岩手県北上市に、2泊目は仙台に宿を定め、チームごとに様々な場所へ調査に散らばり、夜遅くに宿へ帰ってから調査の整理やまとめ作業を行い、朝の全体ミーティングでは各チームが前日の調査についてプレゼンテーションを行い、再び次の調査地へ散らばるというハードスケジュールをこなした。

 「学生は広く他の研究室からも参加しました。自分の研究室の所属以外の学生を引率して被災地の現地調査へ行くのは、初めての体験でした。たいへん驚かされたのは、彼らの調査研究のレベルの高さです。どのチームの取り組みも、そのまま学会発表に出しても通用するほどの質の高さでした」(柴山教授)

 例えば、橋梁の調査チームは、半壊した橋を使い続けている状況に注目し、徐々に腐食が中心部へ広がっていて危険さが増してきている状況を報告した。海岸環境の調査チームは、被災地沿岸の海水浴場の砂が津波によって内陸へと流されてしまったことに着目。通常の台風では砂は沖へ流されるため、しばらくするとまた海岸に砂浜が徐々に堆積してくるのだが、今回は破壊されたまま砂浜が再生されない可能性が高いことを報告した。

東日本大震災被災地での学生たちと教員のミーティング風景(2011年9月17日)

 「震災が起きてから、本学の対応は迅速でした。3月11日の震災後に、翌年の卒業研究配属を行ったのですが、各教員は、震災に関連するテーマを挙げて臨みました。そのため6月に立ち上がった本プロジェクトにも、多くの新4年生が参加し、早稲田の学生の底力をおおいに発揮してくれました」(柴山教授)

 20代前半の学生たちが、被災地のまっただ中に入っていき、現地を実際に歩いて被災地の状況を見聞きする経験は、彼らの中に確かな経験として根づき、これから少なくとも50年間、日本の防災を支える礎となっていくはずである。

 「被災地の経験を、日本のほかの地域に生かしていくことが重要です。すでに神奈川県、横浜市、東京都港区などの自治体には、避難計画の見直しなどの具体的なアドバイスを行っています。今回はあまり影響が及ばなかった東北以外の地域こそ、次は自分たちのところだという意識を強くもって、最悪の事態に備える準備をすべきだと思います。地域に眠る古文書の調査や、地層の調査を行うなどして、過去どれくらいの津波が来ているのかを探り、自分たちの土地の被災の可能性を真摯に学んで、避難計画、防災計画を再構築していくべきでしょう」(柴山教授)

 被災地の復興支援は、日本全体の防災対策を、各地域が他人事ではなく、自分の事として真剣に考えていく姿勢によって、初めて真に理解され支えられることになるのだろう。

関連リンク

早稲田大学 重点領域研究機構 東日本大震災復興研究拠点・複合災害研究所

早稲田大学 東日本大震災復興支援室

早稲田大学 理工学術院