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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

情報・エネルギー・サービスの融合で
社会をスマートに変革する

スマート社会技術融合研究機構

 来るべき開学150周年へ向けた将来構想「ビジョン150」のもと、早稲田大学は国際的にその存在を認められる「研究の早稲田」の確立を目指し、8つの研究機構をトップダウンで設置するとともに、総合大学の強みを活かした融合研究による新領域創成を目標に掲げて、学内公募の競争的プログラムを推進してきた。2009年度から順次選定されてきた重点領域研究は、24課題(プロジェクト研究所)に上る。2014年7月、これらのプロジェクト研究所から唯一選ばれた先進グリッド技術研究所を母体として、ボトムアップ型では第1号となる9つめの研究機構「スマート社会技術融合研究機構」(ACROSS: Advanced Collaborative Research Organization for Smart Society)が発足した。

 スマートシティやスマートコミュニティといわれる、ITを基軸に先端的技術を集結して未来型の社会システムを追求する様々なプロジェクトが、世界中で盛んに進められている。先進グリッド技術研究所では、その中でも電力エネルギー分野に特化したスマート化――いわゆるスマートグリッドの研究開発に取り組んできた。東日本大震災を契機に、日本でも電力自由化への流れが加速している。同研究所の取り組みは研究に留まることなく、産・学・官が一体となって、日本の電力エネルギー供給体制をあるべき方向へと改革を推進していくことを目指した、スケールの大きいものである。

 今回の研究機構への発展的昇格は、同研究所の研究力はもちろん、この分野での早稲田大学の社会的リーダーシップを揺るぎないものにしてきたことが高く評価されたものだ。学際的な融合研究をさらに大きなスケールで推進していこうとする取り組みについて、先進グリッド技術研究所の所長を務め、スマート社会技術融合研究機構の初代機構長に着任した、林泰弘・理工学術院教授に話を聞いた。

スマート社会技術融合研究機構・機構長を務める林泰弘教授

スマート社会技術融合研究機構 発足式・記念講演会(2014年7月4日:早稲田大学 井深大記念ホールにて)

5つの活動分野、7つの研究所

 ビッグデータという最近流行の言葉に象徴されるように、ICT(情報通信技術)の飛躍的な発展は、社会に偏在する大量のデータやシステムを「スマートに(賢く)」統合し、様々な新しいサービスとして利活用することを可能にしている。スマート化技術とは、人々を取り巻く生活、ビジネス、産業、教育、福祉などのあらゆる領域にわたり、社会システム/社会インフラを、より効率的・効果的なものへと変革していく基幹技術である。

 新たな研究機構の下には7つのプロジェクト研究所が設置されており、互いの活動を融合して5つのドメイン(活動分野)に落とし込みながら、様々な共同研究が展開されている(図1)。理工学から建築、医療、交通、情報など多分野にわたる教員に加え、経済学から経済分析や産業連関などを専門とする教員も参加している。各プロジェクト研究所を率いるリーダーの多くは、林教授を研究代表とするCREST(科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「協調エネルギー管理システム実現手法の創出とその汎用的な実証および評価の基盤体系構築」2012〜2016年度予定)のプロジェクトで、すでに研究活動を共にしている。

 「専門分野での研究に慣れてきた研究者にとって、こういう多分野連携のプロジェクトを推進するのはそう簡単なことではないのですが、本機構のリーダーたちはいずれも以前から、スマート社会への変革へ向けて“次世代の社会システムを創出する”という志を共に、共同研究を推進してきた同志でもあり、“7人の侍”などと冗談交じりで言ったりもしています。40代を中心とする若手リーダーが集っていることも特徴的です」(林教授)

図1 スマート社会技術融合研究機構 5つのドメインと7つのプロジェクト研究所

 5つのドメインは、「スマートフード」「スマートモビリティ」「スマートヘルスサポート」「スマートハウス・マンション・ビル」「スマートグリッド」から構成される。スマートフードでは、次世代給食センターや植物工場のEMS(エネルギーマネジメントシステム)の研究、スマートモビリティでは、次世代自動車やその環境調和性の研究、スマートヘルスサポートでは快適な住環境と睡眠の質に関する研究、スマートハウスではエネルギーゼロ住宅の実験や居住者の快適性・健康性とエネルギーを結ぶインターフェイスの研究などに取り組んでいる。そしてスマートグリッドでは、スマート社会技術研究のまさに本丸となる分散協調型電力ネットワークや太陽光発電システム、風力発電システムの研究などを推進している。もちろんEMSも、次世代社会システムの1つの基盤システムとしてどの研究領域にもかかわってくる。

 「衣・食・住ならぬ、移動・食・住を、現代生活の3つの柱と捉えてドメインを構成しています。これらの生活領域を融合しながら、日本が従来弱いと言われてきた“サービス”のイノベーションを目指しています。スマートシティというと、とかくエネルギーが注目を集めがちですが、まちづくり・都市づくり、生活サービスのインフラといった、より大きな構想を追求ながら、その基盤を支えるエネルギーシステムと連携させていく、そういう構想を描いています」(林教授)

図2 田辺教授らが提案するエネルギーゼロ住宅「Nobi-Nobi House~重ね着するすまい」
写真右は、経済産業省主催のエネマネハウス2014に展示されたモデルハウス

図3 紙屋教授らが推進する次世代自動車(左:電動自動車WEB-4、右:燃料電池自動車)

産学連携=融合による社会変革へ

 スマート社会技術融合研究機構では、産学連携を通じて融合研究を展開していくことを基本方針に据えている。最大の特徴は「スマート社会技術推進協議会」「スマート社会技術研究会」という共同研究のプラットフォームとなる産学連携組織を立ち上げ、広く様々な業界からリーディングカンパニーを中心に多数の企業が連携企業として参画していることだ。

 「社会技術という名称を掲げて研究をしているのですから、論文のためだけの研究をやっていてもいけないと思っています。最先端の研究開発、実証実験を実用化へ、社会システムの実装へと結びつけていきたい。そのためには、産業界はもとより、関係各省庁のキーパーソンらとも議論を重ね、政策形成への提言と実践の領域へも踏み込んでいきます」(林教授)

スマート社会像検討ワーキング 第1回会合(2014/8/1)。電力会社をはじめ各業界企業のキーパーソンが車座になりワークショップを行った

 林教授らは、先進グリッド技術研究所の活動を通じて、すでに日本の電力自由化とスマートグリッド化を推進するうえでなくてはならない先進的なエネルギーシミュレーションのための設備導入や実証実験を行い、産業界との連携による新しい事業やサービスの構想、政府への政策提言への積極的な展開を行ってきている。

 例えば、スマートグリッドのプロジェクトでは、「デマンドレスポンス」「ネガワット」などと呼ばれる、電力の高需要時にユーザが取る節電行動に対して報酬を支払うシステムの実証実験を、経済産業省の助成を受けて始めている。手動でスイッチをON-OFFにするような節電行動に訴えるだけでなく、エアコンの温度制御など自動的に行われる節電も含めて、デマンドレスポンスのシステムをEMS新宿実証センターに構築し、実際に報酬を支払うところまで含めた実証実験へも参画している。

 「2016年には、電力小売事業の完全自由化が実現し、消費者だれもが自分の好きなところから自由に電力を買えるようになります。電力小売業にはすでに350の業者が登録していますが、さらに多様な業界からの参入が進むでしょう。電力自由化による新ビジネスの本質は、他の様々なサービスとの連携から生まれる新しい付加価値にあります」(林教授)

 例えば、携帯電話の事業者が参入してきて、携帯電話料金との抱き合わせで電力を売るなどということも始まるだろう。ネガワットのように“節電”という新しい交換価値が流通し、暮らしの節電ポイントがお買い物クーポン券になるなど、エネルギーを媒介とする新しい市場が創出されることになるのだ。こうした話はもう机上の議論ではない。あと数年で、情報×エネルギー×サービスの融合によるまったく新しいビジネスモデルが登場し、新たな社会システムの導入による社会変革が進むことになる。スマート社会技術融合研究機構の先進的な取り組みに期待が大きい――。

左:スマート社会技術について、内外の最新動向の情報提供を行うACROSSセミナーを定期的に開催。第1回は米国の専門機関、EPRI(Energy Power Research Institute)からゲスト講師を招いて「最新の日米エネルギー制御事情から考えるスマート社会」を開催した。(2014/9/26)

右:「第2回 日経スマートシティシンポジウムat 早稲田大学」(2014/10/10)

関連リンク

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