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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

スポーツ×ロボット×生命科学の融合で
超高齢社会を健康長寿社会へ

アクティヴ・エイジング研究所

 日本の高齢化は世界一のスピードで進み、いまや65歳以上の高齢者が人口の24%を超え、世界で真っ先に超高齢社会に突入している。先進国はもちろん、いずれ途上国や新興国の社会が成熟化を見ていくなかで、高齢化は避けられない現象とされる。若い世代が老いた世代を支えるという世代間扶助の構造は崩れ、高齢者がより自律的で活力ある生活を送れる社会の確立が必要とされる。

 超高齢社会の基盤となるのは、何はさておき「健康長寿」である。高齢者が健康に長生きし、かつ楽しく、できるだけ自分で動き回ることができれば、社会の負担が減るばかりではなく、高齢者自身の生活の質=クオリティオブライフも向上し、人生がより生き生きと豊かなものとなる。豊かな社会経験や技能・知識を有する高齢者にパワーがあれば、社会もいっそう元気になる。最近では、こうした元気な高齢者を「アクティヴ・シニア」と呼び、この層をターゲットにしたファッション、旅行、教育など、様々な商品やサービスの市場も形成されつつある。

 しかし「言うは易し、行うは難し」――超高齢社会と健康長寿社会を両立させるのは、並大抵ではない。アクティヴ・シニアの中心層は、以前は50~60歳代中心だったが、高齢化の進展とともに、70~80歳代の層もその射程に入れて考える必要が出てきた。人間、老いれば身体機能が落ちるという摂理には逆らえない。その摂理の限界に迫る(あるいは超える)には、様々な分野領域の知恵を集めてかかる必要がある。

 こうした難しい課題に、早稲田大学らしい学際融合研究で挑戦しようという研究拠点、アクティヴ・エイジング研究所が2013年6月に重点領域研究機構の研究拠点の1つとしてスタートした。所長を務める樋口満・スポーツ科学学術院教授に話を聞いた。

アクティヴ・エイジング研究所所長を務める樋口満・スポーツ科学学術院教授

超高齢社会のパラダイムシフト

アクティヴ・ライフを創出するスポーツ科学」拠点主催による国際シンポジウム「The 9th International Sport Sciences Symposium on "Active Life"」(2013年11月30、12月1日)

 早稲田大学が掲げる重点領域研究の1つとして、2013年度に新しく「超高齢社会におけるパラダイムシフト」というテーマ領域が創成されるにあたり、その先駆けとしての役割を果たすために設置されたのが、アクティヴ・エイジング研究所である。人類にとって未知の超高齢社会には、これまでとまったく異なる世界観や思考・行動様式への変革が必要とされるが、その中でも特に、健康と運動という角度からアクティヴ・エイジングへのパラダイムシフトを目指した研究開発拠点である。

 本研究所に先立つものとして、スポーツ科学学術院では文部科学省グローバルCOEプログラムの採択拠点「アクティヴ・ライフを創出するスポーツ科学」(2009~2013)が推進されてきたが、こちらは高齢者だけではなく、子どもから成人、高齢者まで、幅広い年齢層を対象にした研究を行ってきた。今回の研究では、特に高齢者の部分(図1の②③)にターゲットを置いたものとなるのが特徴的である。

図1 年齢とともに身体機能は衰えるが、そのギャップを底上げし、アクティヴな高齢者を増やすことが超高齢社会の課題である

 「スポーツ科学学術院のグローバルCOEプログラムの取り組みは、学際・複合領域における全採択拠点の中でも最高評価をいただいています。その知見もベースとしながら、今回はターゲットを高齢者に絞り込みました。スポーツ科学、ロボット工学、生命理工学という、本学の特徴的な3分野を融合させながら、人間を研究対象にアクティヴ・エイジングの先端的研究を確立しようというのが、今回の重点領域研究のねらいです。そのため、人間を対象とする研究に経験と知見の蓄積があるスポーツ科学の我々が、プロジェクト全体を主導しています」(樋口教授)

 図2に示したように、本研究所は、スポーツ科学(Sグループ)、ロボット工学(Rグループ)、生命理工学(先端生命医科学センター:TWinsの頭文字からTグループ)の3つのグループから構成される。Rグループ・Tグループは、これまで文部科学省21世紀COEプログラム「超高齢社会における人とロボット技術の共生」(2003~2008)をはじめとし、スーパーCOEプログラム(2004~2009)採択拠点の先端科学・健康医療融合研究機構(ASMeW)、グローバルCOEプログラム(2008~2013)採択拠点「グローバルロボットアカデミア」、さらに最先端・次世代研究開発支援(NEXT)プログラムに採択された岩田浩康准教授研究課題(2011~2014)などを通して、超高齢社会に向けた健康医療RT(ロボットテクノロジー)の研究を推進している。

図2 アクティヴ・エイジング研究所 3つの研究領域の融合

 最終的にはSグループ・Rグループ・Tグループの3領域の融合が目指されるが、まずは2つの領域同士の融合研究をベースにスタートしていく計画である。例えば、スポーツ科学とロボット工学との連携により新たな運動機器の開発や、それを用いた高齢者の健康効果を評価する。また、生命理工学で開発されたセンサーなどを、スポーツ科学の研究フィールドで、人に応用した研究へ発展させるといった具合である。

 

 ロボット工学が中心となる研究では、「アクティヴ・シニアのためのセルフメディケーション」を掲げて、基礎理論の確立から支援機器の開発まで一貫して取り組む(図3)。生命理工学が中心となる研究では、ロボット工学との共同により機能性蛍光プローブや導電性高分子を用いたナノシートを開発し、生体情報をモニターするシステムを構築する。この機能性ナノシート(図4)の研究にあたっては、生命理工学ではin vitro、in vivoの評価実験を行い、スポーツ科学と共同で人を対象とした実証研究を行っていく。また生命理工学では時間栄養学という、時間軸の健康科学や生活習慣病・がん予防の生命科学による基礎的、応用的研究を行ってきており、スポーツ科学との共同により、さらに高齢者の健康効果についての実証研究を行っていく。

図3 ロボット工学の知見を積極的なアクティヴ・シニアづくりのための健康機器や支援装置などへ応用していく

図4 皮膚に貼付できるナノシートを用いた低侵襲生体情報モニタリングシステムの開発

ユニークな研究成果を世界へ発信

 アクティヴ・エイジング研究所の取り組みのなかでもユニークな構想が、スポーツ科学が主導して組織する、“WASEDA's Health Study”というプロジェクトである。早稲田大学の卒業生(校友会)を対象に、中高年男女の健康・体力に及ぼすライフスタイルの影響を,遺伝子多型、若年期・成人期におけるスポーツ経験と現在の健康リスク、体力指標(心肺体力、筋力など)と関連させ、横断的に検証していくものである。有名なものとして、ハーバード大学では、“Harvard Alumni Health Study”という、卒業生を対象にした大規模な追跡調査を、1960年代から行ってきているが、早稲田大学でも同様の取り組みを始めようという試みである。

ローイング機器を用いた最大酸素摂取量(心肺体力)の測定風景(所沢キャンパス)

 「例えば、学生時代にスポーツをやっていた人は、健康長寿なのかどうか、働き盛りなときに運動をしていた人、していない人の違い、食生活との関連など、様々なライフスタイルと健康長寿との関連を、長期にわたって大規模に研究していきたいと考えています。もちろん我々の研究に協力していただくだけでなく、校友の皆さんの健康長寿にも貢献していくことが目標です。そして2032年の本学150周年には、その成果を大々的に発表できるのが理想です」(樋口教授)

 すでに早稲田大学校友会への交渉を行い、2014年3月には正式にキックオフすることが決まっている。インターネットで大規模に卒業生の参加を呼びかけ、当初は2万人を対象として健康に関するアンケート調査をし、そのなかの5千人の方々には歩数計を付けてもらうなどの実験協力や、一部の方には研究拠点での運動実験や測定・評価などに参加してもらう計画である。また、スポーツ科学の拠点である所沢キャンパス周辺のシニアの方々との協力関係は、これまでの研究活動を通じてすでに構築している。

 「このような領域横断でアクティヴ・エイジングに取り組む研究拠点は、世界でほかにないと思います。さらにいえば、医学部を持たない大学で、このような健康づくりを目指した研究拠点が形成される例も珍しいでしょう。世界でも早稲田にしかできない研究成果を、超高齢社会を先導する日本から発信していきたいと考えています」(樋口教授)

 卒業生との連携、地域との連携、そしてスポーツ選手を含む在学生との連携を柱に、長期的かつ幅広く横断的なコホート研究の成果には期待が大きい。

関連リンク

早稲田大学 アクティヴ・エイジング研究所
早稲田大学 重点領域研究機構
早稲田大学 スポーツ科学学術院
早稲田大学 理工学術院
早稲田大学 先端生命医科学センター(TWIns)