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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

「情報と生産の融合」を先駆け
アジアに開かれた研究拠点を形成

情報生産システム(IPS)研究センター

北九州学術研究都市には早稲田大学を含めて4つの大学と多数の企業等が立地する

 早稲田大学が北九州キャンパスを開設し、大学院情報生産システム研究科をスタートさせたのが2003年――それから十有余年が経とうとしている。北九州市が主導する北九州学術研究都市(以下、学研都市)という意欲的な大学都市構想に賛同し、北九州空港や福岡空港からアジア諸国への交通利便性、北九州地域の産業集積のポテンシャルなど、この地の立地優位性を活かし、高い独自性と競争力を有する教育・研究拠点の形成を目指してきた。

情報生産システム研究科が当初から掲げてきたキーコンセプトは、「情報と生産の融合」――。最近話題の「インダストリー4.0」「スマートファクトリー」「インダストリアルインターネット」といったキーワードが登場するよりも前から、情報技術による生産のイノベーションを見据えた教育と研究に先駆的に取り組んできた。精鋭の教員陣をこの地に送り込み、新しい潮流のための学際融合型フィールドを目指す同研究科は、情報アーキテクチャ分野、生産システム分野、集積システム分野に27名の教授・准教授を擁し、アジア諸国からの多数の留学生を中心に460名余りの大学院生が修士・博士課程に在籍する。

 その一方で、これらの教員が横断的な研究プロジェクトを組織している点も特徴的だ。研究科開設以来、東京の教員らとも連携しながら、国家レベル、グローバルレベルの研究活動はもとより、北九州市のバックアップのもと、北九州学術研究都市を拠点とした文部科学省の知的クラスター事業「システムLSI技術とナノサイズセンサ技術による環境新産業の創成」(文部科学省ホームページ)(2002~2006)への参画をはじめ、地域の産業集積と関連の深い研究活動も様々に展開してきた。

情報アーキテクチャ+生産システム+集積システムの3分野から構成される研究科

 こうした研究活動の礎は、当初、北九州キャンパスの設置を主導した理工学総合研究センターの九州サテライトが築いてきたが、その後2007年4月に情報生産システム(IPS)研究センターとして生まれ変わり、研究科の教育研究活動とも歩を一にしながら、共同研究のみならず地域連携・学校連携などを含めた社会連携全般の活動を展開してきた。同研究センター長であり、情報生産システム研究科長も務める、吉江 修・理工学術院教授に話を聞いた。

北九州と世界をつなぐハブとして

研究センター長を務める吉江 修教授

 IPS研究センターのミッションは大きく、(1)アジアに開かれた国際的水準の研究拠点形成、(2)九州地区に集積する自動車産業やLSI産業の知的高度化への貢献、(3)将来を担う若者、特に地元の高校生に理学・工学の面白さを学んでもらう機会の提供、(4)学内外の研究機関や企業との共同研究、大型プロジェクトへの参画、社会人向け・市民向け公開講座、技術セミナーや展示会の開催などの地域貢献・社会貢献などまで、幅広く射程に入れられている。

 こうした活動の柱の1つが、IPS国際連携シンポジウム(ISIPS: International collaboration Symposium on IPS)の開催である。研究科開設当初から、海外の大学・研究機関との研究交流の機会を活発に持ってきたが、2007年からシンポジウムという名称を付けて、国内外から広く研究者の参加を募る国際会議として毎年11月に北九州キャンパスで開催しており、2015年で第9回目を迎えた。毎年、アジアの提携校を中心とする海外著名大学から約100名、国内を含めると約200名程度の参加者が集まり、2日間に渡って当研究科および各参加機関の共同研究成果や最新技術・研究動向を口頭プレゼンやポスターで発表する。ここでは、各国各大学からの参加者の方々に横断的な交流の機会を提供し、研究センターのメンバーたちは積極的に交流の仲介役を務める。

情報生産システム(IPS)研究センター

「IPS国際連携シンポジウムは一大イベントに育ちました。学術研究にだけ閉じている国際会議ではなくて、この北九州学術研究都市に開かれたイベントとしての独特の雰囲気があります。北九州市からは開催支援の助成金をいただくなど、全面的にバックアップいただいていますし、市長や副市長など要職の方が毎年ゲストで参加されるなど、とても良い関係が形成されています。昨年のシンポジウムからは、地域連携活動として従来開催してきた産学交流サロン〈ひびきのサロン〉との合同開催というかたちを取って、地元の企業や工場の見学ツアーなども織り込むなど、学研都市の国際会議という位置づけへとさらに見直しを図っています」(吉江教授)

 さらにユニークなのが、地元の高校生や高専生もポスター発表に参加しており、しかも英語で発表しているということだ。この点は、各校の先生方にも、生徒の可能性を伸ばす貴重な機会としてたいへん喜ばれている。国際連携、地域連携に加えて、地域の学校との連携という要素も組み込まれており、専門分野の国際会議でここまでの開かれた取り組みは珍しいといえる。

「情報生産システム研究科にはこれからの時代を担う情報生産システム技術の最先端の教育研究環境があって、アジアのトップランクの大学を卒業した優秀な学生が集まってくるのですが、地元の高校生の皆さんにもこの雰囲気をぜひ肌で感じてもらいたい。工学系志望の若者を増やし、ゆくゆくは本研究科でさらに学び、地元の産業に貢献するような人材を増やしていくことも、研究センターの重要な活動として力を入れています」(吉江教授)

IPS国際連携シンポジウムの開催模様

IPS国際連携シンポジウムにおける日本文化の体験

地域の優位性を活かす展開へ

地元中学校生徒たちの実験室見学

 研究センターを構成する教員らはそれぞれに、(国)新エネルギー・産業技術総合研究機構(NEDO)、経済産業省、(独)科学技術振興機構(JST)、文部科学省、そして北九州市、(公財)北九州産業学術推進機構(FAIS)などから大型・中型の研究助成を受けて、半導体材料、自動車部品、水素センサ、MEMS、LSI設計、生産ロボットの高度化知能化など様々な研究プロジェクトを推進している。この他、早稲田大学独自の連携研究制度「プロジェクト研究」の仕組みを活用、企業や他大学・研究機関との共同研究プロジェクトが多数組織されている。

 研究のための設備は、研究センター内だけでなく、学研都市全体で利用できる共用設備なども整えられている。北九州市の外郭組織である北九州産業学術推進機構(FAIS)が、学研都市に立地する大学・研究機関、企業からの要望を集約しながら、設備の導入・管理運営を行っている。

「FAISは北九州市とも連携しながら、素晴らしい研究支援活動をしてくださっています。今後は、北九州市に立地していることをもっと活かして、地域の産業集積との組織的連携を強化していきたいと考えています。これまでも教員の研究室レベルでの連携は様々行ってきましたが、より面的な連携ができるよう共同研究プラットフォームとしての環境を整備したい。例えば、企業が新規事業のフィージビリティスタディを行う場として活用しやすいような仕組みなども整えていきます」(吉江教授)

 北九州地域では重点分野として特に自動車に力を入れており、学研都市においても立地する3大学の学生が誰でも受講できるカーエレクトロニクスの連携大学院なども開講され、自動車メーカーのエンジニアを客員講師で招くなどしている。

「我われも自動車分野は今、力を入れていきたいところです。本学も東京の方では、燃焼系、次世代エンジンなどの研究開発に高い優位性を持っていますが、ここ北九州キャンパスではソフトウェア、人工知能の技術開発に力を入れていきます。北九州地域ではスマートグリッドなどの先進的な実証実験も住民を巻き込んで行われてきていますし、ここ学研都市では無人自動走行車の実証実験などもすでに行われています。自治体や住民の意識も高く、次世代交通の実験フィールドとしての優位性があります」(吉江教授)

 アジアのハブとしての優位性、地域の産業集積や先進的実証実験区域としての優位性、そして何よりも地域の未来を構想しようとする北九州市の熱意のもとで、情報生産システム研究センターのさらなる挑戦に期待が大きい。

地元自動車工場でのエンジン分解・組立演習

北九州学術研究都市での自動走行デモ

関連リンク
早稲田大学 情報生産システム(IPS)研究センター
早稲田大学大学院 情報生産システム研究科
早稲田大学 理工学術院
北九州学術研究都市