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坂上 桂子/早稲田大学文学学術院教授(文化構想学部)  略歴はこちらから

日本のアートシーン 第六回

グローバル化時代における日本のファッションと「嵐」

坂上 桂子/早稲田大学文学学術院教授(文化構想学部)

 羽田空港に到着すると、「Welcome to Japan」と「嵐」が私たちを迎えてくれる。「嵐」の写真を見ると日本に帰ってきたなと、つくづく思う。特別研究期間の間しばらく日本を離れていたが、長期間の不在はその感覚をなお強くする。グローバル化が進む今や、世界中で美術・音楽・映画など、いずれの分野でも同じような文化を共有しているように感じられるが、それでも日本にしかない「美的」感覚というのは確実に存在するようだ。

 たとえばファッション。ニューヨークもパリもソウルも、今や大都市ではどこでも同じブランドの店舗が出店し、人びとは似たようなファションを身に着けている。とりわけユニクロの世界的大規模展開が象徴するように、ファストファッションが占める割合が拡大することでその差は益々なくなったといえよう。にもかかわらず、都市のもつ「個性」はファッションにも確かに認められるのである。

 この半年滞在していたソウルには、中国人、日本人観光客が多く訪れるが、日本女性の姿は若者から年配の人まで一目でわかることが多い。顔立ちや体格からではなく、服装の違いからすぐに見分けがつく。「チュニック」に「重ね着」。こうした着こなしはパリなどでも見かけるが、日本人ほど多く徹底して誰もが着ているわけではない。パリでもソウルでも従来通りのパンツにTシャツ、あるいはワンピースなどより保守的な姿が目立つ。

 ソウルへ行った当初、どのブランドを見ても、デザインがとても凝った洋服が多いのに驚いた。タックもプリーツも切り替えも何もない単純なデザインのワンピースやスカートは見つからない。装飾ファスナーやポケットなど、様々な要素が付加されとにかく過剰なデザインが多いのである。日本で単純なデザインに慣れている私には、洋服はとても買えないように思われた。

 ところがあるとき、韓国人の学生が私に言った。「日本人は複雑な洋服の着方をしますが、韓国人はスッキリした着こなしが好きなんです」。日本のデザインはスッキリしていて、韓国のデザインは複雑だとばかり思っていた私には思っても見ない感想でびっくりした。だが言われてみれば、確かに明洞を歩いている日本人ほど「複雑な」洋服の着方をしている韓国人はあまり見ない。日本女性はタイツやレギンスの上にシャツやチュニックなど、何重にも色々洋服を「重ね着」している場合が断然多いのである。

 髪型も同様である。はじめてソウルを訪れたとき、街中、Kポップのお兄さんたちがいるのかと思ったほど、韓国の男性たちは前髪をおろし額を隠したスタイルをしている。「嵐」のメンバーのようなレイヤーの入った髪型は日本の若者たちに特徴的なものだ。

 東京に戻り雑踏の中を歩くと、ソウルで特別な服装に見えたファッションが街中を彩っていることに気付く。複雑な重ね着も、「嵐」風の髪型も、日本独特のファッションのようである。そういえば韓国で「日本で好きな歌手は誰か」を聞いたら、年配の男性から若い女性まで「嵐」と答えた人が一番多かった。「嵐」には、日本文化の代名詞として世界的に知られるようになった「かわいい」イメージがどこかあるように思うが、彼らが好まれるのは、同じアジアでありながら隣国にもない日本独自のイメージだからかもしれない。

1、漢陽大学助教イ・チュンヒさん 同大学大学院ムン・アルムさん

2、漢陽大学助教イ・チュンヒさん

3、漢陽大学助教イ・チュンヒさん

4、早稲田大学助手 内藤李香さん

5、早稲田大学学生 島田杏子さん

6、早稲田大学大学院生 武田一文さん、玉井貴子さん、田中麻帆さん

坂上 桂子(さかがみ・けいこ)/早稲田大学文学学術院教授(文化構想学部)

早稲田大学第一文学部美術史学専修卒業、同大学院文学研究科を経て現職。専門は近現代美術史。主な著書に『夢と光の画家たち-モデルニテ再考』スカイドア(芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)、『ベルト・モリゾ-ある女性画家の生きた近代 』小学館など。