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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

「和解と共生」をキーワードに
地域研究のグローバルな統合展開へ

地域・地域間研究機構

 早稲田大学では21世紀の国際的研究大学への体制強化を目指して、2005年頃から重点領域において学際的な研究機構や研究所を次々と発足させ(WASEDA研究特区バックナンバーを参照)、2009年度にはこれらを統括する重点領域研究機構が設置され、学内競争的研究プロジェクトの推進支援体制が強化されてきた。そして最近は、この10年間の成果を踏まえてさらなる発展と新陳代謝を図るべく、研究体制の統合再編の取り組みがめざましい。

 地域研究の分野も、いち早く研究機構が発足してきた領域である。人文・社会科学系の研究者を中心に、アジア研究機構(2005-)、日米研究機構(2005-)、イスラーム地域研究機構(2008-)、日欧研究機構(2009-)が次つぎと設置されてきた。そして2015年4月、これらのうち重点プロジェクトが継続中のイスラーム地域研究機構を除く3つの研究機構を横断的に統合し、グローバルな視点に基づく地域研究の相乗的発展を意図して、地域・地域間研究機構が新たに設置された。新研究機構の研究体制や目標、具体的な活動計画について、研究機構長を務める吉野 孝・政治経済学術院教授に話を聞いた。

地域・地域間研究機構長を務める吉野 孝・政治経済学術院教授

国家とも個人とも違う「地域」という単位

 地域研究とは、地域を単位としながらその歴史、文化、政治、経済、法、宗教など、あらゆる領域にかかわる研究を指す。狭義の地域研究は、戦後のアメリカによる占領地の経済復興や民主化研究に端を発し、途上国研究や植民地研究を中心に発展してきた。1970年代以降は、学際化が進み多様な発展を遂げてきている。

 「従来の地域研究は、地域の問題は地域で独立して完結するという考え方で成立してきたのですが、いまや地域の問題はすべてグローバルに他の地域と関連して動いています。例えば、アジアを考えるには米国研究が必要だし、日米関係を考えるうえでも中国の問題は無視できない。今日必要とされる地域研究に取り組もうとすると、グローバルな“地域間”の関係に着目せざるを得ないのです。今回、3つの研究機構を統合しようという背景には、以前から重複してきた関心領域を共有し、研究を相互連携させたいという必然的な流れがありました」(吉野教授)

 グローバル化が進む中で、地域研究の重要性はますます高まっている。そこでは、特定の地域に限定された細分化された地域研究でもなく、また伝統的な学問領域での研究とも異なる、新しいアプローチが必要とされている――そうした問題意識の共有のもと、統合再編が行われた。

 「なぜ今あらためて地域研究が重要なのか。その理由を突き詰めて考えると、地域という単位は、国家とも個人とも違うきわめて特殊な原理に基づく存在だからです。例えば、政治学や経済学の主流は“国家や個人という単位は合理的選択論に基づいて意思決定し行動している”という前提で成り立っていますが、地域を単位としたときには、とたんに合理的選択論は効力を失います。安全保障にしても、米国と日本、米国と中国と、国家間の交渉は成立しても、アジアという単位になると整合性がつかなくなる。地域とは、単なる国家の集合でも個人の集合でもない、もっと歴史や文化が複雑に絡み合った特殊な背景によって存立しているのです」(吉野教授)

各研究ユニットは、すでに地域間学の基盤となる多数の業績を蓄積している。
(左:アジア研究機構の定期刊行誌『ワセダアジアレビュー』/中:日米研究機構の研究員による出版物より/右:日欧研究機構の定期刊行物“Japanese journal of European Studies”)

「地域間学」の確立を目指して

 新しい研究体制を志向しながらも、従来の3つの研究機構はそのまま研究ユニットとして移行され、さらにそれらを構成していたプロジェクト研究所もその下に承継されている。今回さらに、アフリカ研究ユニットが加わっているのも特徴的である。各研究ユニットはこれまでの研究活動をさらに発展させる一方で、総合研究機構やイスラーム地域研究機構、米国NPO日米研究インスティテュートとも連携しながら、共同研究プロジェクトを組織していくという体制になっている(図1参照)。

図1 地域・地域間研究機構 研究体制と共通テーマ

 図1に示されたように、「和解と共生」というキーワードの下で、アジア、アメリカ(北米・中南米)、欧州、アフリカ、中東諸国の地域間関係と共生可能性という、まさにグローバル社会のあり方そのものを追究することが、地域・地域間研究機構のミッションである。

 「地域間関係の共通項を歴史を遡って辿ったとき、対立の後にやがて相手の文化や思想を受容し平和が訪れる――それは多くの場合、力による支配や強制であったわけですが――、そうした歴史の繰り返しが地域という姿を形づくってきたといえます。これを現代のグローバル社会が抱える諸問題の解決へ向けて、“和解と共生”の歴史として捉え直し、国際社会と学術研究に貢献しうる地域間研究を推進していくことを目標として位置づけました」(吉野教授)

 さらに研究活動の4つの柱として、①アジアの視点からの学際的な地域研究および地域間研究の拠点形成、②グローバル共有知の発見・創出と教育および社会への還元、③研究者・実務家の交流の場の形成と若手研究者の育成、④世界のWASEDAとしての国際展開の促進、が掲げられている。

 「これまでの地域研究は、歴史や文化、政治の研究者が牽引してきた傾向が強かったけれども、これからは経済や経営の研究者にも中核的な役割を担う研究領域を開拓してほしい。特に若手研究者にとっては、グローバル社会をしっかりと見据えながら、独創的な研究活動が展開できる格好のフィールドとなるはずです。“地域間学”と呼ぶべき新たな地域研究を確立していくためには、各分野から優秀な研究者の積極的な参画を求めていきたい。そのためには、ここでなければできない学際的テーマ、異分野の研究者や海外研究機関との交流機会の充実など、魅力ある研究環境と若手育成の仕組みを整えていく必要があると考えています」(吉野教授)

全学150名の研究者をネットワーク

 地域・地域間研究機構に参画する研究者は、各ユニットを構成する教員だけでも120名、ポスドク研究員や研究機構の専任研究員を含めると、150名近くにも上る。その専門分野は、従来の人文・社会科学のみならず、理工学などにも及ぶ。

 「科学技術もまた地域研究には不可欠な領域です。今日の社会の発展と科学技術はもはや切り離せないし、原子力や環境問題などは国際政治の重要なテーマでもある。あるいはまた技術史の観点からみれば、西洋の科学技術だけが正統なのではなく、イスラームの科学技術の伝統もまたきわめて高い文化水準を誇っており、歴史的な影響力を持っていたことも見逃せない重要なテーマです」(吉野教授)

 研究ネットワークは全学に広がるが、一方で、これまでの組織運営の経験を活かして、各研究所所長参加の運営委員会で多くの参加者の発言を求め全体の方針を審議している。他方で、「身軽な運営組織」を目指して、各ユニット長から構成する幹事会、研究やシンポジウムを共同開催するための企画委員会、ホームページ・ジャーナル委員会を組織し、重要案件を迅速に決定し処理している。

 2015年5月26日には、ORIS*キックオフセミナーが、6月27日には第1回ORISシンポジウムがそれぞれ開催された(写真参照)。各研究ユニットや研究所では、毎週のように様々なイベントを開催している。また秋にはORIS研究週間と銘打って、様々なセミナーやイベントを集中的に開催する計画もある。いくつもの地域研究の流れがさらに大きく統合されていく今後の展開に期待が大きい。
(*研究機構の英語略称:Organization for Regional and Inter-regional Studies)

エリス・クラウス教授(カリフォルニア大学サンディエゴ校)を招いてのORISキックオフセミナー「Japan and Asia: Japan’s Role in the Changing Global Order ―The Abenigma? The Mysteries of Japan’s Foreign Policies Under Prime Minister Shinzo Abe」(2015年5月26日、小野記念講堂)

ジョルダン・サンド教授(ジョージタウン大学)を招いての第1回ORISシンポジウム「歴史認識問題と国際社会:『日本の歴史家を支持する声明』が意味するもの」

関連リンク

早稲田大学 地域・地域間研究機構
早稲田大学 アジア研究機構
早稲田大学 日米研究機構
早稲田大学 日欧研究機構
早稲田大学 総合研究機構
早稲田大学 イスラーム地域研究機構
日米研究インスティテュート