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菅野 由弘/早稲田大学理工学術院・表現工学科教授・作曲家  略歴はこちらから

「アジア音楽祭2010 in 東京」

菅野 由弘/早稲田大学理工学術院・表現工学科教授・作曲家

 この10月1日から6日まで、東京都文化発信プロジェクトの一環として、「アジア音楽祭」が開かれた。東京都が主催、(社)日本作曲家協議会、東京藝術大学などの共催によって6日間に渡り、8つのコンサート、シンポジウム、ワークショップ、レクチャーなどが行われ、アジアと日本の、音楽による文化交流として大きな成果を上げた。

東京フィルハーモニー交響楽団

 特にこのフェスティバルでは、作曲家の自作自演を前提とした「ピアノコンサート」、「オーケストラコンサート」「デジタルミュージック in アジア」(いわゆる電子音楽やコンピュータ音楽と呼ばれるジャンルのコンサート)、「合唱コンサート」が行われ、ヴェトナム、韓国、中国、台湾、香港、ニュージーランド、オーストラリア、イスラエル、マレーシア、シンガポールから30名の作曲家が来日し、それと日本の作曲家35名の作品が一堂に会し、演奏されたことは大きな収穫をもたらした。今や、国が違っても、情報量や使うツールにはほとんど差がない時代になった。オーケストラもコンピュータも皆が普通に使える。が、こうして一堂に会して見ると、やはり音楽も気質も皆違い、多士済々、実に多彩で面白い。

薬師寺の伎楽

 第三夜の「指揮者は作曲家」と銘打った東京フィルハーモニー交響楽団による「オーケストラコンサート2」は、香港、韓国、台湾、日本の作曲家が、自作を指揮して演奏し、会場を大いに沸かせた。同じオーケストラが演奏していると思えないほどの多彩さに驚くと共に、その様々な作品と作曲者の表現の違いを見事に弾き分け、しかも大変な力演を見せてくれた、東京フィルハーモニー交響楽団に、改めて拍手を送りたい。

邦楽器の大オーケストラ

 また、今回のテーマが、アジア音楽祭であるにも関わらず「和の音と心」という事で、オーストラリアの作曲家が作曲した尺八の曲や、100人に及ぶ邦楽器の大オーケストラのコンサートが行われ、薬師寺による伎楽「三蔵法師 求法の旅」なども上演された。これは、伝統的な雅楽を用いて芝祐靖氏が作曲した音楽と、古典的な香りのする「伎楽」による舞と芝居、語りが織りなす世界、かつての日本とアジアを結んだ時代を彷彿とさせるものであった。

尺八のワークショップ

 こうして、各国の作曲家が、演奏者としても日本に参集し、演奏するという企画は、本当の意味の「交流」をもたらし、また、近隣の同時代に生きる音楽が、それぞれ独自性を色濃く持っている事を再認識する良い機会となった。そして、人間同士としては「極めて近しい間柄」であることを確認した6日間であった。

菅野 由弘(かんの・よしひろ)/早稲田大学理工学術院・表現工学科教授・作曲家

東京芸術大学大学院作曲専攻修了。79年「弦楽四重奏曲」がモナコ・プランス・ピエール作曲賞。94年、電子音楽「時の鏡Ⅰ ―風の地平」がユネスコ主催IMC推薦作品、02年「アウラ」でイタリア放送協会賞受賞。作品は、国立劇場委嘱の雅楽、聲明、古代楽器のための「西行―光の道」(春秋社刊)、NHK交響楽団委嘱のオーケストラ「崩壊の神話」、NHK大河ドラマ「炎立つ」、NHK「フィレンツェ・ルネサンス」など。