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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

多彩な研究領域からの精鋭が
材料技術の新たな伝統を紡ぎ出す

各務記念材料技術研究所

 1938(昭和13)年――当時の最先端ハイテク分野であった鋳造技術を専門とする「鋳物研究所」が、早稲田大学に設立された。日本の産業技術を欧米並みに育て、国力を伸ばしていくうえで、鋳造技術の研究拠点を築くことが産業界から切望されており、早稲田大学の教授陣にも各方面から働きかけがあった。当時、材料研究では、東北大学の金属材料研究所が圧倒的な存在感を放っており、私立大学がこれと同等の研究拠点を目指すことは、困難の多い取り組みだと思われていた。

 実業界の重鎮であった各務幸一郎と良幸父子からの30万円の寄付を受けて、新宿区西早稲田に研究所建屋を竣工、住友金属工業、小松製作所など多くの企業からの寄付金や、大学の自前資金により、鋳造実習のためのキュポラ(溶銑炉)をはじめ、研究設備や物品も整えられた。かくして私立大学初の附置研究所として、早稲田大学鋳物研究所は、「背水の陣を覚悟して」(当時の田中穂積総長の開所式挨拶より)、研究所発足にこぎつけた。米国の学術専門誌にも写真入りで紹介されるなど、内外から注目を集めた。以来長年にわたり、日本の経済成長を支えるものづくり産業の基盤となる技術を牽引し、多くの人材を育て、材料研究の拠点としての地位を確立してきた。

左:研究所建屋は1938年から現在も変わらない/右:開所時のキュポラ火入れ式

 そして1988(昭和63)年には、設立50周年の節目を迎え、各務記念材料技術研究所(通称:材研)と改称し、設立当時の理念であった「最先端材料技術を先駆ける」という精神を発展的に継承し、次世代へ向けた研究領域の再編に取り組んできた。75年の伝統を紡いできた同研究所の「今」について、第21代所長を務める黒田一幸・理工学術院教授に話を聞いた。

所長を務める黒田一幸・理工学術院教授

電子材料を中核に多彩な領域へ展開

 現在、材研には、ベテランから若手まで、早稲田を代表する16名ほどの研究者が在籍しており(→研究員紹介)、その専門領域は、電子材料、材料化学、表面物理、環境材料など、じつに様々である。もちろん伝統分野である鋳造技術の専門家もいる。

 「50周年を迎えるにあたって、新しい時代の材料研究の拠点への変革が目指され、従来の鋳造・金属材料のみならず、電子材料を中核として多様な研究者が参加するようになりました。理工学部で、機械、化学、電気、電子、ロボット、環境、健康・医療など、様々な専攻が発展してきた中で、常に材料研究はそれらを横断する基盤的な研究としての役割を果たしてきました」(黒田教授)

図1 多辺教授の研究例:キラルな棒状分子でできたスメクチックC液晶単分子膜の模式図

 研究員は、学内から選りすぐったメンバーで構成される。一定の採用枠ができると学内公募がかけられ、先端的な研究テーマに取り組んでいることはもちろん、研究論文、受賞歴、外部資金獲得、共同研究、国際研究、産学連携、社会貢献など、あらゆる側面から実績を審査したうえで選考する。

図2 左:大島研究室で測定されたフォノンのエネルギー分散曲線(赤点:グラファイト、青点:グラフェン、実線:理論曲線)/右:大島研究室で発見されたグラフェンに類似の新たな材料BCの結晶構造の模式図

 「いずれの研究員も、ユニークな研究で専門領域をきわめています。例えば、多辺由佳教授は、ソフトマターと呼ばれる固体と液体の中間のような、文字通り“やわらかい物質”の物性を研究しています。金属材料とはまったく対照的な、高分子や有機物質を取り扱う研究領域です」(黒田教授)

 ノーベル賞を受賞しても不思議ではないような、国際的に高く評価される業績を有する研究者もいる。2010年のノーベル物理学賞は、グラフェンの先駆的研究者としてマンチェスター大学のアンドレ・ガイムとコンスタンチン・ノヴォセロフに授与されたが、受賞者たちより10年以上も前から同研究に取り組んで来たのが、材研の大島忠平教授である。大島教授は世界に先駆けて、1原子層のグラフェンの格子振動エネルギーを精密に求めるフォノン分散曲線を計測しており、その論文は世界中で引用される基礎文献となっている。

 「同時受賞しても決しておかしくはなかったと言われています。大島教授が素晴らしいのは、重要な計測装置を自分自身で独自に開発してしまうことです。だからこそ、世界に先駆ける実績、20年経ってもなお引用され続ける基礎的成果が出せるのです」(黒田教授)

図3 新型低圧鋳造法で試作したアルミニウム合金製二輪スーパースポーツフレーム。薄肉中空構造とすることで50%以上の軽量化を達成した。産学連携による共同研究(日産自動車・ヤマハ発動機・コイワイ・産総研・岐阜大学)の成果である。

 理学的な物性研究の一方、工学的なアプローチで鋳造技術の最先端を追求している研究者もいる。吉田誠教授は、自動車部品などに必要とされる新しい鋳造や溶接の加工プロセスを研究している。走行性能はもちろん、軽量化、省エネ、環境負荷削減、ハイブリッド車や電気自動車のための新しい部品など、技術革新への要請は止めどない。メーカー各社との、あるいは複数のメーカーとのコンソーシアムを組んでの産学連携研究により、最先端技術の開発を推進している。

 材研には、常に最先端の実験研究設備が整っています。研究員としてのステイタスはもちろん、充実した研究環境の下でプロジェクトを推進できるということが、教員にとって高いモチベーションになっていると思います」(黒田教授)

図4 材研の共同利用設備として、最先端の分析機器や試験機が管理・運営されている。

研究拠点としての国際的地位向上へ

 鋳物研究所から総合的な材料技術研究所へと大胆な変革に挑戦する中で、多彩な研究を組織力へと結実させ、研究拠点としての国際的地位を築いていくことが、今後の課題となる。兼任研究員が多い体制の中で、求心的な研究開発を組織化していくのは一筋縄ではない。

 「産学連携研究、国際連携研究についても、さらにスケールの大きな展開を目指していかなければならないでしょう。研究組織としての外部資金獲得などの戦略的マネジメントや、産業界とのパートナーシップ構築にも力を入れていく必要がありますし、ニュースレターの発行をはじめ、研究活動のアウトリーチにも積極的に取り組んでいます」(黒田教授)

 来るべき100周年へ向けて、21世紀の材料技術の拠点としての、新しい伝統の創造に期待が大きい。

2008年9月の70周年記念式典オープンセミナー風景

毎年12月に行われる「ふいご祭り」。神様に火を納め、1年間の安全と研究の発展を祈願する

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