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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

日本の自動車産業の優位を築く
競争前共同研究のリーダー拠点として

次世代自動車研究機構

 2014年4月、国内自動車メーカー8社による「自動車用内燃機関技術研究組合(AICE=アイス)」という、これまでにないオールジャパン体制での本格的な共同研究コンソーシアムが発足した。同時に経済産業省とAICEのマッチング資金によるクリーンディーゼルエンジン技術の高度化に関する研究開発という産学連携共同研究事業もスタートした。また2014年10月には、内閣府の主導で日本の産業技術の競争優位を築こうという「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が立ち上がり、革新的燃焼技術が10の研究テーマの1つとして掲げられ、こちらも自動車産業の競争優位をオールジャパン体制での研究開発事業がスタートした。

 こうした国家レベルの大型プロジェクトを牽引していくうえでは、研究リーダー役として、大学や公的研究機関の存在が重要になる。早稲田大学も、上述のAICEとSIPの両プロジェクトにおいて拠点校の1つに選定され、プロジェクト全体のコーディネートを担うことになった。AICEのクリーンディーゼル事業は年間7億5千万円、SIPの革新的内燃技術(早稲田大学は損失低減チームを担当)では年間2~4億円という、通常の大型プロジェクトを1桁、2桁も上回る共同研究予算を采配することになる。

 こうした国の動向と社会的要請の中で、早稲田大学では「次世代自動車研究機構(nextGV)」を2014年10月に創設、盤石な拠点体制が固められた。その活動と展望について、機構長を務める大聖(だいしょう)泰弘・理工学術院教授に話を聞いた。

次世代自動車研究機構 機構長を務める、大聖泰弘 理工学術院教授

2つの大型国家プロジェクトを受託

 最初になぜ今、オールジャパンの自動車業界挙げてのコンソーシアムなのかを、理解しておかなければならない。自動車社会、自動車技術は大きな変容期を迎えている。環境・エネルギーへの負荷低減、燃費・エンジン効率の向上、超高齢社会に適した新たな交通手段や交通システムの確保まで、世界共通の大きな課題の解決へ向けて、世界各国がしのぎを削っている。電気や水素などのクリーンエネルギーはもちろん、自動運転などの革新的技術もめまぐるしく登場し、実用化へ向けて開発が進んでいる。もちろん日本もまた世界最先端での競争を繰り広げている。ここで1つの問題となるのが、次世代技術やシステムをめぐる国際競争において、日本がいかに優位な開発体制を取っていけるかという点である。

早稲田大学の新たな2つのフラッグシップ研究拠点である、次世代自動車研究機構、スマート社会技術融合研究機構は、オールジャパン+オール早稲田の大型産学連携プロジェクトを次々と展開している。写真は、日経新聞(2014年11月4日朝刊)に出した両機構の決意表明の全面広告。

 「世界各国のライバルの間で、日本のメーカーや大学・研究機関が次世代技術で競争優位を取っていくには、競争だけではなく、じつは協調という戦略も重要になってきます。新技術の基礎的・基盤的段階においては、類似の研究に多くの組織が重複して取り組み、そのうちのどれかがスタンダードになると、その他大勢の技術成果は日の目を見ることなくお蔵入りになる。その間に投じた労力やコストもすべて無駄になってしまいます」(大聖教授)

 こうした非効率な作業を避け、次世代の基本技術の開発をできるだけ迅速かつ効果的に開発するために、国単位などでプレイヤーが協調して共同開発を進めていくことを、専門用語で「競争前共同研究(pre-competitive research collaboration)」という。例えば、かつて日本でも国家戦略として半導体の国産化を目指して「超LSI技術研究組合」を組織し、優位な技術で世界市場への進出に成功し「日の丸半導体」などとも呼ばれた時代があった。世界からは組合方式への批判もあったものの、結果的には欧米の半導体業界も似たような戦略で追随した。一方、日本の自動車業界では伝統的に各社が独立独歩で技術開発を行い、競争はあるけれど協調はないという状況が長く続いてきた。ところが世界を見渡すと、ドイツはじめ特に欧州の自動車業界では、技術研究組合による戦略をうまく使って、競争前共同研究の優位な開発体制を築いている。ここに日本も追随しなければという議論が、冒頭で述べたオールジャパンの技術研究共同組合設立につながった。

 では、なぜ今さら内燃技術なのか、ディーゼルなのか――。現実問題として世界の石油エネルギーの半分を消費するのが自動車であり、今後も自動車の主力がガソリンやディーゼルによるエンジンという時代は、まだ30~50年は続くと見られている。電気や水素といった新しい動力源にしても、現実的にはハイブリッド方式がまだまだ有効である。エンジン燃焼効率をほんの1%でも上げることができれば、全体に及ぼす効果は絶大なのだ。

 「やはり内燃機関はまだまだ重要です。技術研究組合の開発目標をめぐって、我々も自動車メーカーの方々とずいぶんと議論を重ねてきました。現在の燃焼効率は、ガソリン39%、ディーゼル42%程度ですが、どちらも50%まで引き上げられると見据えています。CO2排出量もさらに30%削減を目標に据えています。これは非常に高い目標の数字で、達成するために取り組まなければならない開発課題はまだたくさんあります」(大聖教授)

革新的な機械工学を核に多彩な展開

 次世代自動車研究機構は、3つの研究所(図1)を内部に設置してスタートした。当面の取り組みとして、機構長の大聖教授が所長を務める燃焼・伝熱工学研究所は、SIPの革新的内燃技術・損失低減チームを、草鹿仁教授が所長を務める自動車用触媒研究所はAICEのディーゼルエンジンの排ガス浄化プロジェクトを率いていく。中垣隆雄教授が所長を務める自動車用電動パワーシステム研究所は、新しい公共交通システムとしての電動マイクロバスの研究開発を推進していく。

図1 次世代自動車研究機構の研究体制/3つのプロジェクト研究所

西早稲田・理工キャンパス内の内燃機関実験設備

 「機械工学系の革新的な研究開発を展開し、これまでにない高効率レベルの内燃技術を確立していくのが目標です。エンジンの研究開発は大きな資金を要する分野ですが、2つの大型プロジェクトの受託予算で、現在の実験設備を倍増するために西早稲田キャンパスにスペースを確保して準備を進めています。自動車の心臓部であるエンジン開発で最先端の研究に取り組むには、とてつもない時間と労力と資金がかかります。コンピュータで精緻なシミュレーションができれば、開発期間やコストをぐっと圧縮できます。草鹿仁教授の高度なコンピュータシミュレーション技術を駆使した開発システムの確立も、産業界への重要な技術移転課題です。内燃機関の研究成果をさらにハイブリッド燃焼法の研究へと結びつけ、燃料電池、さらには応用化学系の新燃料開発なども含めて、次世代自動車技術を包括的に手がけていくことが目標です」(大聖教授)

百年の歴史を誇る内燃機関研究

1981年に開始された早大モビリティシンポジウムも毎年開催を続けて第34回を迎えた(主催:早大モビリティ研究会、代表は大聖教授)。自動車関連業界のOBや、教員、学生を中心に毎年300人近い参加者が一堂に集う。

 内燃技術の分野において、早稲田大学は長い歴史を誇る。機械工学科に内燃機関研究室が開設されたのが1918年――4年後には百年を迎える。論文業績等でも他に追随を許さない実績を築いてきた。また卒業生の人脈も自動車業界をはじめ厚い広がりを見せている。

 「国の評価委員の方々のサイトビジットでも、本学の体制や設備などに対して高い評価の手応えをいただいています。卒業生の人脈が自動車業界に厚い広がりがあり、早大モビリティ研究会という組織や早大モビリティシンポジウム(写真)の活動などに結実しています」(大聖教授)

 産学連携においては研究面と同時に、人材育成も重要な活動の柱である。現役の学生、大学院生たちを、最先端の共同研究の現場で育て、産業界を支える人材として送り出していくこと、また自動車業界からも社会人大学院生を積極的に受け入れ、より高度な研究開発力を育成することも使命である。まだ活動の端緒に着いたばかりの、同機構の今後の展開に注目したい。

関連リンク

次世代自動車研究機構
燃焼・伝熱工学研究所
自動車用触媒研究所
自動車用電動パワーシステム研究所
早稲田大学 理工学術院