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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

変容する高校、求められる教員像
ーー進路多様校の実態調査を通じて

教育総合研究所 一般研究部会 「進路多様校における教育課題」

 高校進学率が98%を超えた現在、高校の多様化も一気に進んでいる。単位制の導入や、総合学科の設置、中等教育学校など新しいタイプの高校も設置された。また、少子化の影響で高校の統廃合も進められている。一方で、卒業生の進路にも変化が見られ、就職を主たる進路先としていた職業高校においても、大学進学が目指されるようになっている。同時に、高卒の就職状況がきわめて厳しいことから、非正規雇用やフリーター、無業者も増加している。

 こうした状況を背景に、進学一辺倒でない高校――卒業後の進路が、大学、専門学校、就職、アルバイト、フリーターなどいわゆる、「進路多様校」の実態を、いくつもの現場に足を運んでつぶさに調べ、高校教員の役割を考えようとしているプロジェクトがある。早稲田大学教職大学院のチームによる調査研究プロジェクト「進路多様校における教育課題 〜高校改革を成功させる内部要件〜」の研究代表を務める、油布(ゆふ)佐和子 教育・総合科学学術院教授(大学院教職研究科)に、調査から見えてきた課題を聞いた。

研究代表を務める油布佐和子教授

進学校を中心とした教育システム

 調査研究プロジェクトは、早稲田大学教育総合研究所の学内研究資金の助成を受けて2011年度にスタートした前回の研究を含め、現在3年目を経過したところである。教職大学院の4人の教員がチームを組んで調査に取り組んできた。

 「少し古いですが、高校の全体構造を示した図があります(図1)。高校入試難易度による高校構造と、大学入試難易度との対応関係を示したものです。教職に就く人のほとんどが、上位の進学校で教育を受け、大学に進学し、進学校をモデルとした授業を受けて、教育実習でも出身校である上位校へ行く――すなわち、進学校を“一般的”と思う経験の中で過ごしてきています。けれども、図に見るように、進学と就職がともにある高校、また進学と言っても大学ばかりではなく、専門学校等への進学が多い学校、フリーターや無業者を多く輩出する学校というように、多様な高校が存在しており、むしろそうした高校の方が進学校よりは多い状況にあります。教員養成に携わっている中で、世の中には進学校しかないという世界観でずっときている学生が、教職に就いて進路多様校に赴任になったときに初めて、それ以外の世界があることを知ってカルチャーショックを受け、その実態にうまく対応できない状況を見てきました。この状況をなんとかしなければという思いで、プロジェクトを立ち上げました」

図1 高校の全体構造(福本真也氏提供)

進路多様校における課題

 これまで、先行研究にあたるとともに、三部制の定時制高校、総合学科、進路多様校などの現状と教育課題についてインタビュー調査を実施してきた。いずれにおいても、進路指導・生徒指導担当教員が、非常に苦労している様子が示された(その成果の1つは早稲田教育ブックレットにまとめられている:写真)。

 教職員大学院の学生が、進路多様校での実習体験を綴った『早稲田教育ブックレット 9 高校の多様化と教員養成』(早稲田大学教育総合研究所監修、学文社、2013年3月)

   

 「経済力さえあればいずれかの大学に入れる大学全入時代になりました。一部の進学校を除けば、以前の普通科・職業科の枠は崩れ、また、専門学校や各種学校への進学が多い普通科や、学習意欲や進路が一人一人異なる総合学科などが現れています。一方で、高卒者のおよそ半数を占める就職希望者は、非正規雇用や無業者となり、転々とする場合も少なくありません。先行研究では、高卒で非正規用や無業者が多いのは、労働市場の変化はもとより、高校における進路の水路づけ機能の低下が原因として挙げられています」

 教員養成の現状を見ると、旧態依然として、「国語」「社会」「理科」といった教科別の専門に分かれている。そのこともあり、教科の専門性を高め、偏差値や進学率を上げることが教師のモチベーションとなっている。しかしながら、進学校ではない多数を占める学校では、教師のこうした専門的な知的能力だけでは指導できない課題が増えている。

 「例えば、〈産業社会と人間〉という授業科目が、すべての総合学科に導入されました。“産業社会における自己の在り方生き方について考えさせ、社会に積極的に寄与し生涯にわたって学習に取り組む意欲や態度を養うこと”と、“生徒の主体的な各教科・科目の選択に資すること”が、この授業科目が導入された目的です。〈総合的な学習〉でも同じでしたが、先に述べたように、アカデミックな教科の内容や指導法に特化して養成されている現状では、これを担当できる教員がいないのです。進路多様校においては、進路指導も生徒たちひとりひとりを見据えて、柔軟で幅広い対応をしなければなりません。中途退学する生徒も多い中で、進学か就職かといったステレオタイプな指導では対応できないのです」

図2 高校教育の制度的変遷と現状

学校間比較による検討

 進路多様校における特徴的な調査事例から、現在の高校で求められる教員の役割とその養成のモデルを見いだすべく、これまで複数の学校を訪ねてきた。比較の中で、こうした状況に教師がうまく対応できる要件を探るためである。比較検討した高校の1校はA県の総合学科であり、いま1校はB県の普通科、薬業科、商業科、海洋科の4学科からなる小規模な高校である。

 「A校の進路実績は、2/3が進学、1/3が就職なのですが、県内に企業が少ないことから就職指導は難しい。また、進学した生徒たちも、産業がないので地元に戻ってくることは難しいということです。インタビューした先生は、“就職したくても希望職種が近くにあるわけではなく、一方で、大学受験の指導をした結果、生徒はどんどんと地域を離れ、結果として、地域がさらに活力がなくなっていくという悪循環があるような気がする”と悩みを話されていました」

B校の掲示板に張り出されたサクラマス養殖の取り組みの新聞記事

 これに対して、B校の存在する地域は、地場産業に恵まれている。各科それぞれの課題はあるが、教員が一丸となり創意工夫して解決に取り組んでいる。専門学科では歴史もあり、教員は地元企業の方々と密接なパイプを持ち、進路指導や就職支援が自分たちの重要な仕事であるという強い使命感を持って動いている。生徒数が少ないため、隣の上級生の教室をのぞけば来年の自分がわかる―そんな環境がある。

 「B校では、いずれの学科も社会とのつながりを意識し、“地域のために働く”という将来像を持たせ、“自分たちで何ができるか”を生徒たちみずからに考えさせる授業を実現させています。教員の方々のあいだで問題意識の共有がなされていて、チームで動いていることにも感心させられました。授業も工夫されていて、薬業科は製造現場で即戦力となるような実習が行われたり、商業科では商店街活性化のアイデアを皆で出し合ったり、東京にあるアンテナショップで販売や流通を体験的に学ぶといった、現場実践型の授業が導入されています。また、あらたに統廃合されてできた海洋科では、“獲る漁業から育てる漁業へ”という時代の変化を反映して、沿岸での養殖や食品加工に対応する教育を取り入れていました。最近では、サクラマスの養殖実験に取り組んで、市内の小学校の給食に出すなど、モチベーションを維持し高めていける教育に取り組み始めたところです。教師の方々自身が、社会の変化を踏まえてカリキュラムを構想しているのです」

 
大きなギャップをどう埋めるか

 教員たちが時代の変化を踏まえて、生徒の進路指導に取り組んでいる。その背景には、地場と密接に結びつきながら培われてきた学校の風土があり、歴史の節目節目で学校が直面してきた時代と環境の変化に対する経験的蓄積がある。職業科では当たり前に取り組まれてきたことだが、社会と学校のつながりを考えることは、今の時代に求められている教員像の原点なのだろう。

 「そういう意味で深刻なのは、地方ではなく東京の学校かもしれません。地域社会との関係性が薄く、生徒たちが地域社会との現実的なつながりや、産業・職場の実態を感じる機会がきわめて少ない。時代や環境と向き合って生徒に必要されるものを真剣に考える――そういう行動に教員を駆り立てるモチベーションやインセンティブも不足しています」

 学校の現実と、教員養成の現実――埋めなければならないギャップは大きい。プロジェクトはまだ緒に就いたばかりだ。今後も続く調査の中から、進路多様化時代に必要とされる教員モデルと、それに基づいた教員養成システムの改革プランが豊かに引き出されていくことに、期待が大きい。

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