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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

伝統と革新の往還の中で
人文科学の求心的研究拠点を形成

総合人文科学研究センター(RILAS)

 20世紀から21世紀へ――。時代の変容の中で、学術研究・教育もまた時代の波に応じて変容することが要請されてきた。理工学や社会科学と同様、人文科学においても同様である。古典文学や歴史研究は、一見その内容や方法が変容しないように思われがちかもしれないが、新しい研究方法、分析の技術、学際的アプローチ、グローバル化を背景とした国際共同研究など、先端領域はダイナミックに動いている。

 2000年代に入り、早稲田大学の人文科学もまた激動の変化の波に、積極的に自らを呈してきた。その中心拠点である文学部の歴史を振り返ると、1890年、坪内逍遥博士らによって文学科として創設、1920年に文学部、1949年には第一文学部、第二文学部(夜間)の体制を確立、私大文学部のパイオニアとして文学界や演劇界の発展に寄与し、文芸、芸能、美術、マスコミなどの分野で多彩な人材を輩出してきた。そして2007年、この伝統ある第一・第二文学部の体制を抜本的に改革し、人文科学の学際教育を志向する「文化構想学部」と、伝統的な人文学研究の深化を目指す「文学部」という、新たな2学部体制への再編を成し遂げた。

 その一方で、2004年には大学全体の研究組織の再編を意図した「学術院」の体制が導入され、学部・大学院等の教育組織の上部機構として、旧第一文学部・第二文学部はもちろん、他学部に所属していた人文科学系の教員も含めた横断的な教員組織としての「文学学術院」が設置された。いわば人文科学の革新と広がりを志向すると同時に、人文科学という確固とした学術分野としての求心力を強めるという、多元的な改革が進められてきたといえる。

 こうした改革を踏まえて、さらに2012年度、文学学術院の下に新たに設置された研究組織が、「総合人文科学研究センター(RILAS: Research Institute for Letters, Arts and Sciences)」である。人文科学研究のフロンティアを、早稲田大学の人文系研究者が総力を挙げて切り開くための研究活動が行われている。同センターの理念と活動について、所長を務める海老澤 衷(ただし)・文学学術院教授に話を聞いた。

総合人文科学研究センター所長を務める、海老澤 衷・文学学術院教授

多彩なテーマを掲げる12の研究部門

 2000年代の改革の流れの中で、文化構想学部・文学部・大学院文学研究科の3つの組織、さらには坪内逍遥博士記念演劇博物館會津八一記念博物館といった、早稲田大学独自の伝統ある人文科学研究の拠点を統合する役割を果たす、求心的なセンターが必要だという議論がなされるようになった。2010年度の半ば頃から、文学学術院の教授会の下に準備委員会が設置され、海老澤教授が委員長を務め、設置準備が進められた。

 「教員間での横断的な共同研究テーマが、センターの活動の重要な柱となります。準備期間には、教員から研究部門のプロポーザルを募りました。条件は、本学教員が10人以上参加していることです。この10人以上という制約が重要で、個人の機動力だけでは動かない、メンバー間できちんと協議を行っていかないと活動が進まない、そういう組織の規模を意図して設定しました」(海老澤教授)

 教員たちから予想以上のプロポーザルを得て、12の研究部門が採択された(図1)。文学、歴史学、美術・芸術論から、教育学、心理学、社会学まで、多彩な顔ぶれの教員により構成される。これらの研究部門のもと、①大学院教育と連動した若手研究者の育成、②海外からの研究員の受け入れ、講演会やシンポジウムなどの国際的な研究交流の促進、③社会からの要請に応じた受託研究・共同研究の受け入れ、の3つの使命を果たすべく、センターは始動した。

図1 総合人文科学研究センターの活動の柱となる12の研究部門
研究部門の詳細紹介はこちら

 「これらのテーマを眺めれば、きわめて総合性の高い人文科学の研究活動が行われていることが見てとれます。複合的なテーマが多くて、名称がとても長くなってしまっているのですが(笑)、略称を付けなければと言っているところです」(海老澤教授)

 研究部門は、これまでの共同研究の実績を発展的に継承したものが多い。例えば、〈早稲田大学比較文学研究室〉は、長い伝統を持つ比較文学研究室の活動がそのまま研究部門として発展的に引き継がれたものであり、〈前近代東アジア世界における歴史・社会・文化の研究〉は、文部科学省の21世紀COE(Center of Excellence)プログラムに採択(2002-06)された「アジア地域文化エンハンシング研究センター」の活動を継承したものである。また、〈現代社会における危機の解明と共生社会創出に向けた研究〉は、東日本大震災を契機として新たに組織された共同研究である。

ウェブジャーナルで機動的に情報発信

 2012年4月には、センターの設置を記念したキックオフシンポジウム「東日本大震災のいま―地域生活と再生に向けての課題―」を開催。先述した研究部門〈現代社会における危機の解明と共生社会創出に向けた研究〉の代表者で、初代センター長である浦野正樹教授が主導し、被災地に関する現状や研究の報告、パネルディスカッションが行われた。

 さらに2012年12月には、東アジアから20名の招待講演者を迎えて、「第4回東アジア人文学フォーラム:危機と再生―グローバリズム・災害・伝統文化―」を2日にわたって開催。これは2009年から人文科学分野での学術交流協定を結んでいる、早稲田大学、漢陽大学(韓国)、南開大学(中国)、国立台湾大学(台湾)、清華大学(中国)の5校が、持ち回りで開催している国際シンポジウムである。第4回は、東日本大震災の経験を踏まえて、各国・各地域が抱える災害や伝統文化の危機をテーマに研究報告、セッション等が行われた。

写真左:キックオフシンポジウム(2012年4月14日)
写真中・右:第4回東アジア人文学フォーラム(2012年12月8、9日)

 「設立から1年を経て、各研究部門の活動も起動に乗りはじめ、ようやくセンターとしてのかたちが整ってきました。2013年度からがいよいよ本格的なスタートだと思っています。国際シンポジウムも毎年開催していきます。次回は、研究部門〈東アジアの人文知〉の代表、千野(せんの)拓政教授が主導して、2013年12月に“越境する文学:危機の中の可能性-村上春樹を手がかりに-”というテーマで実施する予定です」(海老澤教授)

 センターが発行するオンライン論文誌『WASEDA RILAS JOURNAL』の準備も進められている。紙媒体を持たない純粋なデジタル版のみの論文誌は、人文科学の分野ではまだ珍しく思い切った試みだが、オンラインで機動的に情報発信していくことがねらいである。

 さらには、2014年9月竣工予定の33号館低層棟の中に、2フロアを占めるセンターの施設が完成予定である。センター直属の教員やポスドク研究員のための研究室はもちろん、学外・海外からの訪問研究員のための研究室や、専用の会議室、事務室などが設置される。

 「シニアコモンルームと銘打った、教員や訪問研究員が談話するための専用のスペースも設ける予定です。従来のプリンシプルにとらわれない、広領域的に研究者が交流を深める社交の場です」(海老澤教授)

 こうした立派な専用スペースが確保され、運営体制が整うにつれて、センター独自の研究資金の確保なども進んでいくことが見込まれている。時代と社会の変容に呼応し、伝統と革新の往還に挑戦する、総合人文科学研究センターの今後の展開が期待される――。

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