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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

エネルギー、健康医療の先進社会を
ナノテク医理工連携で拓く

ナノ・ライフ創新研究機構

 世界最高水準の大学を創出するために文部科学省が20世紀初頭に導入した競争的大学政策「COE(センタ―・オブ・エクセレンス:中核的教育研究拠点)」は、これまで21世紀COEプログラム(→文部科学省ホームページ)(2002-2008)、グローバルCOEプログラム(2007-2014)を展開し、その所期の役割を果たした。現在は次の新しいフェーズ、産業界と大学がタッグを組んでチャレンジングでハイリスクな研究開発テーマに取り組み、日本の未来ビジョン実現に貢献することを目指したCOI(センタ―・オブ・イノベーション)政策のフェーズへと移行している。

 バックナンバー記事でも紹介してきたが、早稲田大学も多数の21世紀COE、グローバルCOE拠点が採択された。その多くが、COEの成果をベースとして新たな研究機構や研究センタ―、COI事業等へと発展し、世界レベルの戦略的重点領域を形成している。そうした発展的拠点形成の1つとして2014年10月に設置されたのが、ナノ・ライフ創新研究機構である。

 同研究機構は、従来のナノ理工学研究機構(2003年度設置)と、先端科学・健康医療融合研究機構(ASMeW;2004年度設置)を発展的に統合するかたちで創設された。ナノテク分野で早稲田大学が医理工にわたる多分野で展開してきた先進的研究成果を再統合し、先進的社会応用を見据えた次のステージへ向けて、さらにスケールアップされた横断的連携、産学連携を組織化していくことがその使命である。機構長を務める逢坂哲彌・理工学術院教授に話を聞いた。

研究機構長を務める逢坂哲彌・理工学術院教授

基盤系、デバイス系の8研究所を擁して

 ナノテクノロジーは、情報通信、環境・エネルギー、ものづくり等、幅広い分野を横断的に支える基盤技術として発達を遂げてきた。ナノテクは、これまで世界に存在しなかったような革新的な材料や技術を生み出し、従来の技術体系を根源的に刷新するようなイノベーションを起こしうる。

 「本学には、物理、化学、材料系の研究で長い歴史と蓄積があり、多分野の研究者の連携によるナノテク研究への取り組みには、早くから活発な動きがあり、3年~5年程度の時限で区切られた研究拠点を次々とマネジメントしてきました。現在は、本学のもてる資源を広く結集しながら、長期的な視野でナノテク研究体制をマネジメントしていく段階に入ったと考えています。求められているのは、社会に強いインパクトを持ったイノベーションを創出する“場”の形成です」(逢坂教授)

 これまでのナノテク基盤研究の主な取り組みを振り返っても、ナノからメソレベルの実践的化学の確立を目指したグローバルCOE拠点「実践的化学知」、先端設備を揃え産業界の熟練技術者とともにナノテク研究開発のソリューションを提供するナノテクノロジーファウンドリー事業、多数の教員が分野横断型研究を展開する材料・デバイス・システム連携開発研究センターの設置、そして80年近くの歴史を誇る各務記念材料技術研究所のナノテクの蓄積と、枚挙にいとまがない。これら基盤研究の流れと、再生可能エネルギーや蓄電池などエネルギー系の研究の流れ、医理工連携を推進してきた先端科学・健康医療融合研究機構(ASMeW)の取り組みなどを束ねて、包括的な研究開発体制を構想し推進することが、ナノ・ライフ創新研究機構の役割である。

 新たな研究体制は、図1のとおりスケールの大きなものである。研究組織は、基盤系ではナノ・メソ材料基盤研究所群としてナノテクノロジー、メソスケール材料の2つの研究所が、デバイス系では、ナノテクデバイス研究所群としてグリーンデバイス、低消費電力光インターコネクション、次世代蓄電エネルギー、ナノプロセス、ライフサポートイノベーション、規範科学(レギュラトリサイエンス)の6つの研究所が設置され、それぞれ第一人者として活躍しかつ連携研究にも豊富な実績を有する研究リーダーが率いる。(詳細は同研究機構パンフレット参照)

図1 ナノ・ライフ創新研究機構 研究開発体制

グリーンエネルギー、スマートライフを柱に

 社会応用として大きくエネルギー分野、健康医療分野へのゴールを見据えつつ、グリーンデバイス、エネルギー、ライフサポート、革新的マテリアルの4つの重点領域が掲げられている。このビジョンのもとで、各研究所が相互に連携しながら様々な研究開発を進めている。

 近年、グリーンエネルギー分野では、電子デバイスの超消費電力化や化学プラントの低温動作化、高効率化のための触媒、ナノ~メソスケールでの新規構造体等の開発が活発に行われている。こうした超省エネ技術のブレークスルーにおいて、早稲田大学の優位なナノテク研究成果を活かしたグリーンデバイスの研究開発が目指されている。なかでも蓄電池の開発は、社会的要請の高い重要テーマである。2020年までの電力小売自由化、発送電分離化などの規制緩和を受けてスマートグリッドの世界を実現するうえで、高効率蓄電池の実現は不可欠である。

 「本学は、政府のALCAプロジェクトの蓄電池基盤プラットフォーム(→国立研究開発法人物質・材料研究機構ホームページ)に採択されており、次世代電池材料を適用した評価用蓄電池の試作を通じて、産学共同研究のプラットフォームとしての役割を果たしていきます。電池メーカー、自動車メーカー、材料メーカーなど異種産業分野の水平連携を組織し、実用レベルまで持っていく研究開発に取り組むのは、大学では初めてでしょう」(逢坂教授)

 文部科学省 地域資源等を活用した産学連携による国際科学イノベーション拠点整備事業(→文部科学省ホームページ)の採択を受けて、東芝、トヨタ自動車など異業種複数企業との産学連携で、高容量高信頼性低コスト蓄電システム開発のための新規電池材料の研究開発環境、材料評価・性能評価環境の構築に取り組んでいる。すでにこの分野で主導的取り組みを展開している次世代自動車研究機構や、スマート社会技術融合研究機構との連携体制も盤石である。

 また、本庄キャンパスが立地する埼玉県の先端蓄電システム研究開発プロジェクト(→埼玉県ホームページ)も進行中である。地域のフィールドを実際に使って、住宅地、商業地、工業団地等あらゆる地域に活用できる蓄電システムの開発に、新神戸電機、三菱電機、埼玉県の中小企業などとの連携で取り組んでいる。

図2 先端電池開発における早稲田大学の優位性

図3 蓄電池研究開発用の最先端の設備機器類

 一方、医療に代表されるライフサイエンス分野では、生体の構造・機能などを解明する分子イメージング技術や、生体内の分子を直接操作する技術、低侵襲な診断・治療機器への応用技術、薬剤を標的細胞へ到達させるドラッグデリバリー技術等への応用など、ナノテクによる医療のイノベーションは留まるところを知らない。医療はもちろん、健康・予防の領域にも、ナノテクの活用可能性は広がっている。

 「健康医療分野でのナノテクの実装範囲は、いまや“ものづくり”から、“人らしさの追求”へと、大きくシフトしつつあります。医療はもちろん、人々の日常生活のすみずみにバイオセンサが入り込んで生体情報を検知し、それがネットワークでつながり、認知症予防から健康・美容までビッグデータ分析などにもつながっていく。そのためには、半導体センサのコストダウンも課題です。アメリカのバイオベンチャーと組んで、使い捨てセンサの開発にも取り組んでいます」(逢坂教授)

 半導体バイオセンサ開発を中心とする事業は、「スマートライフセンシングイノベーション拠点(→文部科学省ホームページ)」として、文部科学省 革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)事業のサテライト拠点採択を受け、大型研究資金を得るとともに、早稲田キャンパス内にスマートエナジーシステム・イノベーションセンターが完成した。

図4 IoT (Internet of Things) / IoE (Internet of Everything) 社会における半導体バイオセンサの活用

図5 スマートエナジーシステム・イノベーションセンタ―2014年12月完成(地上5階、延床面積1,743㎡)

未来志向の戦略的な研究体制へ

 こうしたダイナミックな産学連携研究体制づくりの背景には、日本の先端技術が経験した苦い過去の教訓がある。図6は、これまで日本がトップシェアを取ってきた技術が、いかに短期間で韓国や中国などのフォロアーにシェアを奪われてきたかを示している。

 「シェアが奪われるスピードがどんどん速くなっているのが分かります。自動車用のリチウム電池はいま、かろうじてこの位置にいます(図右端)。蓄電池ではこうした現象が起きないよう、市場化、標準化まで見据えた、戦略的な研究開発体制を固めていく必要があるのです」(逢坂教授)

 いわゆるバックキャスティング型(未来志向)の研究戦略のもとで、社会に大きく貢献するナノテクノロジーの研究開発体制の確立を目指す――ナノ・ライフ創新研究機構の今後の取り組みに期待が大きい。

図6 電子デバイス機器における日本企業の世界シェア
(小川紘一「新・日本型イノベーションとしての標準化・事業戦略(11)」初出、内海和明が加筆)

関連リンク

早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構(旧 ナノ理工学研究機構)
早稲田大学 理工学術院
早稲田大学 理工学術院総合研究所
早稲田大学 ナノテクノロジープラットフォーム
早稲田大学 ナノテクノロジーフォーラム