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石井 昌幸/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授  略歴はこちらから

うらやましい英国のフットボール文化

石井 昌幸/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

 いまさらながら、イングランドはフットボールの国だと思う。大学の研究期間を利用して、この国に滞在して9ヶ月がたつ。友人の一人はマンチェスター・ユナイティッドのファンなのだが、いつもきまり悪そうに言い訳する。「いや、オレはマンチェスター出身だから、ちいさい頃からユナイティッドを見て育ったんだ。」別なマンチェスター生まれの知人は、「私は、ユナイティッドは嫌い。マンチェスターっ子はシティ・ファンのほうが多いのよ」と、こちらは胸を張る。「レイトン・オリエントって知ってるか? オレは子供の頃からずっと応援し続けているんだ」と、ロンドン生まれの同僚は、リーグ1(3部に相当)に所属する地元クラブのサポーターであることを語るとき、いつも誇らしげだ。

 2部から1部(プレミアリーグ)への昇格をかけたプレーオフも、3部から2部への昇格をかけた試合でさえも、BBCで生中継され、「聖地」ウェンブレー・スタジアムが7~8割は埋まる国。結局私も、地元クラブのシーズン・チケットを買って、自宅から歩いて20分ほどのスタジアムに通うことにした。

 この街は、かつて名古屋でもプレーしたガリー・リネカーの出身地で、彼はここで、プロとしてのキャリアをスタートした。たまたま知り合ったおばあさんは、息子さんがリネカーとクラスメートで、家に遊びにきたことがあると自慢する。「ほんとうに礼儀正しい、いい子だったのよ。」

 そのリネカーは、いまやBBCの長寿番組「マッチ・オブ・ザ・デー」の顔である。司会者リネカーのほかに、元サッカー選手が毎回3人ほど出演して、その日の試合について伝える。日本ならさしずめタレントや女子アナが起用されるところだろうが、司会者もコメンテーターも、元サッカー選手だけ。内容もかなり専門的だ。私の国なら深夜枠だろう。得点シーンだけではなく、入らなかった場面も取り上げて、こまごまと分析する。審判に対しても容赦はない。「まったくバカバカしいジャッジだと思います」と、きっぱり。だが、良い判定についても「ウェルダン・レフ(よくやった審判)」と紹介するし、コメンテーター間で意見が割れることもある。「これは、本当はPKですね。」「いや、レフリーが正しいですよ。」そんなこんなの議論が、テレビで、新聞で、街角のパブで、シーズン中毎週毎週繰り返されるのだ。

 「黄金世代」が不本意な惨敗を喫してしまったイングランドだが、やはり私には、この国のフットボール文化がうらやましくて仕方がない。いつか日本でも、カズやゴンが司会する硬派なサッカー専門番組が受け入れられないだろうか。そうしたら日本のサッカーは、きっともっと上に行ける気がするのだが。

石井 昌幸(いしい・まさゆき)/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

早稲田大学教育学部体育学専修卒業、京都大学人間・環境学研究科ヨーロッパ文化地域環境論専攻修了。広島県立大学専任講師を経て現職。専門はスポーツ史。主な論文に「ラグビーでみるイギリス社会史」、『季刊民族学』(国立民族学博物館編)所収、「フィールドのオリエンタリズム」、『スポーツ』(ミネルヴァ書房)所収など。