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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

グローバル化する世界の情況下、21世紀の日本型システムを探究する

現代日本社会システム研究所

 伝統的に「日本研究」「日本学」という呼称は、日本の歴史や文化に関する研究Japanologyを指して用いられてきた。それは「外国人が見た日本」「外国にとっての日本」という観点から発展し、おもに欧米の研究者たちによって牽引されてきた系譜がある。これに対して、現代では社会科学のそれぞれの専門分野において日本を分析対象とする研究が進み、日本の政治、日本の経済、日本の企業組織などについて多くの知的蓄積がなされてきている。しかし、残念ながら、こうした研究は細分化されて発展し、それらを総合的にまとめあげるような「日本研究」は、これまで明確には存在してこなかった。

 そうした中、グローバル化の著しく進展した21世紀の世界を、日本および日本人がどのようにして生き抜いていくのかを明らかにすることは、学術的にも実践的にも急務な課題となっている。「世界の中の日本」「アジアの中の日本」を各専門分野の最先端の研究をふまえて再考し、その成果を政策提言や社会貢献へと結びつける有効な発信を行っていくためには、多分野にわたる研究者を擁する早稲田のような総合大学において、人材資源を有機的に結びつけ学際的な研究活動を組織化していくことが不可欠である。

 2009年に、早稲田大学が戦略的に推進すべき重点領域研究が策定され、その1つとして「日本学・日本文化研究の国際発信・交流」が設定された。日本学、日本人論の新展開をはじめ、日本の国際交流、日本型平和・福祉国家モデル、日本型経済など、従来にはなかった新しいかたちの日本研究の萌芽を、大学としても制度的に支援し発展させていくことが目指されてきた。またこれと表裏をなすように、「グローバリゼーション下の制度」というテーマが設定され、ローカル/グローバルな新たな法制度、市場と組織、企業戦略などの研究、アジアや世界各地域の政治的・経済的統合問題に関する研究も、重点領域研究として位置づけられた。

 この両者を横断するような研究領域プロジェクトとして注目されるのが、政治・経済・社会の3つの主要分野を架橋し、現代日本の様々な側面を学際的、体系的に捉えようとしている現代日本社会システム研究所の取り組みである。所長を務める河野勝・政治経済学術院教授に話を聞いた。

現代日本社会システム研究所所長/河野勝 教授

現代日本社会システム研究へ向けて

 2009年11月に設置された同研究所は、早稲田大学唯一の学際研究拠点である高等研究所との組織的協力のもとに運営されている。河野教授は、高等研究所が設立された当初から、その社会科学関連の運営と活動に関わり、現在にいたるまで兼任研究所員をつとめている。プロジェクトの主要メンバーであり、日本型企業ガバナンス研究の第一人者として知られる宮島英昭教授(商学学術院)は、高等研究所所長である。現代日本社会システム研究所は、高等研究所に短期・長期的に訪れる優秀な若手研究者たちと学内の研究者たちとの連携を核とし、そこにさらに学外から研究協力者が参加して、新しい学際的研究を生み出し発信していくためのプラットフォームとして機能している。(→研究員一覧

 「現代日本社会システム研究所の最終的な目標は、現代日本社会の様々な側面をひとつの総体的なシステムとして捉える研究の方向性を確立することです。その目標へ向けてこれまで取り組んできたのが、日本が抱える諸問題の中でも重要な3つのテーマ、①外交・安全保障、②コーポレート・ガバナンス、③社会保障・労働、についてです。そのもとで、参加メンバーのこれまでの研究成果を持ちよって、新たな学際的アプローチを探究するとともに、テーマを超えて共通する日本型システムの構造的問題点を洗い出していくという作業です」(河野教授)

 この3テーマに沿って、対外関係、経済システム、社会保障の3つの研究グループが組織された(図1)。河野教授自らが率いる対外関係グループは、変容するアジアおよび世界の環境のもとで、戦後日本の平和主義がどのように適応するのかを解明していく。経済システムグループでは、宮島教授らが中心となり、グローバル化を背景に起きている、米国型経済システムへの収斂か各国各地域の多様な経済システムの維持かという議論の中での、日本型経済システムのあり方を解明していく(参考記事)。篠田徹教授(社会科学総合学術院)がリーダーを務める社会保障グループでは、急速な少子化やグローバル化の圧力を背景に、日本社会の雇用関係や社会保障制度がどのように変化するかを解明していく。

 「いずれの課題においても共通なのは、グローバリゼーションという圧力を受けて、政策の変化が要請され、制度の変化が起こり、さらにはより根本的な規範・理念も変容しているという認識です。この共通項を1つの手掛かりとして、そもそも日本型システムとはどんなものであったのかという歴史的検証も踏まえて、何が変わり、何が変わらないのか、各メンバーの有する豊富な研究の蓄積をもとに、新たな学際的方法論を模索しながら斬新な発見につなげていくことを目指しています」(河野教授)

図1 3つのテーマ領域と共通構造の探究

 研究所の研究活動は、政治・経済・社会とそれぞれ異なる学問分野に立脚する3つの研究グループ間の接点を探り、学際性のインターフェイスを明確にすることをつねに意識して進められた。当初は各グループ持ち回りで運営するワークショップを通じて3つの分野の接点を洗い出し、2010年度4月には3領域合同での全体ワークショップが開催されて、連携研究は本格的にスタートした。2010~2011年度を通じて、外部研究資金の確保も順調に進み、学内外や海外の研究者を巻き込んだ共同研究、本格的な世論調査プロジェクトなども軌道にのりはじめた。2011年度からは、研究論文や書籍などの形で成果物が発信され、海外の研究者と連携した国際シンポジウムや国際ワークショップも開催された(写真参照)。

 「予想以上に順調に、異なる分野間の連携や独自の学際的観点を打ち出せてきたのではないかと感じています。例えば、2010年4月の合同ワークショップでは、社会保障グループの報告において、個別の国家・地域の福祉国家の現状だけではなく、一般理論の解説や複数のアジア諸国に関する論点から貴重な示唆を受けましたし、そこではまた対外関係グループのもとで行われている安全保障の問題との接点について議論を深めました。また2011年1月に行った最初の国際シンポジウムでは、21世紀の東アジア安全保障体制に関するセッションで、本学の植木千可子・国際学術院教授(国際政治学・国際関係論)が行った発表に対して、経済学者の中村政男教授(カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学)が討論を行い、北米からの東アジア観と経済学的視点からの斬新な論点が提示されました。」(河野教授)

経済システム研究グループの研究成果がまとめられた、宮島英昭教授の編著『日本の企業統治:その再設計と競争力の回復に向けて』(2011年6月、東洋経済新報社)

各グループ持ち回りで運営する毎月定例のワークショップ風景。専門分野の壁を超えた学際的議論が展開される

国際シンポジウム「21世紀日本の対外関係と国内システム:学際的展望と提言」(2011年1月)
Gregory Jackson教授(ベルリン自由大学)をはじめ、カナダ、英国、ドイツなど国内外から5名の報告者を招聘し、海外の研究者と日本の研究者がペアを組むかたちで3つのセッションを構成。学際的な議論を深める成果がもたらされた。(→詳細内容

「今、起きている事象」とも向き合う

 現代日本社会を考えるうえでは、まさに「いま起きている」事象に対する目線も、もちろん重要となる。理論と実証を深く積み重ねていく学術研究において、現実社会の変化動向をリアルタイムで分析する研究を継続していくことは難しいが、同研究所ではこの間に起きた様々な重要事象――東日本大震災への問題提起(写真参照)、フラッシュモブなど新しいかたちを伴って世界中で生起しているデモや集会などの現象(→社会保障グループリーダー・篠田徹教授の参考記事)などにも、正面から向き合ってきた。

2011年3月11日の東日本大震災に対して、河野教授も2冊の早稲田大学ブックレット(早稲田大学出版部)を通じて、復興政策をめぐる哲学的な問い直し、有識者の政策関与についての問題提起を行っている。
左:『復興政策をめぐる《正》と《善》:震災復興の政治経済学を求めて①』(2012年1月)
右:『《当事者》としていかに危機に向き合うか:震災復興の政治経済学を求めて②』(2012年4月)

 なかでも力を発揮してきたのが、河野教授率いる対外関係グループが主導し、2011年10月から毎月連続で実施している「外交に関する世論調査」である。これは日本人の外交に関する意識や評価とその変化について、多岐にわたる調査項目を通じて継続的に観測していくものである。安全保障や国際関係に焦点を絞った学術的世論調査は、これまでにない日本で初めての試みである。
日本学術振興会科学研究費補助金(「日本人の外交に関する選好形成メカニズムの研究」、研究課題番号:23243030)に基づき実施。

 「例えば、諸外国に対する親しみの感情から、アメリカや中国といった大国や国連などの国際機関が持つ影響力の評価、日本政府の外交姿勢への評価といったものまで、大所高所から様々な項目を組み込んでいます。民主主義の大前提に立ち返って、一般有権者の方々が日本の外交政策について、何を不安に思い、何を実現してほしいと思っているのかを明らかにし、それが外交政策に反映されているのか否かを評価していくことは、非常に不可欠な取り組みだと考えています。そして、われわれは、この調査の社会的価値にかんがみて、研究所のホームページをつかって、調査結果とデータ、そして暫定的な分析レポートを、迅速に公開するということを、これまでずっと続けてきました」(河野教授)

 2012年の8~9月には、尖閣諸島をめぐって衝撃的な事件が起こり、日本と韓国・中国との関係に緊張が走った。河野教授らはすぐさま同調査のオムニバス質問項目にこの問題についての設問を組み入れ、国民感情の短期的な動向を客観的にとらえようとしてきた。その結果、一連の事件を受けて、日本の国民感情はきわめて深刻な変化を起こしていること、民主党政権の外交姿勢にきわめて厳しい目が向けられていることが明らかになっている(図2参照)。(→参考記事

図2 自民党政権および民主党政権の責任

 「竹島・尖閣諸島問題をはじめ、東アジアにおける対日外交姿勢や対日感情が激しく揺れる中、日本の対東アジアの外交や国民感情がどのような構造変化を見せているのかは、最も重要な課題の1つです。今後も引き続き、国民の外交政策に関する意識の変化が、選挙などにどのような影響を与えるのかも含めて、注意深く観察していきます」(河野教授)

 重点領域研究としての現代日本社会システム研究所は、2013年度を最終年度とする5年間の時限で進められている。そのため2012~2013年度は、終了後のさらなる発展へと結びつけていくことを意図した研究活動が推進されるとともに、これまでの研究実績として、国際シンポジウムやワークショップの成果を出版物としてまとめ情報発信していくことが目指されている。

 「私たちの研究成果は、すでにいくつもの世界各国の学会や研究機関で発信しています。私自身に限っても、この2年の間にドイツ、スペイン、カナダ、アメリカの大学で講演させていただきました。またロイター、クリスチャンサイエンスモニター、アメリカのNational Public Radioといった世界を代表する報道機関からも頻繁にインタヴューや取材を受け、そのたびに研究成果に基づいたお話をさせていただいています。今年から来年度にかけても、精力的に研究と研究成果の発信につとめ、すでに強固な連携関係を築いているベルリン自由大学をはじめ、世界の著名な日本研究拠点である様々な研究所とも連携をさらに発展させていきたいと考えています。」(河野教授)

 対外関係、経済システム、社会保障――3つの柱となる領域を統合した「日本社会システム研究」の確立、将来の総合研究拠点の創成へ向けた同研究所の活動には、今後の日本の行方を熟考し、実効的な政策提言を可能にしていくうえで、期待が大きい。

関連リンク

早稲田大学 現代日本社会システム研究所
早稲田大学 高等研究所
早稲田大学 重点領域研究機構
早稲田大学 政治経済学術院
早稲田大学 商学学術院
早稲田大学 社会科学総合学術院