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真保 晶子/早稲田大学社会科学総合学術院助教
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2011年に読む、柳 宗悦『手仕事の日本』(1948年)

真保 晶子/早稲田大学社会科学総合学術院助教

 イギリスに滞在していた時、初めて会った人がなつかしそうに日本について語ってきたことが何度かあった。私が住んでいた下宿にやって来た大工さんは、日本の書道が好きで、習っていたといい、ロンドンの雑貨店のレジ係の若者は、アニメが好きだ、日本語を習いたい、とアニメソングを歌ってくれた。彼らは、日本へ行ったことがないが、日本をよく「知っている」。だから、精読した本の著者に初めて会うように、ひとりの見知らぬ日本人になつかしさをもって接したのである。同じことを、私自身も感じることがある。アフリカやアジアや世界中の様々な手仕事を見たときは特に。

 柳宗悦の『手仕事の日本』は、1940年(昭和15年)前後の日本全国の手仕事の現状について、太平洋戦争中に執筆され、戦後の1948年に出版された。青少年に向けて書かれたが、一般の人々にも役立つのではないかと著者は序論で述べている。第1章で、「自然」・「歴史」・「固有の伝統」をもとに、品物の背景を説明した後は、東北から沖縄までの各地の手仕事が紹介される。そして最終章で、なぜこれらの手仕事が「正しく」「美しい」のかを、「職人の功績」・「実用の美」・「健康の美」という3点をもとに平易な言葉で民藝論が展開される。とりわけ、著者は、東北を「手仕事の国」と呼び、「日本にとって実に大切な地方」と断言し、最も多くの頁を費やしている。

 世界の中の日本を考える上で印象的なのは、固有のものを重視する余り、他の文化に対し優劣をつけてはいけないと注意を促す著者の言葉である。「もし桜が梅を謗(そし)ったら愚かだと誰からもいわれることでしょう。国々はお互に固有のものを尊び合わねばなりません。それに興味深いことには、真に国民的な郷土的な性質を持つものは、お互に形こそ違え、その内側には一つに触れ合うもののあるのを感じます。この意味で真に民族的なものは、お互に近い兄弟だともいえるでありましょう。」いわば、ふるさとが世界になるのではなく、世界がふるさとになるのである。

 あらゆる「デザイン」は、過去からの積み重ねによって確立されてきたと同時に、空間を越えて影響し合うと私達は知っている。つまり、「デザイン」という光の矢は全速力で走っているが、そこには時間軸という「縦槍」が貫いている。同時に、空間軸という「横槍」が四方から絶えず突き刺さってきてくれるのだ。それを受け取ったり、抜き返したりしながら、そのまま疾走を続ける。そのようなイメージを私は描きながらこの本をもう一度この年に読んだ。

柳 宗悦『手仕事の日本』(初版は1948年、靖文社から出版。岩波文庫版は、1985年発行。)

真保 晶子(しんぼ・あきこ)/早稲田大学社会科学総合学術院助教

2007年ロンドン大学ロイヤルホロウェイ歴史学研究科博士課程修了(PhD)。2010年4月から現職。専門は、18-19世紀イギリス文化史・社会史・デザイン史。ロンドン大学での博士論文をもとにした単行本Furniture-Makers and Consumers in England 1754-1851: Design as Interactionは、Ashgate Publishing (UK) から出版される予定である。論文に、「生産者と消費者の対話としてのデザイン ― 18世紀後半イングランドの注文家具生産の事例」(『デザイン史学』第9号、2011年)などがある。