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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

学際・国際・臨床を三本柱に
変容する社会の総合的研究拠点へ

先端社会科学研究所

 21世紀を迎え、先進国では経済成長の鈍化や人口減少・少子高齢社会への転化が顕著となり、また一方で民族対立やテロ、大規模災害などの予期せぬリスクに対する社会基盤の脆弱さも露呈している。グローバル化した世界は、複雑で不安定な時代に突入している。政治、経済、労働、生活、文化、教育、思想、国際関係、地域、コミュニティ、風土、気候…、あらゆる側面において、20世紀とはまったく異なる社会問題と対峙せざるを得ない。「回復力(レジリエンス)」や「社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)」といった、新しい概念に基づく社会制度を構想していくことが、重要課題となっている。

 世界の変容とともに、学問の世界にも変容が迫られている。既存の縦割りの学問では現代社会の諸問題に対応できないことから、20世紀後半には「学際性」といわれる他分野融合の取り組みが盛んになり、地域研究、環境学、情報学…などの学際的領域が次々と確立されてきた。しかしこうした新領域もいったん定義され確立されてしまうと、新しい変化への対応が鈍くなってしまうという問題も抱えている。細分化された領域の高い専門性と、広範な問題領域との縦軸・横軸のダイナミックな研究体制の編成は、ますます流動的とならざるを得ず、学術研究には「時代と併走しながら研究テーマやプロジェクトを編成していく」体制と研究能力が要請されている。

 そうした中で、1966年の創設以来半世紀にわたり、学際的な教育と研究を追求してきたのが、早稲田大学社会科学部である。政治学、経済学、法学、商学、社会学、文学、歴史学、哲学、理工学など、様々な専門分野の教員を擁する総合的な学部として、大学院社会科学研究科(1994年修士課程、1996年博士後期課程を設置)とともに、「社会科学総合学術院」を組織している。

 そして社会科学部50周年を迎えた2016年度、社会科学総合学術院の附置研究所として「先端社会科学研究所」が創設された(2016年3月設置)。独自のアプローチを基礎に、冒頭に述べたような社会的諸問題への中長期的な研究アプローチを追求する同研究所の取り組みについて、副所長を務める厚見恵一郎・社会科学総合学術院教授に話を聞いた。

先端社会科学研究所副所長を務める厚見恵一郎教授

社会科学部50周年ロゴマーク

附置研究所としての強みを生かす

図1 社会科学総合学術院の将来ビジョン

「社会科学総合学術院の基本理念は、〈学際化〉〈国際化〉〈臨床化〉の三本柱から成ります。政治学・経済学・法学・商学・人文学・工学などそれぞれの専門の見地を、学際的かつ国際的に融合させて現代社会の諸問題への理解の方法や解決策を模索し、社会構想力をもって地域社会や国際社会に望ましい社会のデザインを提示していく、ひいては〈社会科学の臨床化〉につなげていくことが将来へのビジョンです(図1)。〈臨床化〉とは、社会と実践的に関わる研究活動を重視し、今必要とされる研究成果を生み出すことのできる学問であること――これは社会科学部の伝統的な特徴でもあります」(厚見教授)

 附置研究所としての先端社会科学研究所には、3つの強みがある。第1に、テーマや期間を限定したプロジェクト型の研究所ではなく、社会科学全般にわたる広範な基礎研究を含む恒常的な研究組織として機能すること、第2に、教育組織である大学院や学部と一体化していることで、研究と教育の相互フィードバックが図れ、若手研究者育成の場として機能すること、そして第3に、同学術院の伝統的な強みである教員のボトムアップな発意による応用学際的な研究を、全教員を巻き込みながら組織的に推進していくプラットフォームとして運営できることである。

「幅広い専門分野を背景とする教員が、総合的社会科学の教育研究を意識しつつ、イシュー(課題)ベースにプロジェクト研究グループを自発的に組織する――従来の自由なスタイルを尊重しつつ、60名以上の教員を巻き込む学術院全体の取り組みとして研究活動を発展させ、基礎研究・臨床研究の両面で新しい方法や理論を体系化し、国際的にも発信していくことを目指しています」(厚見教授)

ボトムアップなテーマ編成を重視

 研究所発足と同時に、国際的課題を扱う「グローバル・イシュー」と、社会工学的なアプローチで現代諸問題に取り組む「ソーシャルデザイン」の2つの研究部門の下、教員からのボトムアップな提案を受けてプロジェクト研究グループが組織され、研究活動をスタートしている(図2)。2つの研究部門は、大学院の2つの専攻(地域社会論/政策科学論)とも緩やかに対応している。

図2 組織図

 プロジェクト研究グループは現在、①制度の総合社会科学(研究代表:吉田敬専任講師)、②社会デザインの理論と方法の開発プロジェクト(研究代表:篠田徹教授)、③近世・近代ヨーロッパにおける「社会科学」の形成――哲学、歴史学、思想史学からの複合的アプローチ――(研究代表:厚見恵一郎教授)、④アジアの中の日本(研究代表:劉傑教授)、⑤メコン地域開発とアジア・ダイナミズム――ASEAN後発国発展の政治経済学的研究(研究代表:トラン・ヴァン・トゥ教授)、⑥「人権侵害としての社会的排除とその救済方法」研究(研究代表:西原博史教授)の、6つが発足している。アジアを軸としたフィールドレベルで国際社会における諸問題を考察していく視点、地域社会に根ざした問題への処方を社会科学的に分析していく視点が、これらグループに特徴的である。

「6つのテーマを見ただけでも、研究方法や研究対象の学際性、臨床性がうかがわれると思います。これだけ多様なプロジェクトがボトムアップ的にスタートしている点に、当研究所の特性がみられるといえます」(厚見教授)

 各グループでは様々な具体的テーマが設定され、研究活動が展開されている。例えば、②社会デザインのグループでは、早田宰教授らが中心となって、東日本大震災の被災地をフィールドに予期せぬ社会変動に対峙する福祉社会とは何かを調査分析するとともに、社会デザインの核となる「レジリエンス(回復力)」という概念の理論的・実証的な再構築に取り組んでいる(図3)。

 また、④アジアの中の日本では、劉傑教授をリーダーに内外の研究員を組織し、日本あるいはアジアという概念を、アジアにおける日本研究、日中関係の歴史などから再検討し、そのアイデンティティを問い直す研究を目指している。⑤メコン地域開発では、トラン・ヴァン・トゥ教授の専門であるベトナム経済開発史を基軸に、東アジア・ダイナミズムの観点から今後の経済開発や人的資本開発の課題を抽出することを目指している。

図3 被災地復興の適応可能キャパシティとレジリエンス(回復力)概念の再検討 [早田宰「レジリエンス(回復力)のある福祉社会へ向けて」早稲田大学東日本大震災シンポジウム(2016/4/9)発表資料より]

開かれた共同研究の場を目指して

 開設初年度には、東アジアにおける歴史認識をめぐる国際シンポジウムや、東日本大震災復興シンポジウムを主催・共催(写真)するとともに、科学技術振興財団の援助を受けてブータン王立大学から教授と学生を招聘しての研究交流、インドネシア、スリランカ、東ティモールから実務家を招いての国際ワークショップも予定されている。

「今後は、フィールドでの強みにくわえて、方法や理論の面でも社会科学の総合化についての研究を進め、社会科学系の学際的研究の交差点・拠点として、研究者相互や学生とくに大学院生をつなげる役割を果たしていきたいと考えています」(厚見教授)

 新時代の附置研究所として、他の学術院や学外・海外の研究者たちとのオープンな共同研究の場としての活動を目指していくという。変容する社会を科学する総合研究拠点としての活動に期待が大きい――。

早稲田大学社会学部創設50周年・先端社会科学研究所開設記念国際シンポジウム「アジアにおける地域研究とグローバル問題解決への貢献」(2016/4/23 於・早稲田大学大隈記念小講堂)。葛兆光・復旦大学教授、マーク・カプリオ立教大学教授の招待講演、両人に加えて劉傑教授をはじめ、社会科学総合学術院の多彩な専門分野の教員とのパネルディスカッションが実施された。

関連リンク

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早稲田大学 社会科学総合学術院
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